労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  静労委平成28年(不)第3号
沼津夜間救急医療対策協会不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y法人(「法人」) 
命令年月日  平成29年11月9日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、被申立人法人が①組合の組合員であるA2に対して、無断早退に係る警告書を発出したこと、②平成27年から平成28年の年末年始にかけてA2組合員のみ1日多く出勤させたこと、③通知カードの写し及びマイナンバーを記入した扶養控除等申告書を提出しなかったA2組合員に対して、源泉徴収税額表の乙欄を適用し、源泉徴収税額を増加させたこと及び④平成28年4月1日に行った就業規則の変更によりA2組合員の基本給を減額したこと等が不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件で、静岡県労働委員会は、法人に対し、①について文書の手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、申立人に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。

年 月 日
 組合
  執行委員長 A1 様
法人          
理事長 B1

 当協会が、平成28年1月29日付けで、貴組合員A2氏に対して警告書を発したことは、静岡県労働委員会において、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
2 申立人のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 労働組合法第7条第4号違反に係る主張について
 組合は、法人が行った行為が、労働者が当委員会に対し使用者が労働組合法第7条の規定に違反した旨の申立てをしたことを理由として不利益な取扱いがあったことについて、何らの具体的な主張を行っておらず、これを認めるに足りる具体的事実も認められない。したがって、組合の労働組合法第7条第4号に係る主張は採用できず、各争点については、労働組合法第7条第1号に係る部分についてのみ、以下判断する。
2 各争点における判断
(1)争点(1)ア(平成28年1月29日付けでA2組合員に対して「警告書」を発出したこと)における判断
ア 不利益か
 警告書の内容を検討すると、A2組合員に発出された警告書には、勤務時間の遵守について改善が見られない場合には、次年度以降の契約を更新しないことを示唆する文面が記載されている。この文面はA2組合員にとって人事上の不利益をもたらす可能性があったということができる。
 また、警告書の文面中の、「早退により労働しなかった時間については、既に支給した給料を遡及して減額する事になる」旨の記載については、A2組合員に経済的不利益をもたらすものであったといえる。
 したがって、本件警告書はA2組合員に注意喚起することが目的であったとしても、不利益をもたらすものであったと解される。
イ 不当労働行為意思に基づいたものであったか。
 法人は、少なくとも11月にはA2組合員の早退の事実を確認していながら、警告書発出までの約2か月間、A2組合員に対して何らの注意、指導を行っていない。すなわち法人がその時点で、A2組合員の早退を積極的に非違行為として問題視した痕跡は全く見受けられない。
 にもかかわらず、第7回団体交渉において初めてA2組合員の早退の事実を指摘し、その翌日に警告書を発出したことを考慮すると、本件警告書は、発出の前日に行われた団体交渉において、組合が法人の提案した夜間勤務における休憩取得に関する提案を拒否したことを契機として発出したと言わざるを得ない。
 本警告書の発出は、時機が唐突で、内容についても適正を欠く面があったと評価せざるを得ない。すなわち、本件警告書は、法人と組合が対立関係にある中で、団体交渉でのやりとりに関連して、組合及びA2組合員に対して発出されたものということができ、不当労働行為意思に基づいたものであると解すべきである。
ウ 小括
 以上の事情を総合的に勘案すると、本件警告書は、A2組合員にとって不利益なものであり、警告書の発出時機を考慮すると、法人の組合及びA2組合員に対する不当労働行為意思に基づいて行われたと推認することができるため、労働組合法第7条第1号に係る不当労働行為であると認められる。
(2)争点(1)イ(年末年始の勤務において、A2組合員のみ1回多く夜間勤務が割り当てられたこと)における判断
ア 不利益か
 平成27年から平成28年にかけての年末年始の勤務において、A2組合員は自己の希望どおりの勤務割り当てがなされず、結果的に法人が、当該深夜帯における勤務を割り当てたことは不利益と認められる余地がある。
イ 不当労働行為意思に基づいたものであったか
 A2組合員のみが、法人の連休時に他の夜間勤務を行う事務職員と比較して差別的に多く夜間勤務を割り当てられているとは認められない。
 A2組合員の1月1日の勤務は、出勤できないとしていた時間に出勤せざるを得なかったという状況ではなかった。また、B5が出勤できない代わりに法人はアルバイトを配置したという点については、法人が代わりの職員を探したものの誰も代わりに出勤できる者がおらず、やむを得ず行ったという事情によるものであり、法人の従来の取扱いを逸脱したものとまでは考えられない。
 これらの点を考慮すると、A2組合員のみに当該年末年始において1回多くの夜間勤務を割り当てたことは差別的な取扱いには当たらず、不当労働行為意思に基づくものであったと推認することはできない。
ウ 小括
 以上のとおり、法人が、A2組合員に当該年末年始の間に他の事務職員よりも1回多く夜間勤務を割り当てたことは、A2組合員にとっては不利益なものと認められる余地はあったが、法人の不当労働行為意思に基づくものとは認め難いため、労働組合法第7条第1号に係る不当労働行為に該当するとは認められない。
(3)争点(1)ウ(法人がA2組合員に対して適切な指導を行わなかったため、基礎控除等が受けられない源泉徴収税額表の乙欄が適用され、税額が増えたこと及び改めて確定申告を行わなければならなくなったこと)における判断
 組合及びA2組合員は、扶養控除等申告書を提出しないことによって発生する結果を十分に予見できたものと推察される。
 給与手取額が減少したという事実があるが、確定申告を行うことで回復できるものである。また、確定申告に係る手続の負担については、税制上定められた手続によるものであるとともに、あらかじめ書面で通知された範囲のものであるといえる。
 以上の事情を考慮すると、本争点において組合が主張する不利益については、A2組合員がマイナンバー等を提出しなかったことによる結果であって、労働組合法第7条第1号に規定する不利益取扱いに該当しない。
(4)争点(2)(法人が平成28年4月1日に行った就業規則の変更)における判断
ア 法人が行った就業規則及び給与規程の変更に伴うA2組合員の基本給の減少は不利益か
 基本給の減少は、基本給の額に応じて支給される地域手当、期末手当及び勤勉手当の支給額にも影響し、A2組合員にもたらされる経済的不利益は少なくないものであり、基本給減少の代償措置を考慮してもなお経済的不利益が生じているといえる。
イ 不当労働行為意思に基づくものか
 本件就業規則の変更は、労働基準監督署の是正勧告を契機として、旧就業規程及び旧給与規程の不備を解消するためのものであり、就業規則の変更に伴う基本給の減額は、法人における看護師と事務職員の基本給の考え方の不公平を解消するためのものであったというべきであり、法人の不当労働意思に基づくものであるとは認め難い。
ウ 就業規則の変更により、A2組合員を嘱託事務員よりも支給対象となる手当の数や有給となる特別休暇の数が少ない嘱託医療事務員に区分したことは不利益か
 A2組合員個人について比較すると、就業規則の変更前よりも支給対象となる手当の数は増えており、特別体暇においても、就業規則の変更前よりも有給となる特別休暇の数は増えている。
 したがって、A2組合員を嘱託事務員よりも手当の数や有給となる特別休暇の数が少ない嘱託医療事務員に区分することが、直ちに不利益であるとはいえない。
エ 不当労働行為意思に基づく差別的なものであったか
 法人が、旧就業規程を変更し、新しい就業規則を作成するに当たって、事務職員を無期雇用か有期雇用であるか及び労働時間の長短並びに職務内容における責任の有無等に応じて区分することは自然なことであり、その区分の方法にも不合理な点は見受けられないことから、採用当初から夜間勤務の受付業務を主体とし、1年毎の更新期間により契約の更新を行ってきたA2組合員を嘱託医療事務員に区分することは、差別的な取扱いであるとは言い難い。
オ 小括
 以上のとおり、法人が行った就業規則の変更に伴うA2組合員の基本給減少及びA2組合員を嘱託事務員よりも支給対象となる手当の数や有給となる特別休暇の数が少ない嘱託医療事務員に区分したことは労働組合法第7条第1号に規定する不当労働行為とは認められない。 
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