労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  滋労委平成28年(不)第3号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y農協(「農協」) 
命令年月日  平成29年8月7日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、農協が、58歳以上の職員の基本給を2割減額するという不利益を伴う役職定年制度(以下「本件役職定年制度」という。)の導入を議題とする団体交渉において、 ①不利益変更を必要とする経営上および組織上の必要性や合理性に関する具体的な説明を行わなかったこと、 ②団体交渉継続中に、本件役職定年制度の適用対象者に対する説明会を開催したこと、 ③団体交渉継続中に、就業規則の変更を労働基準監督署に届け出て、本件役職定年制度を導入したこと等、 が不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件で、滋賀県労働委員会は、会社に対し、 誠実団交応諾、各種就業規則等の適用がなかったものとしての取扱い及び①③について文書の手交・掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、平成28年4月1日付けで導入した役職定年制度に関し、被申立人の財務状況および同制度の導入を提案するに至った経緯について具体的に説明して同制度の導入の必要性を明らかにするとともに、他の予算や役員報酬の削減等によって同制度の導入を回避することの可能性について協議し、仮に同制度の導入が不可避であった場合においても職員の不利益を緩和する措置の導入の可能性等について協議し、もって申立人と誠実に団体交渉を行わなければならない。
2 被申立人は、前項の団体交渉において結論を得るに至るまで、平成28年3月31日時点で申立人lこ所属していた組合員に対する関係において、同年4月1日付けで施行した新設ないし変更後の各種就業規則(「臨時職員就業規則」、「再雇用にかかる嘱託職員就業規則」、「再雇用規程」、「給与規程」および「人事考課規程」)ならびにこれに附帯して施行された「役職定年後の職員の処遇にかかる今後の方針(理由書)」および「役職定年制に関する実施要領」の適用がなかったものとして扱わなければならない。
3 被申立人は、本命令書受領後、2週間以内に下記の文書を申立人に手交するとともに、日本工業規格A列1番以上の大きさの白紙に明瞭に記載して、別表(省略)に記載する各事業所の職員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。

年  月  日
(掲示する初日を記入すること)
 組合
  執行委員長 A1 殿
農協               
代表理事理事長 B1

 当農協は、平成27年11月9日、組合に対し役職定年制度の導入等に関する申入れを行いましたが、制度導入の必要性について十分な説明を行わず、誠実に団体交渉に応じませんでした。さらに、このように誠実に団体交渉に応じないまま、労働組合の意向を無視して、役職定年制度を導入、実施しました。
 これらのことは、滋賀県労働委員会において、労働組合法第7条第2号および第3号に該当する不当労働行為であると認められました。
 今後、このような行為を操り返さないようにします。
4 申立人のその余の申立ては棄却する。 
判断の要旨  1 農協は、本件団体交渉に誠実に対応したか否か(争点1)
① 大幅な給与カットの導入が必要となる根拠について、組合が再三にわたって説明を求めたにもかかわらず、農協は、具体的な財務状況の見通しすら示すことなく、単に経営状況が苦しい、若手の育成が必要だということを繰り返し述べるだけで、それ以上の説明をしていない。かろうじて、次年度の人件費が4,000万円から5,000万円増加する見通しであると述べたものの、この数字は何らかの試算に基づいたものでないことは明らかで、後日の試算で倍以上の差があったことが判明している。また、そもそも、本件役職定年制度のような給与カットを伴う人事制度の変更について、いつどのような経緯で検討が行われ、提案されるに至ったのかについても、何ら説明はなく、第2回団体交渉では2年前から検討されてきたという事実に反する説明がなされている。このような状況では、農協が本件役職定年制度導入の根拠について、基本的な説明すらしていないといわざるを得ず、農協の交渉態度は不誠実であるというほかない。
② 経営上の必要性の存否そのものが不当労働行為の成否を左右するものではないとしても、経営上の必要性についての説明が十分であったか否かは、不当労働行為の成否に影響を与える。団体交渉においては、農協には、組合に対して、経営上の必要性があることを丁寧に説明すべき義務があるのであって、その説明を尽くしていない以上、誠実に交渉したことにはならない。したがって、この点についての農協の主張は当たらない。
 既存の労働条件を大幅に引き下げる提案をするに当たっては、企業の財務状況を数字によって説明し、費用の削減目標を示し、その目標を達成するために、どのような費目をどの程度削減するかの計画案を示すことは、使用者に求められる必要最低限の説明義務である。組合の説明要求が具体的でないからといって、使用者のこのような基本的な説明義務が軽減されることにはならないというべきである。
③ したがって、本件団体交渉における農協の態度は不誠実であり、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
2 本件役職定年制度を、農協が組合との合意を待たずに導入したことは、支配介入に当たるか否か(争点2)
① 就業規則変更届を労働基準監督署に提出するまでの実質的な交渉期間は3か月しかなく、平成28年1月14日の説明会で配付された資料に実施時期を4月1日とする記載があったこと、農協が不誠実な交渉態度をとり続けたこととも併せ考えると、農協は、組合がどのような態度をとろうとも、本件役職定年制度を4月1日から実施することを、当初から予定していたものと考えざるを得ない。
 農協は、表面的には、団体交渉を拒否することなくこれに応じてはいるが、その態度は前述のとおり誠実とはいえず、あらかじめ十分な交渉期間を確保することもなく、組合の抗議にもかかわらず意見書の提出を待たずに就業規則変更届を提出するに至っており、合意形成を目指そうとする態度がみられない。
② 本件では、農協が本件役職定年制度の導入を提案したのに対し、組合がその必要性の根拠について説明を求めたにもかかわらず十分な説明は行われず、わずか3か月の交渉期間しかなく、この間交渉には何らの進展もなく、合意に向けた機運も醸成されず、組合が一方的に押し切られる形で本件役職定年制度が導入されてしまっている。
 農協が組合と十分な協議をしないまま本件役職定年制度を導入したことは、組合が交渉により労働条件の決定に関与する機能を妨げ、組合の活動に介入する性質のものであり、組合の団体交渉権を侵害するとともに、組合を軽視するものであって、客観的に組合弱体化ないし反組合的な結果を生じ、または生じるおそれがあったというべきであり、農協もそのことを認識、認容していたといえるから、労働組合法第7条第3号の支配介入に当たると判断する。
③ 平成28年2月10日の説明会は、本件役職定年制度の4月1日の実施に向けた一連の行為の一部であって、この説明会の実施のみを取り上げて、独立して不当労働行為と評価する必要はないと考える。
④ 以上のとおり、本件役職定年制度の導入に関する一連の団体交渉における農協の態度は不誠実であり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
 また、農協が誠実に団体交渉に応じないまま、本件役職定年制度の導入を定めた就業規則を組合との合意を待たずに一方的に実施したことは、不誠実な団体交渉として労働組合法第7条第2号に該当するだけでなく、組合の運営を支配しまたはこれに介入する行為であり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。 
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