事件番号・通称事件名 |
宮城労委平成28年(不)第1号 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
平成29年12月20日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
|
事件概要 |
本件は、組合が、ビラ配布、ブログ記事の掲載、団体交渉申入れ等
の組合活動を行ったことについて、会社が、①組合の組合員であるA2分会長に対して、組合活動をやめなければ解雇する旨の発
言をしたこと、②組合に対して、組合活動の中止を求める発言をしたこと、③第1回団体交渉の議事録及び合意書の作成並びに第
2回団体交渉の申入れに応じなかったこと、④A2分会長を解雇したこと、が不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件
で、宮城県労働委員会は、会社に対し、誠実団交応諾、団体交渉に関する議事録及び合意書の作成の誠実対応、支配介入の禁止、
A2に対する解雇がなかったものとしての取扱い、原職復帰、バックペイ、②及び③の一部並びに④について文書の交付・掲示を
命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 被申立人は、申立人から平成28年3月30日付けで申入れが
あった団体交渉に誠実に応じ、同年3月17日に開催された団体交渉に関する議事録及び合意書の作成に向けて誠実に対応しなけ
ればならない。
2 被申立人は、解雇を示唆するなど威嚇的な言動によって、申立人が行うインターネット上への情報掲載等の正当な組合活動に
支配介入してはならない。
3 被申立人は、申立人の組合員であるA2に対する解雇がなかったものとして取り扱い、同人を原職に復帰させるとともに、同
人に対して、解雇がなければ原職に復帰させるまでの間に得られたであろう賃金相当額を支払わなければならない。
4 被申立人は、本命令書写し交付の日から7日以内に、下記内容の文書を申立人に交付するとともに、同一内容の文書を日本工
業規格A列3番の白紙に明瞭に認識できるような大きさの楷書で記載し、会社従業員の見やすい場所に7日間掲示しなければなら
ない。
当社が、貴組合の組合員であるA2を解雇したこと、貴組合との団体交渉に応じなかったこと、貴組合に対して、組合活動の中
止を強要する発言をしたことは、宮城県労働委員会により、労働組合法第7条第1号、第2号及び第3号に該当する不当労働行為
であると認定されました。
よって、今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
年 月 日
組合
中央執行委員会委員長 A1 殿
会社
代表取締役 B1
5 申立人のその余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 組合活動の正当性
(1)インターネット上への情報掲載
会社からは、本件ブログの存在を認めるに足りる証拠は示されておらず、会社の主張は採用できない。
なお、インターネット上に存在が確認できるブログ記事の内容は、分会の結成及び活動方針を表明するものであり、会社の名誉
及び信用を違法に侵害するとまではいえず、その掲載は、正当な組合活動の範囲内で行われたと認められる。
(2)組合ビラの配布
組合ビラの内容には、会社が主張するように、確かに、会社の経営者に対する批判が記載されていることは認められる。しか
し、それは、給料遅配等を批判したもの、団体交渉申入れに回答しなかった会社の対応を批判したもの、会社のA2分会長に対す
る解雇通告を批判したものなどであり、会社等の名誉、信用及びプライバシーを違法に侵害したとまでは認められない。
会社からは、組合が、組合ビラを不特定多数人に対して、配布したという事実を認めるに足りる証拠は示されておらず、会社の
主張は採用できない。
よって、組合ビラの配布は、正当な組合活動の範囲内で行われたと認められる。
2 会社が、A2分会長に対して、3月10日に行った発言並びに組合に対して、3月11日及び3月17日に行った発言は、組
合に対する労働組合法第7条第3号の支配介入に該当するか否か。(争点1)
(1)B3取締役の発言からは、組合がインターネット上に掲載した情報について、事実確認をしていないことが認められ、会社
からは、組合がインターネット上に情報を掲載したことが、C2記事に会社情報が掲載された原因であるとの証拠も示されていな
い。
よって、会社が、A2分会長に対して、3月10日に行った発言は、解雇を示唆しつつ、正当な理由がなく、組合がインター
ネット上に掲載した情報の削除を一方的に強要したものであり、支配介入に該当する。
(2)組合は、B1社長に対して、B3取締役の発言の趣旨を問うと、B1社長は、組合がインターネット上に掲載した情報を削
除するか、A2分会長を解雇するかという趣旨であることを述べた。この発言は、A2分会長の解雇を示唆しつつ、組合がイン
ターネット上に掲載した情報の削除を強要したものと認められる。
その発言の相手が、組合員本人でなく、組合役員であったとしても、組合活動に与える影響は明らかであり、会社が、組合に対
して、3月11日に行った発言は、支配介入に該当する。
(3)会社が、組合に対して、団体交渉において、掲示板設置の提案と併せて、組合ビラの配布の中止を求めた発言は、団体交渉
における率直な意見表明に過ぎず、組合ビラの配布の中止を強要したとまでは認められない。
また、組合は、組合ビラの配布をその後も継続していることを考慮すると、会社が、組合に対して、3月17日に行った発言
は、支配介入に該当するとまでは認められない。
3 会社が、組合に対して、3月17日の団体交渉に関する実務手続に応じなかったこと及び3月30日付けの団体交渉申入れに
応じなかったことは、労働組合法第7条第2号の正当な理由のない団体交渉拒否に該当するか否か。(争点2)
(1)3月17日の団体交渉に関する実務手続に対して、会社が応じなかったことについて
確かに、第1回団体交渉を行った直後、会社は、例年以上に多忙な状況となり、この状況は、会社にとっても、予想外の事態で
あったといえる。
しかし、会社は、団交議事録及び合意書の確認が困難な状況であったことを認めるに足りる証拠を示しておらず、会社の主張は
採用できない。
よって、会社が、団交議事録及び合意書の作成に応じなかったことは、会社の主張に正当な理由があるとは認められず、誠実に
対応しようとする姿勢もうかがわれないことから、労働組合法第7条第2号に該当する。
(2)3月30日付けの団体交渉申入れに対して、会社が応じなかったことについて
例年以上に多忙な状況であったことは認められるものの、団体交渉に応じる時間の確保が困難な状況であったことを認めるに足
りる証拠を示しておらず、会社の主張は採用できない。また、A2分会長は、第2回団体交渉申入れの回答期限である4月5日の
時点では、まだ会社従業員であったことが認められる。
よって、第2回団体交渉の申入れに対して、会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。
4 会社が、4月4日にA2分会長に対して、組合活動をやめなければ1か月後に解雇する旨を述べたことは、組合に対する労働
組合法第7条第3号の支配介入に該当するか否か。(争点3)
A2分会長に対するB1社長の発言の趣旨は、解雇を示唆しつつ、組合活動の中止を強要したものであったと認められる。
本件ブログが存在するという会社の主張は採用できず、また、インターネット上に存在が確認できるブログ記事の掲載は、正当
な組合活動の範囲内で行われたと認められる。さらに、組合ビラの配布についても、正当な組合活動の範囲内で行われたと認めら
れることから、組合活動が違法であるという会社の主張は採用できない。
よって、会社が、4月4日にA2分会長に対して、組合活動をやめなければ1か月後に解雇する旨を述べたことは、正当な理由
がなく、正当な組合活動の中止を強要するものであり、支配介入に該当する。
5 会社が、A2分会長を解雇したことは、組合員であることを理由とする労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか
否か。(争点4)
本件ブログについては、存在するという会社の主張は採用できない。また、組合ビラの配布については、正当な組合活動の範囲
内で行われたと認められ、解雇は違法な組合活動を理由とするという会社の主張は採用できない。
分会結成以来、会社は、組合活動に対して、A2分会長の解雇を示唆しつつ、組合への批判及び組合活動の中止を求める発言を
繰り返した事実が認められる。
解雇通告及び解雇通知書の交付の際にも、会社は、A2分会長に対して、解雇の理由を具体的に説明した事実は認められず、組
合活動を中止するか、組合から脱退するかを迫り、また、組合に対する批判を繰り返した事実が認められる。
以上のことから、A2分会長の解雇は、正当な理由がなく行われたものであり、かつ、会社に強い組合嫌悪の情が認められるこ
とから、A2分会長が組合員であることを理由として行われたといわざるを得ず、不利益取扱いに該当する。 |
掲載文献 |
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