事件番号・通称事件名 |
都労委平成28年(不)第16号 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
平成29年12月19日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、①会社が、A2を定年退職後再雇用しなかったこと、②本
件離職票の離職理由を「定年後の継続雇用を希望していなかった。」としたこと、③同票の交付を2か月近く遅らせたこと、④会
社の一連の団体交渉における対応、⑤会社が、団体交渉の席で、組合側出席者に対し、もう組合を引退したらどうかなどと発言し
たこと、⑥会社が、団体交渉の席で、組合が当事者となった他の不当労働行為事件や裁判事案に言及したこと、が不当労働行為で
あるとして救済申立てのあった事件で、東京都労働委員会は、会社に対し、定年後再雇用したものとしての取扱い、バックペイ、
誠実団交応諾、①及び④について文書交付・掲示、履行報告を命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 被申立人会社は、申立人組合の組合員A2を、平成27年9月
10日に定年となった後、再雇用したものとして取り扱い、定年の翌日以降再雇用されたならば支払われるはずであった賃金相当
額を支払わなければならない。
2 被申立人会社は、申立人組合が、A2の定年退職後再雇用の賃金を含む労働条件に関する団体交渉を申し入れたときは、これ
に誠実に応じなければならない。
3 被申立人会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合に交付するとともに、同一内容の文書を
55センチメートルx80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書で明瞭に墨書して、被申立人会社の従業員の見やすい
場所に10日間掲示しなければならない。
記
年 月 日
組合
執行委員長 A1 殿
会
社
代表取締役 B1
①当社が、貴組合の組合員A2氏を平成27年9月10日の定年退職後再雇用しなかったこと、②27年9月7日、同月9日、
10月2日、11月12日及び12月10日開催の5回の団体交渉における当社の対応は、いずれも東京都労働委員会において不
当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は、文書を交付又は掲示した日を記載すること。)
4 被申立人会社は、第1項及び前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
5 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 団体交渉について
会社は、65歳までの再雇用を維持するために、規定出勤時の再雇用賃金を減額すると説明するだけで、減額の幅を19%とし
た理由やその妥当性等について何ら示さないまま、平成27年9月11日までに、A2の再雇用労働条件について会社が再提案す
ることはないとの趣旨の回答を繰り返し、第2回団体交渉でも、8月26日に会社が同人に提示した「再雇用嘱託労働契約書」に
署名捺印して9月10日までに提出しないと籍がなくなること、会社が提示した条件で合意するかしないかであること、会社が提
示した条件以上の条件は今出せないことを回答するなど、具体的な根拠を説明することなく、会社が提示した条件に固執し続けた
ことが認められる。
加えて、会社は、9月10日付「ご連絡」で、A2の再雇用労働条件について今後協議していく前提で契約締結をすることはで
きない旨を明確にし、第3回ないし第5回の団体交渉でも同様の回答を繰り返した。
以上のとおり、会社は、A2の再雇用労働条件について、自らの条件を提示するのみで、一切譲歩しない姿勢で交渉に臨んでお
り、それにもかかわらず、自らの提案の根拠や妥当性について、組合の理解と納得を得るよう説明する努力を行っていないのであ
るから、会社には、同人の再雇用労働条件について、組合と実質的な交渉を行う意思がなかったものとみざるを得ない。
また、一連の団体交渉においては、会社が、A5常任顧問を「大御所」と呼んだりするなど、殊更に組合を挑発し、本件と関係
のない不用意な発言をした事実が認められる。
会社は、一連の団体交渉においては、会社が何か発言しようとしても、ことごとく組合の罵声により遮られ、組合は、およそ
A2の再雇用労働条件について真摯に話し合おうという態度ではなかったと主張する。
しかしながら、会社は、A2の再雇用及びその労働条件に関する会社の考えを明確に述べているから、組合が遮ったが故に、会
社が自己の考えを説明できなかったとまでいうことはできない。
また、会社の団体交渉における態度についても、多分に問題があったといわざるを得ず、組合の態度のみを責めるのは相当では
ない。
以上からすると、組合と実質的な交渉を行う意思なく、組合を挑発し、本件と関係のない不用意な発言をした点において、使用
者として、組合を納得させるべく、説明を尽くして、真摯に対応していたものと認めることはできず、会社の対応は、不誠実な団
体交渉に当たるといわざるを得ない。
2 A2に対する不利益取扱いについて
(1)定年退職後再雇用の拒否について
会社が、継続協議すら拒否したのは、結局、A2の再雇用労働条件について組合と実質的な交渉を行うことを嫌い、組合が会社
の提案を無条件で受け入れなかったために、同人と再雇用契約自体を締結しないという不利益な取扱いをしたものといわざるを得
ない。
そうすると、会社がA2を再雇用しなかったのは、同人が組合を通して労働条件の向上を図ろうとしたためであるというほかは
なく、それは、同人が労働組合の正当な行為をしたこと故の不利益取扱いに当たるというべきである。
(2)本件離職票の離職理由について
会社が、本件離職票の離職理由を「定年後の継続雇用を希望していなかった。」としたことから、A2の基本手当の所定給付日
数は150日となり、この所定給付日数は、本件結審日現在においても変わっていない。
会社都合により継続雇用されなかった旨の離職理由を記載していれば、同人の基本手当の所定給付日数は240日であったので
あるから、それが150日となったことに経済上の不利益があるのは明らかである。
また、本件離職票の離職理由が「定年後の継続雇用を希望していなかった。」であったことから、A2の27年度の国民健康保
険税額が、273,600円となり、特定受給資格者に対する軽減措置を受ける場合に比べて177,400円高額となったこと
に経済上の不利益があるのも明らかである。
しかしながら、会社は、飯田橋公共職業安定所に、記載内容について相談するなどしており、本件離職証明書の離職理由を上記
のように記載することによって、上記の経済上の不利益をA2に与えようとする認識が会社にあったと認めるに足りる具体的事実
は見当たらない。
したがって、会社が、本件離職票の離職理由を「定年後の継続雇用を希望していなかった。」としたことは、不当労働行為に当
たるとまではいうことができない。
(3)本件離職票の交付の遅れについて
9月11日以降、A2の雇用の存在について、労使間で継続して交渉がなされており、組合及び同人が離職に納得していなかっ
たことは明らかである上に、その間、組合及び同人は、「雇用保険被保険者離職票」の交付を会社に求めていなかったのであるか
ら、こうした事情から、「雇用保険被保険者離職証明書」を公共職業安定所に提出しなかった会社の対応を責めることはできない
というべきである。
また、「雇用保険被保険者離職票」の交付を遅らせることによって、経済上の不利益をA2に与えようとする認識が会社にあっ
たと認めるに足りる具体的事実は見当たらない。
以上のことから、会杜が、本件離職票の交付を2か月近く遅らせたことは、不当労働行為に当たるとまではいうことができな
い。
3 組合運営に関する発言について
組合は、第3回団体交渉において、会社が、A5常任顧問に対し、もう組合を引退したらどうかなどと発言したことが支配介入
に当たると主張する。
しかし、会社は、これらの発言の直後に、組合から抗議を受け、同発言を撤回し、謝罪している事実が認められるし、同発言
は、団体交渉の応酬の中でのその場限りのやり取りであるから、同発言が、組合運営に対する支配介入に当たるとまで評価するこ
とはできない。
また、組合は、第5回団体交渉において、会社が、組合が当事者である、他の不当労働行為事件や裁判事案について、本件とは
無関係なのに発言したり、組合の名称問題に介入する発言を行ったことが支配介入に当たるとも主張する。
しかし、これらの発言は、団体交渉の応酬の中でのその場限りのやり取りであるし、内容も、特段事実を歪曲したものでないか
ら、同発言が、組合運営に対する支配介入に当たるとまで評価することはできない。 |
掲載文献 |
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