労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  都労委平成27年(不)第84号その1
桐原書店(事業譲渡)不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合、X2組合 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  平成29年9月19日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①B2営業部長が組合活動を非難する社内メールを送信したこと、②会社が、組合活動を非難する社内ブログを掲載したこと、③全社集会において、従業員から組合の活動等を批判する発言がなされたが、会社の司会者が特に発言を制止しなかったこと、④B4部長が組合員A3にメールを送信し、B5が組合員A4に発言し組合からの脱退を勧奨したこと、が不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件で、東京都労働委員会は、会社に対し、X1組合への支配介入の禁止、①、②及び④のメール送信について、社内ブログへの掲載、X1組合及びX2組合への文書の交付・掲示並びに履行報告を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人会社は、自ら若しくはその管理職をして、申立人X1組合の活動を非難し、従業員間で同組合への批判的な意見の醸成を図ったり、同組合内部の意思形成に介入したり、同組合の組合員に対し、同組合からの脱退を勧奨するなどして、同組合の組織運営に支配介入してはならない。
2 被申立人会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人X1組合及び同X2組合に交付し、かつ、社内ブログに掲載するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の大きさの白紙に、楷書で明瞭に墨書して、会社本社内の従業員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。

年 月 日
 X1組合
  執行委員長 A1 殿
 X2組合
  中央執行委員長 A2 殿
会社              
代表取締役 B1

 当社のB2営業部長(当時)が、平成27年9月8日、貴X1組合の活動内容を非難し、従業員間で組合への批判的な意見の醸成を図ったり、組合内部の意思形成に介入したりする社内メールを送信したこと、当社が、9月10日、社内ブログに「【社長室】お知らせ(9月10日)」と題する記事を掲載したこと、及び当社のシステム部の部長(当時)が、10月7日、貴X1組合の組合員に組合からの脱退を勧奨するメールを送信したことは、いずれも東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
 (注:年月日は、文書を交付、掲載又は掲示した日を記載すること。)
3 被申立人会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 平成27年9月8日のB2営業部長の本件メールについて
 本件メールには、組合員である所長又は副所長に対し、組合の著者への働き掛けについて、「もし、知らされてあり黙認されていたのであれば、これはマネージャーとしての過失であり、それなりの責任を追及させていただくつもりです。」等と述べる記載がある。これは、「責任を追及」等の強い表現をもって、組合員である所長又は副所長が自ら組合執行部を非難することを求めたものであり、本来使用者が介入すべきではない組合内部の意思形成に介入して組合の方針の転換を図ったものといわざるを得ないから、使用者に許される意見表明の範囲を超えているというべきである。
 組合活動を非難した上で、組合員を含む従業員らに組合の行為の是非を話し合わせるよう求めたことは、所長又は副所長に対し、組合員である従業員に組合への疑問を抱かせたり、従業員間で組合への批判的な意見を醸成させる等の支配介入に当たる行為を指示したものというべきである。
 したがって、本件メールは、組合内部の意思形成に介入することにより組合に動揺をもたらすものであり、また、所長らに対し、従業員間で組合への批判的な意見を醸成させることなどを指示するものであるから、組合の組織運営に対する支配介入に当たるといわざるを得ない。
 会社は、組合による著者への働き掛けが正当な組合活動の範囲を逸脱したものであるから、それを非難し、従業員の意思を確認することは許されると主張する。しかしながら、仮に、組合による著者への働き掛けに、正当な組合活動の範囲を逸脱するところがあったとしても、会社の組合に対する介入が正当化されるものであるかは大いに疑問があることに加え、必ずしも、組合による著者への働き掛けが正当な組合活動の範囲を逸脱したものであるとまで断ずることはできない。
 以上のとおりであるから、B2営業部長が本件メールを送信したことは、組合の組織運営に対する支配介入に該当する。
2 平成27年9月10日の本件社内ブログについて
 B2営業部長の本件メールの2日後に掲載された本件社内ブログは、著者への働き掛け等の組合活動を本件事業譲渡の障害と位置付けた上で、本件事業譲渡が破綻すれば退職金が支払われなくなる等と述べて従業員の不安をかき立て、本件事業譲渡への支持を呼び掛けることにより、本件メールと一体となって、従業員に対し、組合への不信感を抱かせ、組合活動に批判的な会社内の世論を醸成しようとしたものであるといわざるを得ない。したがって、会社が本件社内ブログを掲載したことは、組合の組織運営に対する支配介入に該当する。
3 平成27年10月6日の全社集会における会社の対応について
 使用者としては、従業員間の意見の対立について、中立の立場を保たざるを得ないところ、本件では、事前に公開質問のような形で、組合に対するZ1ら社員有志59名の連名の「申し入れ書」が提出されていたことから、その「申し入れ書」の内容に沿うような発言に対し、会社が発言を制止するのは困難であったというべきである。また、Z1が、組合にも聞きたいことがあり、組合は説明する義務があると思うが、それを受け入れてもらえるのか教えてほしいと組合に質問したのに対し、A1委員長は、組合への質疑応答の場ではないなどとして回答を拒否することもできたところ、そうせずに、自ら席を立ち、組合の立場を表明する対応をしている。このような状況からすれば、B3取締役が、従業員の発言は制止せず、しかし、組合には弁明の機会を与えるという対応をしたのは、無理からぬことであったといわざるを得ない。
 組合は、全社集会の会場は、殺気立った雰囲気で、組合員は、恐怖感を抱いたと主張する。組合員への威迫的な発言や、暴力が行使されるおそれ等がある場合に、会社がそれを放置したのであれば、それは、問題となり得るものである。しかし、全社集会の質疑応答においては、組合やその活動を強く批判する発言がなされているものの、組合員への威迫的な発言や、暴力が行使されるおそれ等があったとまでいうことはできない。
 以上のとおりであるから、全社集会において、会杜が、組合を批判する発言を禁止する等の対応はせず、従業員の発言はいずれも制止しないけれども、組合に対して弁明の機会を確保したことは、一部の従業員と組合との対立がある中でのやむを得ぬ対応であり、このような会社の対応が、組合に対する支配介入に当たるとまでいうことはできない。
4 B4部長のメール及びB5の発言について
(1)B4部長のメール
 システム部の部長という職制の立場にあるB4部長が、入院中の部下であるA3に対し、10月6日の全社集会の内容を知らせつつ、本件事業譲渡中止後の会社に復職するか否かという今後の身の振り方について助言する内容のメールを送ったのであるから、このメール送信は、会社の指示がなくても、職制が部下に対して行った使用者としての行為であるというべきであり、また、全社集会の内容を通知し、会社への復帰等について助言する等の内容からして、全くの個人的行為とみることはできない。
 そして、このメールには、「A3さんが復帰される場合、基本的には歓迎ですが、『組合員』の立場で復帰となると、正直言って微妙です。」等の記載があり、これは、組合からの脱退を検討するよう促す内容であるといわざるを得ないから、B4部長がA3にこのメールを送信したことは、組合の組織運営に対する支配介入に該当する。
(2)B5の発言
 会社が発言の存在自体を明確に否定している一方、組合からは、発言があったことを認めるに足りる具体的な疎明がないことからすれば、組合の主張するB5の発言があったと認めることはできない。
 
掲載文献   

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