概要情報
事件番号・通称事件名 |
平成28年道委(不)第14号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y法人(「法人」) |
命令年月日 |
平成29年9月22日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、①団体交渉の申入れが校長の修学旅行引率による不在時になされたことを理由に組合の執行委員長A1と書記長A2を口頭注意したこと、②定期昇給及び賞与の支給方法の変更について計10回の団交要求に応じなかったこと、③夏期賞与において計4回の団交において誠実な協議に応じなかったこと、④春闘に係る議題につき組合との間で合意がないことを理由にして夏期賞与を支給しないこと、が不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件で、北海道労働委員会は、法人に対し、支配介入の禁止、口頭注意をなかったものとしての取扱い、誠実団交応諾、①、②の一部、③及び④について文書の掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 被申立人は、校長が修学旅行の引率のため不在のときに申立人からなされた団体交渉の申入れに対し、就業規則第9条第3号の「学園の秩序又は規律を乱すこと」に該当するとして、申立人の執行委員長A1及び書記長A2に口頭注意をするなどして、申立人の運営に支配介入してはならない。
2 被申立人は、申立人の執行委員長A1及び書記長A2に対して平成27年11月26日に行った口頭注意をなかったものとして扱わなければならない。
3 被申立人は、定期昇給及び賞与の支給方法の変更を交渉事項として申立人が申し入れた団体交渉を拒否してはならない。
4 被申立人は、申立人が申し入れた定期昇給及び賞与の支給方法の変更並びに平成28年度の定期昇給及び賞与を交渉事項とする団体交渉において、要求事項に対し自らの見解の内容や根拠につき資料を提示するなど具体的かつ明確に示して申立人の納得を得るよう努力して、誠実に団体交渉を行わなければならない。
5 被申立人は、定期昇給及び賞与の支給方法の変更などの春闘に係る議題につき申立人の合意がないことを理由として、夏期賞与の支給予定日を経過しても、当該賞与を支給しないなどして、申立人の運営に支配介入してはならない。
6 被申立人は、次の内容の文書を縦1メートル、横1.5メートルの白紙にかい書で明瞭に記載して、被申立人が運営するB2高等学校の正面玄関の見やすい場所に、本命令書写し交付の日から7日以内に掲示し、10日間掲示を継続しなければならない。
記
当法人が、貴組合に対して行った次の行為は、北海道労働委員会において、労働組合法第7条第1号、第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。今後、このような行為を繰り返さないようにします。
記
1 貴組合が、平成27年10月30日付け要求書で団体交渉を申し入れたことに対し、就業規則第9条第3号の「学園の秩序又は規律を乱すこと」に該当するとして、貴組合の執行委員長A1及び書記長A2に対し同年11月26日に口頭注意をすることにより、同人らを不利益に取り扱うとともに、貴組合の運営に支配介入したこと。
2 貴組合から、定期昇給及び賞与の支給方法の変更を交渉事項として申し入れられた団体交渉を拒否したこと。
3 貴組合から、定期昇給及び賞与の支給方法の変更並びに平成28年度の定期昇給及び賞与を交渉事項として申し入れられた団体交渉において、要求事項に対して自らの見解の内容や根拠につき資料を提示するなど具体的かつ明確に示し貴組合の納得を得るよう努力せず、誠実な対応をしなかったこと。
4 当法人が、平成28年度夏期賞与について、定期昇給及び賞与の支給方法の変更などの春闘に係る議題につき貴組合の合意がないことを理由として、支給予定日を経過しても、当該賞与を支給しないなどして、貴組合の運営に支配介入したこと。
平成 年 月 日(掲示する日を記載すること)
組合
執行委員長 A1 様
法人
理事長 B1
7 申立人のその余りの申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 法人が組合の委員長らに口頭注意したことは、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に当たるか(争点1)。また、法人の上記行為は、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たるか(争点2)。
① 本件団交申入れは、定期昇給及び賞与の支給方法の変更を議題とするものであり、労働者の労働条件に係るものであって、目的において正当であることはいうまでもない。また、校長が修学旅行の責任者として引率中の不在時に団交を申し入れているが、使用者は常に組合から要求された日時に団交を行わなければならないわけではなく、組合と協議の上日程を調整することが可能であるから、本件団交申入れの時期が不当であるということもできない。
よって、本件団交申入れは、労働組合の正当な行為に該当する。
本件口頭注意は、就業規則では懲戒処分として定められていないものの、職場内の規律違反に対する制裁という点では懲戒処分と比肩しうるものであること、今後の団交申入れなどについても申入れの時期などが不適切であるという理由で委員長らに対する懲戒処分が行われる可能性を示唆するものであること、今後の人事評価や評価賞与等において消極的事情として考慮されるおそれがあること等を併せ考えれば、不利益な取扱いに該当すると解するのが相当である。
理事長において、委員長らに対し、教員以前にその人格さえ疑わざるをえない愚行を繰り返していると告げた上、拡大職員会議において、これまで組合には不穏当な言動が認められたので委員長らを口頭で注意し猛省を求めたと公表していることは、組合及び組合員に対する謂われない誹謗であり、かかる理事長の言動から、法人の反組合的意思を認めることができる。
よって、法人の委員長らに対する本件口頭注意は、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当する。
② また、本件口頭注意は、組合の団交申入れその他の組合活動を萎縮させ、組合を弱体化させるものであるから、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。
2 法人は、定期昇給及び賞与の支給方法の変更などを議題とする10回にわたる団交の申入れに応じなかったか。また、応じなかったとする場合、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか(争点3)。
① 定期昇給及び賞与の支給方法の変更は、組合員の労働条件その他の待遇に当たることから、義務的団交事項に当たることは明らかである。
法人は、平成27年9月11日付けの要求等合計6回につき、意見交換又は団交には応じられないと回答し、あるいは何ら回答することがなかった。
上記6回の申入れに対する法人の対応は、明らかに団交拒否に該当する。
団交を行わないとした理由について、法人は、今回提案した評価制度の変更は就業規則の不利益変更に当たるものではなく、義務的交渉事項ではないと考えたからであり、また、一部の者ではなく、全員がこの問題に関心を持って議論しあう場の設置に意味があると考えたことによるとするが、そのような事由が義務的団交事項に係る団交を拒否する正当理由に成り得ないことはいうまでもない。
また、拡大職員会議を開いたとするが、当該職員会議は団交ではないから、そのような事由も団交を拒否する正当な理由には成り得ない。 以上のとおり、法人は、上記6回の組合からの団交申入れを拒否しているが、拒否したことにつき正当理由を認めることはできない。
② 平成28年3月14日付け以降の4回にわたる団交においては、法人の代表権を有する理事長自ら出席しており、使用者も労働組合と同様に交渉担当者を決定する自由を有するから、理事長一人のみ出席した法人の対応を団交拒否に当たると解することはできない。
以上のとおり、法人は、平成27年9月11日付けから平成28年2月16日付けまでの合計6回の組合からの団交申入れを拒否しており、拒否したことにつき正当理由は認められないから、法人のかかる対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。
3 平成28年3月16日など4回にわたる団交での法人の対応は、労働組合法第7条第2号で定める不誠実団交に当たるか。また、上記団交において、理事長の威圧的な発言等の事実があるか。そのような発言があるとした場合、労働組合法第7条第2号の不誠実団交に当たるか(争点4)。
① 4回にわたる団交の法人側の出席者は理事長のみであったが、法人の出席者が理事長のみであるからといって、直ちに不誠実な交渉態度であるとまではいえない。
② これらの団交において、理事長が頻繁に机を叩いたり、声を荒げて威圧的な発言等の言動を行ったことを認めることはできない。
③ 本件団交において、財政状況に関する法人の説明は、財政状況は好転しているわけではなく、負債返還は平成33年までかかる予定であり、また、新校舎建設のために必要な積立金として20億円の頭金を用意する必要があるが、現在額は1億6,000万円にすぎないとの内容にとどまっており、また、法人の主張を裏付ける資料の提示は何らされていないところ、かかる法人の対応は、法人の財政状況について丁寧な説明と資料の提供を尽くし、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する姿勢とは著しい隔りがあり、不誠実と評価されてもやむをえないものである。
法人は、本件団交において、制度変更の導入自体については一切譲歩しない旨述べて、まず結論ありきの姿勢を示し、導入の必要性に疑問を抱く組合が説明を求めたのに対し、導入したほうが職場の士気が上がるなどと回答し、そうはならない旨組合から反論されると、「上がる人とやります」と答えるなど、丁寧な説明とはほど遠い対応をとっている。
以上のような法人の対応は、評価制度の変更に係る議題について、できるだけ丁寧な説明を尽くして、合意達成の可能性を模索する姿勢とは著しい隔たりがあり、不誠実であると評価されてもやむを得ないものである。
④ 以上のとおり、上記団交における法人の対応は、労働組合法第7条第2号の不誠実団交に当たる。
4 法人が、春闘に係る議題につき組合との合意がないことを理由として、支給予定日を経過しても同年度の夏期賞与を支給しなかったことは、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当するか(争点5)。
平成28年度春闘における法人の対応は、自らの不誠実な団交によって、合意できない状態に組合を追い込んでおきながら、春闘議題につき組合との合意がないことを理由にして夏期賞与の支給をせず、その不支給を継続することによって組合員の生活を困窮させ、そのような組合員を抱える組合を窮状に追い込み、夏期賞与の支給と評価制度の変更案についての合意を交換条件にして、夏期賞与の支給と引換えに、強いて組合に評価制度の変更案を認めさせようとしていると評価せざるを得ない。
このような法人の行為は、評価制度の変更案などの平成28年度春聞に係る議題につき、組合の意思決定に影響を及ぼし、組合の弱体化を招くものである。
よって、法人の対応は、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たる。 |
掲載文献 |
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