事件番号・通称事件名 |
神労委平成28年(不)第3号 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y1会社、Y2会社 |
命令年月日 |
平成30年2月27日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
|
事件概要 |
本件は、組合が、①組合員A2、A4及びA5の派遣先である被申
立人Y1会社に対してA2らの解雇問題にかかる団体交渉申入れを行ったところ、Y1会社がA2及びA4にかかる団体交渉を拒
否するとともに、A5にかかる団体交渉に誠実に応じなかったこと、②被申立人Y2会社に期間従業員である組合員A6及びA7
の雇止めにかかる団体交渉申入れを行ったところ、Y2会社が誠実に応じなかったこと、が不当労働行為であるとして救済申立て
のあった事件で、神奈川県労働委員会は、Y1会社に対し、誠実団交応諾、①について文書の手交を命じ、その余の申立てを棄却
した。 |
命令主文 |
1 被申立人Y1会社は、申立人が平成27年10月15日付け、同
月23日付け及び同年11月5日付けで申し入れた申立人組合員A2及びA4に関する申立人との団体交渉について、誠実に応じ
なけれはならない。
2 被申立人Y1会社は、申立人組合員A5に関する申立人との団体交渉において、十分な説明を行う等、誠実に対応しなければ
ならない。
3 被申立人Y1会社は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に手交しなければならない。
記
当社が、①貴組合員A2及びA4に関する団体交渉について、両名については団体交渉の対象とは考えていないとして応じな
かったこと、②貴組合員A5に関する団体交渉において誠実に対応しなかったことは、労働組合法第7条第2号に該当する不当労
働行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
平成 年 月 日
組合
執行委員長 A1 殿
Y1会
社
代表取締役 B1
4 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 Y1会社が、A2及びA4については団体交渉の対象とは考えて
いないとして交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。
不当労働行為制度は、使用者の契約上の責任を追及するものではなく、団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として
排除、是正して正常な労使関係に回復することを目的としているから、労働組合法第7条第2号の使用者は、労働契約上の使用者
に限らず、それ以外の事業主であっても、当該交渉事項に関する限り雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的
に支配、決定することができる地位にある者も含むと解すべきである。
A2及びA4は、Y1会社から面談を受けるよう求められたため、Y1会社内において、Y1会社の社員による面談を受けた後
に、C1会社からY1会社での就労が決定した旨の連絡を受けて、C1会社と雇用契約を締結している。すなわち、Y1会社は事
前に面談を行って、A2及びA4の自動車デザインにおけるスキルを確認した上で採用を決定したものであり、C1会社において
も、両名がY1会社の求めるスキルを持っておらず、Y1会社が両名の受入れを決定しなかったならば、両名を採用しなかったも
のといえるから、その限りでC1会社による両名の採用の決定について、Y1会社は深く関わっていたものといえる。
派遣先であるY1会社が、両名にかかる労働者派遣契約を更新しないと決定したからこそ、C1会社がA2及びA4の雇用契約
を終了させたものといえる。
以上のことを踏まえると、Y1会社は、C1会社によるA2及びA4の採用及び雇用の終了に関する決定について、事実上、雇
用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定していたものということができる。
本件の場合のように、派遣先であるY1会社がC1会社との間の労働者派遣契約を解除したことにより、その結果としてC1会
社によりA2及びA4の雇用が終了させられた場合には、Y1会社は、当該紛争をめぐる団体交渉の当事者として、両名の雇用問
題の解決に向けて組合と協議する必要があるというべきである。
また、本件について、派遣元であるC1会社は、組合との団体交渉において、両名の雇止めに至るまでの経緯等については、全
てY1会社の判断に委ねたと述べ、組合との交渉を実質的に放棄している状態にあった。そのため組合は、A2及びA4の復職又
は雇用の確保という問題を自主的に解決しようとして、やむを得ずY1会社に団体交渉を申し入れたといえる。
以上のことから、Y1会社は、A2及びA4の採用及び雇用の終了に関する決定について、雇用主と部分的とはいえ同視できる
程度に現実的かつ具体的に支配、決定していたものと認められ、その限りにおいて、労働組合法第7条第2号の使用者に当たるも
のと判断する。また、Y1会社は、A2及びA4の復職をめぐる労使紛争を解決できる地位と権限を有していると同時に、組合と
の団体交渉によって当該紛争を自主的に解決すべき当事者性も有すると判断する。したがって、Y1会社が、A2及びA4と直接
の雇用関係にないことを理由として、組合との団体交渉を拒否したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
2 Y1会社のA5に関する団体交渉における対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か。
裁判所では、Y1会社とA5との間の黙示の労働契約関係の存否が争われていたのであって、それが裁判所において仮に否定さ
れたとしても、直ちにY1会社の団体交渉応諾義務が否定されるわけではない。また、団体交渉が行われた平成27年12月10
日及び平成28年1月18日時点では、まだ最高裁で審理が行われている最中であり、裁判所の判断が確定していたわけではな
かった。そのため、Y1会社が、裁判所の判断のみを理由として、組合からの要求事項に応じられないと回答したことは、適切な
対応であったとはいえない。
さらに、Y1会社は団体交渉の中で、組合からの要求については、社内で十分議論した上で回答していると説明しており、本件
審問においても、Y1会社の団体交渉担当者であるB12主管は、団体交渉を行うに当たって、法務部門に訴訟の経緯等の説明を
依頼したり、社内で検討を重ねた旨を証言している。しかし、B12主管は、人事や法務部門との話合いや、顧問弁護士との打合
せの回数について質問されても、正確な回数は覚えていない旨の証言をし、担当役員との協議についても、最後に一回だけ確認に
行ったと証言している。このことから、Y1会社が、組合の要求事項について、実際に社内において十分な検討を行ったのか疑問
が残る。
加えて、団体交渉において、Y1会社が組合に対して、Y1会社の主張は裁判で十分に説明している旨を述べたため、組合はそ
の内容について説明を求めた。しかし、Y1会社はこれに答えておらず、本件審問においても、B12主管は、裁判の経過や判決
の内容等については詳しくは知らない旨や、判決文は読んだものの内容を覚えていない旨の証言をしている。このことから、Y1
会社は、団体交渉において、Y1会社の回答は裁判の判断が根拠である旨の説明をしながらも、裁判の内容を熟知しておらずY1
会社側の主張を説明できない者を、団体交渉の担当者として出席させていたといえる。
以上から、平成27年12月10日及び平成28年1月18日に開催された団体交渉におけるY1会社の対応は、不誠実なもの
であったといわざるを得ない。
3 Y2会社のA6及びA7に関する団体交渉における対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か。
組合は、平成27年10月1日に開催された第3回団体交渉において、A6及びA7の地位確認、賃金の支払及び解決金の支払
を要求事項として示しているが、この要求事項は、平成21年3月25日付け「労働組合加入通知ならびに要求書」で組合がY2
会社に対して示した要求事項とほほ同じ内容である。また、裁判における請求とも同じものであり、Y2会社はこの要求事項につ
いて、第1回及び第2回団体交渉の中で応じられない旨の回答をし、それに対する説明も行っていることから、同じ要求事項につ
いて、何度も繰り返し回答及び説明する必要性はない。
また、組合は平成27年11月5日付け「団体交渉申入書」で新たに要求事項を追加したが、Y2会社は、同年12月14日の
第5回団体交渉の中で、いずれも応じられないと回答し、組合のY2会社側から解決金の額を提示してほしいとの要求についても
応じていない。しかし、Y2会社は、対案や解決金の額を示すことができない理由として、A6及びA7の雇用契約は終了してお
り、Y2会社側に雇用及び雇用の確保の義務がない旨を説明し、解決金についても、Y2会社は違法行為を行っていないことか
ら、解決金を支払う理由がない旨を説明している。
さらに組合は、Y2会社が期間従業員を雇止めとした平成21年3月に、B19工場から出向者を受け入れているが、その理由
について、組合に対してほとんど説明をしていないと主張する。しかし、組合がY2会社との団体交渉において、このことを話題
にしたのは第5回団体交渉の中だけであり、その際にY2会社は、受け入れた出向者は新車の立ち上げのための要員で、A6及び
A7の職種とは違う職種の者であることを説明しており、組合もそれ以上の追及は行っていない。また、Y2会社は組合に対し
て、期間従業員を雇止めとした理由については、生産量の大幅な減少によるものであること、雇止めにあたっては、Y2会社とし
てできる限りの再就職支援等を行ったが、A6及びA7はY2会社が用意した再就職支援制度を利用しなかった旨等を説明してい
る。
以上のことから、Y2会社の団体交渉における対応は、不誠実なものであるとはいえない。 |
掲載文献 |
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