労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  兵庫県労委平成28年(不)第4号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y法人(「法人」) 
命令年月日  平成30年2月22日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①被申立人法人が申立人組合に対し、組合機関誌配布活動の自粛を求めたこと及び配布した組合機関誌を回収したこと、②法人が組合機関誌配布活動を行った組合の組合員に対し自宅待機を命じたこと、③団体交渉申入れに対する法人の対応、が不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件で、兵庫県労働委員会は、法人に対し、組合機関誌配布の自粛を求めたり配布した組合機関誌を回収することによる支配介入の禁止、自宅待機命令がなかったものとしての取扱い、団交応諾、①~③について文書の手交を命じた。 
命令主文  1 被申立人法人は、申立人組合が就業時間外に行う組合機関誌配布の自粛を求めたり、配布した組合機関誌を回収したりして、組合の運営に支配介入してはならない。
2 被申立人法人は、申立人組合のA1組合員、A2組合員、A3組合員、A4組合員及びA5組合員に対する平成28年9月6日付け自宅待機命令をなかったものとして取り扱わなければならない。
3 被申立人法人は、申立人組合が平成28年9月8日付けで行った団体交渉の申入れに応じなければならない。
4 被申立人法人は、本命令書写し交付の日から7日以内に、下記文言を記載した文書を申立人組合に手交しなければならない。
                
                         
平成   年 月 日
 組合
  執行委員長 A1 様
法人                       
理事長 B1

 法人が組合に対して行った下記の行為は、労働組合法第7条第1号、第2号又は第3号に該当する不当労働行為であると、兵庫県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないことを警約します。
                
1 貴組合の行う組合機関誌配布の自粛を求めたり、配布した組合機関誌を回収したりしたこと。
2 貴組合のA1組合員、A2組合員、A3組合員、A4組合員及びA5組合員に対し、平成28年9月6日付けで自宅待機を命じたこと。
3 貴組合が平成28年9月8日付けで行った団体交渉の申入れに正当な理由なく応じなかったこと。 
判断の要旨  1 法人が組合に対し、組合機関誌配布活動の自粛を求めたこと及び配布した組合機関誌を回収したことは、組合に対する支配介入に該当するか。(争点1)
 労働組合が組合機関誌を配布することは、対内的には、労働組合の組合員への情報の伝達、組合員の啓発、団結心の昂揚等を目的とし、対使用者関係では、使用者の経営方針及び労務政策の批判、労働組合の要求の表明等として行われるもので、日常的な組合活動の基本とも言えるものであることから、その組合活動としての正当性は、事前に理事長の承認を得ていないことの一事をもって、否定されるものではなく、その内容や配布の態様、配布により法人が被る業務運営上の支障の他、法人が教育機関であることから、配布に当たってなされた法人の生徒に対する教育的配慮等の具体的状況に照らして判断することが必要である。
 配布された本件組合機関誌の内容や、その配布の態様に鑑みると、本件組合機関誌の配布が法人の業務運営に支障を来したとは認められず、また、生徒に対する教育的配慮に欠けていたとも認められないことから、「A6 80号」の回収を求め、組合が回収に応じなかったところ、その日のうちに回収した法人の行為は、行き過ぎであると言わざるを得ない。
 法人は、2年前の本件署名依頼文書の件以来、組合に対して本件組合機関誌の配布を自粛するよう繰り返し要請しているが、この自粛要請の趣旨について、理事長が本件審間において明確には供述していないことに加え、自粛要請に従わずに配布した「A6 80号」を配布直後に法人が自力で回収するという所為に出たことを併せ考えると、法人による自粛要請は、実質的には校内における一切の組合機関誌の配布を禁止する趣旨であると解される。したがって、本件組合機関誌の配布が法人の業務運営上も生徒に対する教育的配慮の上でも問題があるとは認められないにもかかわらず、法人が取った一連の対応は、反組合的動機に基づくものと言わざるを得ず、組合を嫌悪し、組合の弱体化を狙ってなされたものであると認められ、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。
2 法人が組合機関誌配布活動を行った組合の組合員に対し自宅待機を命じたことは、組合の組合員に対する不利益取扱い及び組合に対する支配介入に該当するか。(争点2)
 労働組合法第7条第1号にいう「不利益な取扱い」の不利益とは、減俸、昇給停止等の経済的不利益だけを言うのではなく、広く精神的不利益も含むものと解すべきである。
 A1ら5人は、それぞれ5時間ないし7時間授業を行うことができず、教壇に立てなかったことは、たとえ短期間とはいえ、教育者としての誇りや自負心を損なわせるものであって、精神的不利益を被ったものと認められる。
 また、部活動の顧問を務めているA1ら5人は、9月10日及び11日を合わせて合計4日間、部活動指導ができなかったが、部員である生徒に対し、その理由を説明していないことが認められ、当該生徒に幾ばくかの不信感を与えたことが推認できる。
 以上のことから、精神的不利益を伴う本件自宅待機命令は、労働組合法第7条第1号の「不利益な取扱い」に該当する。
 理事長は、2年前の本件署名依頼文書の件以来、本件自宅待機命令に至るまで、組合活動に対する否定的な感情を持ち続けていたことが推認される。
 本件自宅待機命令は、組合に対する嫌悪の情に基づいて発せられたものと認められる。
 本件自宅待機命令の理由である「A6 80号」の配布は、法人の業務運営上も生徒に対する教育的配慮の上でも問題があるとは認められず、実質的には就業規則違反に当たらないことからすると、当該理由が本件自宅待機命令の合理的な理由に当たらないことは明らかである。
 本件自宅待機命令は、組合活動の中心的人物であるA1ら5人の活動を嫌悪して行われたものであって、A1ら5人が組合の組合員であることの故をもって、又は、正当な組合活動をしたことの故をもって行われたものと認められるので、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当する。
 同時に、A1ら5人に自宅待機を命じた法人の行為は、組合活動の中心を担っている組合役員を対象とするもので、組合の日常活動を阻害し、組合の弱体化を狙う行為であり、同条3号の不当労働行為にも該当する。
3 平成28年9月8日付けの団体交渉申入れに対する法人の対応は、団体交渉拒否に該当するか。(争点3)
 法人は、団体交渉を拒否して懇話会の開催若しくは組合の組合員との個別の話合いをしようとし、又はC6組合の役員が同席する団体交渉を回避しようとしていたものと認められる。
 組合が懇話会の開催に応じた後に断った経緯は首肯できるのに対し、懇話会の開催に固執した法人の対応には、誠実に団体交渉に応じる姿勢は認められない。
 したがって、組合が懇話会の開催を断ったことは、法人が団体交渉を拒否したことについての正当な理由には当たらない。
 組合が団体交渉申入書を持参して理事長に渡そうとしたことに対し、理事長が受領を拒否して団体交渉に応じなかったこと、及び組合が懇話会の開催を断った後に、実施予定であった団体交渉に法人が応じなかったことは、それぞれ正当な理由のない団体交渉拒否に該当するので、9月8日付けの2回にわたる団体交渉の申入れに対する法人の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。 
掲載文献   

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