労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  沖労委平成27年(不)第3号
日本コンセントリクス(株)、あいおいニッセイ同和損害保険(株)不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(「組合」)、X2(個人) 
被申立人  Y1会社、Y2会社 
命令年月日  平成29年12月7日 
命令区分  却下、棄却 
重要度   
事件概要   本件は、Y1会社が雇用するX2をY2会社と締結した労働者派遣契約により同社に派遣するなどしていたところ雇止めをしたことがY1会社及びY2会社による不当労働行為であるとして、組合結成時からの組合による団体交渉申入れに対するY1会社の対応が不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件で、沖縄県労働委員会は、平成26年3月26日以前の団体交渉申入れに係る申立てについて却下し、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 申立人らの申立てのうち、平成26年3月26日以前の団体交渉申入れに係る申立てについては却下する。
2 申立人らのその余の申立てを、いずれも棄却する。  
判断の要旨  1 本件雇止めについてのY2会社の労働組合法第7条の使用者該当性(争点1)について
(1)X2は、Y2会社に派遣されることを前提にY1会社との間で労働契約を締結し、派遣先であるY2会社の指揮命令下で稼働していたことが明らかであって、X2とY2会社との間で明示の労働契約はもとより黙示の労働契約も成立しているとは認められない。
 また、申立人らは、X2がY2会社の指揮命令下にあることをもって、Y2会社との労働契約が成立している旨主張するけれども、そもそも労働者派遣とは、自己の雇用する労働者を当該雇用関係の下に、かつ他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいうのであって、他人の指揮命令を受けることは法律上許容ないし予定されているのであり、X2がY2会社の指揮命令下にあることをもって、X2とY2会社との間に労働契約が成立しているということはできない。
(2)X2が労働契約を締結したのはY1会社であって、契約期間の延長や賃金額の変更という重要な労働条件はすべてY1会社との間で合意されており、Y2会社をX2の雇用主とみる余地はない。Y1会社とY2会社との間の労働者派遣契約上も、Y2会社がX2を雇止めする権限を有しているとは認められない。また、本件過誤発生後にX2が本件異動となっているところ、かかる異動の判断をしたのはY1会社であって、Y2会社はその報告を受けたにすぎない。このようなところからすると、Y2会社が雇止めの権限を有していたとは認められないし、Y1会社がX2に対する本件異動ないしその後の本件雇止めを決定するについて、Y2会社の関与があったとは認められない。
(3)以上のとおり、Y2会社については労働組合法第7条の使用者に該当するとは認められないから、Y2会社を不当労働行為の主体として捕捉する申立ては失当であって理由がない。
2 本件雇止めの労働組合法第7条第1号該当性(争点2)について
(1)平成22年7月にY1会社に入社後、X2は、電話応対スタッフとして勤務するために同期7人と3か月間にわたる初期研修を受け、X2を除く同期全員が当初の契約期間である4か月以内に独り立ちしているにもかかわらず、X2だけが電話応対を修了できなかったこと、ようやく平成24年12月に電話応対スタッフとして独り立ちできたものの、3か月の間に5件の苦情が寄せられたこと等が認められる。
 これらの事実に照らせば、Y1会社がX2の業務遂行能力が十分でないと判断したことが不合理であるとは到底いうことができない。
 以上のとおり、Y1会社が、X2の業務遂行能力を十分でないと判断したことが不合理とは認められないから、これを理由とする本件雇止めが不合理とはいえない。
(2)申立人らは、本件雇止めはX2が組合員であることの故をもってなされたと主張するけれども、Y1会社が組合を嫌悪していたとする組合の主張は、具体性に乏しい上にこれを認めるに足りる証拠もない。
(3)以上のとおり、本件雇止めは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いには該当しない。
3 組合からの団体交渉申入れに対するY1会社の対応の労働組合法第7条第2号該当性(争点3)について
(1)本件申立ては平成27年3月27日になされたものであるから、同26年3月26日以前の団体交渉申入れに係る申立てについては、労働組合法第27条第2項により申立期間を経過しているため、却下せざるを得ない。
(2)Y1会社は、組合の団体交渉の申入れに対しては、いずれも組合が設定した回答期限内もしくは期限の猶予を求めて速やかに回答している。その回答は、就業時間内・事業所内では応じられないとした上でその理由を説明し、就業時間外・事業所外であれば団体交渉には応じるというものであった。そして、Y1会社は、組合に対し、組合が求めた団体交渉日程とはそれほど離隔しない日程を定めて就業時間外・事業所外施設での団体交渉の開催を具体的に提案することもしている。
 これらによれば、組合の団体交渉の申入れに対しては、Y1会社は、就業時間内外及び事業所内外という点で組合の要請とは異なるものの、組合との団体交渉の開催実現に向けて誠実に努力していたと評価できるというべきである。したがって、本件については、組合とY1会社との間で団体交渉が一度も開催されなかったことのみをもって、Y1会社が団体交渉を拒否したものということはできない。
(3)組合は、Y1会社に対し、組合結成を通知すると同時に団体交渉の申入れを行ったものの、団体交渉は一度も開催されていない。そうだとすれば、組合とY1会社の間には、団体交渉のあり方についての慣行は全く形成されておらず、団体交渉に関する特段の取決めや合意なども存在しなかったものと認められる。
 また、就業時間内・事業所内の団体交渉に応じられない理由としてY1会社が主張するのは、労働者は就業時間内には職務専念義務があり、組合から通知のあった組合側団体交渉員は全員がY1会社からY2会社へ派遣されている派遣労働者であって、同人らが団体交渉を行えばその間同人らは業務を行えず、Y1会社はY2会社に対する労働者派遣契約の債務不履行となること、組合が団体交渉の場所として指定するB4事業所内にある会議室はY1会社の専用スペースでもなく業務スペースと薄い壁で仕切られた部屋であり、団体交渉において議論が展開された場合には業務に支障が生じるというものであって、このようなY1会社の説明には特段不合理な点は見当たらない。
 このように、本件においては、就業時間内・事業所内に団体交渉を行う慣行も合意も存在しない以上、組合が就業時間内・事業所内での団体交渉の開催を当然に求めることはできないし、就業時間内・事業所内の団体交渉の開催が困難な理由としてY1会社が挙げる理由には特段不合理な点はない。
 したがって、本件団体交渉申入れにおいて、就業時間内・事業所内での団体交渉の申入れに対するY1会社の対応には合理性が認められる。
(4)Y1会社が提案した日時は、午後6時30分ないし午後7時30分に開始し午後9時30分までに終了するというものであり、勤務を終えて会場に移動するのに十分な時間が確保されるとともに、開始時刻が特段遅いわけでもなく、また、終了予定時刻についても団交時間を2時間とするものであり、特段不合理な点はみられない。
 また、Y1会社が提案した事業所外施設は、会社から直線距離で約1キロメートル以内に位置し、本県の交通事情からすれば、時間的及び経済的に過重な負担を課すものとは認められない。事業所外施設の会場使用料1,500円については、その金額が大きなものではないことに加え、Y1会社と組合との交互の費用負担を提案していることからすれば、費用負担の点において、組合に格別の不利益を与えるものとも認められない。
 したがって、Y1会社が提案した代替案の内容は、組合が団体交渉に参加することを困難にするものとは認められない。
(5)以上のとおりであって、組合からの本件団体交渉申入れに対するY1会社の対応は、労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否に該当しない。 
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