概要情報
事件番号・通称事件名 |
神労委平成27年(不)第3号 鎌倉市不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y1市(「市」)、Y2教育委員会(「市教育委員会」) |
命令年月日 |
平成29年7月26日 |
命令区分 |
却下、棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、市及び市教育委員会が、組合との特殊勤務手当の見直しに係る交渉において、一部の手当を存続することや協議を継続することを合意していたにもかかわらず、最終交渉においてこの合意を覆して交渉を打ち切り、市議会に提案して同手当の大幅な削減を強行したことが不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件で、神奈川県労働委員会は、市教育委員会に対する申立てを却下し、市に対する申立てを棄却した。
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命令主文 |
1 申立人の被申立人市教育委員会に対する申立てを却下する。
2 申立人の被申立人市に対する申立てを棄却する。
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判断の要旨 |
1 争点①(市教育委員会は、労組法第7条の「使用者」に当たるか否か。)
労組法第7条の「使用者」は、法律上独立した権利義務の帰属主体であることを要するところ、市教育委員会は、組合の組合員のうち学校給食等の業務に携わる職員の任命権者であるものの、被申立人である市の執行機関であるに過ぎず、法律上独立した権利義務の帰属主体ではない。
したがって、市教育委員会は、労組法第7条の「使用者」には当たらない。
2 争点②(特殊勤務手当の見直しを交渉事項とする団体交渉における市の対応は、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か、また、不誠実団体交渉に当たるか否か。)
(1) 支配介入について
① 市が提示した「新たな人事・給与制度最終提案」と題する文書(以下「26.8.12提案文書」という。)について
26.8.12提案文書には、「見直しについて、ほぼ合意しているもの」として、「スズメバチの駆除作業」等の記載がある。
しかし、上記の「見直しについて、ほぼ合意しているもの」との記載は、「継続協議」との記載が先行していることや、「まとまり次第・・・・・・条例改正を行う」との記載からすると、平成26年8月12日の合同交渉の段階では、特殊勤務手当全体についてなお協議を継続していたものとみるのが相当である。
また、「見直しについて、ほぼ合意している」とされた特殊勤務手当について更なる見直しがなされており、26.8.12提案文書における「ほぼ合意」が労使間において覆ることを予定していないほどの確定的な合意を意味するものと認めることはできない。
したがって、平成26年8月12日以前の小委員会交渉において、特殊勤務手当のうち一部の項目について労使合意が成立した旨の組合の主張は、採用できない。
② 平成26年12月29日の小委員会交渉について
平成26年12月29日の小委員会交渉において、特殊勤務手当の項目ごとに見直しの方向性について、存廃や統合、支給の日額化といった整理をしたことは認められるものの、少人数の交渉担当者間で実務レベルの協議を行うという小委員会交渉の役割からして、それ以上に、何らかの労使合意までが成立したものと認めることはできない。
したがって、平成26年12月29日の小委員会交渉において、特殊勤務手当のうち一部の項目について労使合意が成立した旨の組合の主張は、採用できない。
③ 結論
以上のとおり、組合と市との間に特殊勤務手当について何らかの労使合意が成立したと認めることはできず、市が労使合意を無視して改正手当条例案を提出し、特殊勤務手当を廃止しようとしたことが支配介入に当たるとの組合の主張は、その前提を欠く。
よって、支配介入の成立は認められない。
(2) 不誠実団体交渉について
特殊勤務手当の見直しに関し、市が提案した平成26年1月27日から組合らと市との協議が終了した平成27年1月15日までの間に、少なくとも、合同交渉が16回、小委員会交渉が23回、事務折衝が23回開催されたことが認められる。
また、市は、組合とのさらなる協議が必要であることを理由に、交渉期限を9回にわたって延長し、特殊勤務手当の見直しを含む改正手当条例案の提出が、当初予定していた平成26年6月定例会から最終的には平成27年2月定例会になったことが認められる。
さらに、平成26年3月28日の市職員の給与削減を求める決議や、平成26年9月定例会における改正給与条例案の議決において、市議会は、市職員の給与を削減する姿勢を示している。
このような労使交渉の経緯や市議会の状況をみると、市は、特殊勤務手当の見直しを含む条例の改正には市議会の議決が必要であることから、改正案を提出する議会の会期を念頭に交渉期限の延長を繰り返しながら、約1年間にわたり、組合らとの協議を継続したものの、双方の主張は対立したままの状態にあり、平成27年1月15日の合同交渉の段階では、これ以上の交渉を重ねても進展の見込めない膠着状態に至ったものということができる。
以上のとおり、市は特殊勤務手当をめぐる協議において相応の対応をしていることに加え、遅くとも平成27年1月15日の時点では、組合と市の間の交渉は行き詰まりの状態にあると認められることから、不誠実団体交渉の成立は認められない。
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掲載文献 |
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