労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  広労委平成29年(不)第2号
PALTAC不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  平成30年2月23日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合と団体交渉することなく、昇給額の発表を行ったこと、②組合員のみ現在の給与金額で契約更新の手続をすること及び会社が把握している組合員に誤りや漏れがあれば連絡するよう通知したこと、③組合本部役員の会社作業場への立入要求を拒否したこと、④団体交渉において、組合掲示板設置要求に対して発言した内容、が不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件で、広島県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合と団体交渉することなく、会社が昇給額の発表を行ったことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点1)
 組合は、平成28年12月22日、A2書記長が会社の団体交渉の窓口であるB4総務課リーダーに電話で、緊急団体交渉の年内開催を促した際に、今回の団体交渉は危険行為一点で行うので、賃金問題などその他の議題については後日書面で申し入れる旨を伝えたと主張する。
 しかし、本件審査におけるA2書記長及びB4総務課リーダーの各供述からは、平成29年4月1日からの昇給を議題とすることを同書記長が同リーダーに伝えていたと認めることはできない。また、会社が平成29年昇給の発表を行うまでに、組合が同日からの昇給を議題とする団体交渉の申入れを行ったことを認めるに足る疎明はない。
 また、会社が平成27年以前にパート社員の昇給を行った事実はなく、会社と組合との間に、昇給を含む労働条件について、事前協議を行うことを約する労働協約あるいは労使慣行があったことを認めるに足る疎明もない。加えて、労働条件の変更を行う場合において、会社側から組合に団体交渉を申し入れる義務があるとは解されていない。よって、会社が平成29年昇給について組合との団体交渉を経ずに昇給発表を行ったことは不当労働行為に該当しない。
 以上のとおり、会社が平成29年昇給の発表を行う時点までに、組合が平成29年4月1日からの昇給を団体交渉事項とする団体交渉申入れを行ったと認めることはできないこと、昇給発表自体は会社の自由になし得ることからすると、会社が平成29年昇給の発表を行ったことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当しない。
2 会社が、組合員のみ現在の給与金額で契約更新の手続をすること及び誤りや漏れがあれば連絡するよう通知したことは、労働組合法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に該当するか。(争点2)
 連絡文書は、第14回団体交渉において、会社が、交渉が妥結するまでは、一旦、組合員のみ現在の給与金額で契約更新することを提案し、組合が、そういう方法もあり得るが交渉は継続するとのやり取りの後に発せられたものであった。そして、その内容は、組合との団体交渉が妥結すれば妥結した内容に応じた対応をするというもので、これは組合員に不利益が及ぶものではなく、会社としても交渉を継続し、交渉の結果に応じて対応をしようとしていたことが認められる。
 また、使用者がその雇用する労働者のうち誰が組合員であるかを知ろうとすることは、それ自体として禁止されているものではないところ、会社が連絡文書において、会社が把握している組合員に誤りや漏れがあれば連絡するよう求めたのは、現在の給与金額で契約更新の手続をしなければならない組合員を確認するためであったと認められる。
 そうすると、会社が、連絡文書で、組合員のみ現在の給与金額で契約更新の手続をすること、及び会社が把握している組合員について誤りや漏れがあれば連絡する旨の通知をしたことは、団体交渉の形骸化を狙ったものであるとも、組合活動の萎縮、妨害を意図するものとも認められず、労働組合法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に該当しない。
3 会社が、組合の会社作業場への立入要求を拒否したことは、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当するか。(争点3)
 使用者が従業員ではない社外の第三者の会社構内への立入りを認めるかどうかは、原則として、施設管理権の行使として使用者の裁量的判断に委ねられているところ、会社の社員ではない組合本部役員の立入りを拒否したことが直ちに支配介入の不当労働行為に該当するとはいえない。
 そこで、会社が、組合本部役員の立入りを拒否した場所についてみると、会社にとって社内機密があり、大量の商品が積み上けられ、人やフォークリフトが多数行き来する場所であることが認められる。会社がこのような場所への組合本部役員の立入りを拒否したことは、情報管理上及び安全管理上の必要性から相応の理由があると認められ、このほかに、会社が組合活動の妨害を意図して立入りを拒否したとの事情は認められない。
 また、組合は、本件トラブルが組合本部役員の立入りが必要な人命に関わる重大事件であると主張するが、これを認めるに足る疎明はなく、他に立入りの必要性についての具体的疎明もない。
 以上のとおり、会社が、平成29年2月8日付け回答書により、組合本部役員の倉庫内への立入要求を拒否したことは、組合活動を妨害しようとしたものとはいえず、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当しない。
4 団体交渉における組合掲示板設置要求に対する会社の発言は、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当するか。(争点4)
 組合に対する会社の発言が不当労働行為に該当するかどうかは、発言の内容、それがなされた状況、組合の運営や活動に与えた影響、推認される使用者の意図などを総合して判断すべきと解される。
 会社は、組合に対し、便宜供与をしなければならない義務を負うものではなく、そもそも労働組合の会社施設の利用は本来労使間の話合いによって決めるべき事柄であるところ、B6総務部長は、第14回団体交渉において組合掲示板の必要性に関して、組合員数が少ないから連絡手段として必要ないのではないかという意見を述べたにとどまるのであって、少数組合だから掲示板を認めないという趣旨で発言したとまでは認められない。したがって、当該発言をもって直ちに組合を軽視し、組合弱体化の意図をもった支配介入であるとは認められない。
 以上のとおり、第14回団体交渉における組合掲示板の設置要求に対する会社の発言は、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当しない。 
掲載文献   

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