概要情報
事件番号・通称事件名 |
埼労委平成28年(不)第3号 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
会社Y(「会社」) |
命令年月日 |
平成29年4月13日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
組合は、平成28年3月15日団交申し入れ書により、会社に対
し、B2工場のアスベスト製品(石綿)において飛散したアスベストを吸入した同工場の元従業員、家族に対する企業補償等を求
めた。
本件は、平成28年3月15日付け団交申し入れ書、同年7月1日付け団交申し入れ書、同年8月17日の団交申し入れに対す
る、団体交渉等における、会社の以下の対応が不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件である。
① 平成28年3月15日付け団交申し入れ書により要求した事項に対する会社の対応
② 平成28年5月20日の団体交渉において、会社が旧B2工場の周辺住民被害者であるA2氏の連絡先の受け取りを拒否した
こと、
③ 平成28年7月19日の団体交渉における会社の対応
④ 組合が平成28年8月17日に申し入れた団体交渉を会社が拒否したこと
⑤ 平成28年9月30日の団体交渉における会社の対応
⑥ 組合がアスベスト被爆退職者名簿の提出を求め、会社がこれに応じない場合
⑦ 会社が製造物責任において、地域に散乱するアスベスト製品であるエタニットパイプを回収しないこと及び会社が人命にかか
わる公害に対し、積極的に健診補償を行わないこと
埼玉県労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 「旧B2工場の周辺住民被害者」に対する企業補償は義務的団交
事項に当たるかついて
「旧B2工場の周辺住民被害者」は労組法第7条第2号にいう「使用者が雇用する労働者」には当たらず、「周辺住民被害者」
の企業補償に関する事項は、義務的団交事項には該当しない。
エタニットタイプの回収についても、結局のところ旧B2工場の周辺住民に対する生活環境の保全のための要求であることか
ら、義務的団交事項には該当しない。
したがって、これらに係る会社対応は労組法第7条第2号の不当労働行為に当たらない。
2 団体交渉などにおける組合からの要求を受け入れない会社の対応について
(1) 会社は、組合が平成28年3月15日付け申し入れ書により要求した、父が会社の元従業員であった故A2氏の企業補償
について、元従業員以外の者に対する企業補償が難しい旨、同月29日文書で回答するとともに同年7月19日及び同年9月30
日の団体交渉において繰り返し説明している。
会社には、組合の要求に譲歩したり、受け入れたりする義務まではないのであるから、上記経緯から、組合の理解を得られるよ
う努力したことが認められる。
したがって、当該要求に対する会社の対応は不当労働行為に当たらない。
(2) 会社は、組合が、当該申し入れ書により要求した、故A3氏ら5名の企業補償について、労災未認定者に対する企業補償
は難しい旨、同月29日文書で回答するとともに同年7月19日の団体交渉において繰り返し説明している。
会社には、組合の要求に譲歩したり、受け入れたりする義務まではないのであるから、上記経緯から、組合の理解を得られるよ
う努力したことが認められる。
したがって、当該要求に対する会社の対応は不当労働行為に当たらない。
(3) 組合が、平成28年3月15日付け申し入れ書により要求したアスベスト被害企業補償実態の開示について、会社は、平
成28年3月29日付け回答書により、「現時点において補償実績を開示する必要性に乏しいと考えており、開示は控える」旨回
答した。
会社による回答の後、平成28年5月20日、同年7月19日及び同年9月30日に行われた3回の団体交渉において、組合か
ら再度補償実績の開示要求がなされた事実は認められない。仮に、これら団体交渉において、組合から補償実績の開示要求がなさ
れれば、企業補償の要件については7月19日の団体交渉において繰り返し説明しているのと同じように、会社は、自己の主張を
組合が理解し、納得することを目指して努力したであろうことが合理的に推測できるから、平成28年3月29日付けの回答時点
では誠実交渉義務を怠っていたとはいえない。
したがって、当該要求に対する会社の対応は不誠実であったとは認められず、不当労働行為には当たらない。
(4) 平成28年7月19日の団体交渉における、同月1日付け団交申し入れ書の要求①(消滅時効差別)及び要求③(退職者
補償)に対する対応について
① 要求①(消滅時効差別)について
平成28年7月19日の団体交渉において、会社は、死亡後20年の経過により消滅時効が完成していた故C1氏について、当
時の担当者が退職しているため詳細は分からないが、企業補償をした旨説明した上で、現在の補償の対象者となる基準につき、消
滅時効に該当しない者で労災認定を得た者とする会社の方針に変更はない旨を説明し、組合に対し理解を求めた。当該説明に組合
は納得せず、会社に対し、改めて文書回答を求めたので、これを受け会社は平成28年8月12日付け回答書で文書回答を行って
いる。
会社には、組合の要求に譲歩したり、受け入れたりする義務まではないのであるから、上記団体交渉の経緯から、組合の理解を
得られるよう努力したことが認められる。
したがって、当該要求に対する会社の対応は不誠実であったとは認められず、不当労働行為に当たらない。
② 要求③(退職者補償)について
7.1要求書の要求③の要求事項は「故C2氏の企業補償」であったと認められる。
平成28年7月19日の団体交渉において、組合が故C2氏に関する企業補償について、死亡補償が2,500万円という点は
譲れない旨述べた上で、文書による回答を求めたところ、会社は、後日文書回答を行う旨回答し、平成28年8月12日付け回答
書で、2,500万円を提案する旨の回答を行っており、組合の理解が得られるよう努力したことが認められる。
したがって、当該要求に対する会社の対応は不誠実であったとは認められず、不当労働行為に当たらない。
(5) 平成28年9月30日の団体交渉における組合からの「死後遺族補償であることの是正」要求について
平成28年9月30日の団体交渉においては、退職者健診の実施及び退職者健診通知データの開示に関する議題の話合いが一切
行われていないことは、組合が自ら認めている。
退職者健診の実施及び退職者健診通知データを開示しない会社の対応は不誠実であるとする組合の主張には理由がない。
したがって、当該要求に対する会社の対応は不当労働行為に当たらない。
(6) 組合がアスベスト被爆退職者名簿の提出を求め会社が応じない場合について
組合がアスベスト被爆退職者名簿の提出を求めたことがないことは組合が自ら認めている。
自ら要求していない当該名簿を会社が組合に提出しないことが不誠実な団体交渉であるとする組合の主張には理由ない。
したがって、アスベスト被爆退職者名簿の提出に関する会社の対応は不当労働行為に当たらない。
3 平成28年3月15日付け団交申し入れ書の「その他同書にて要求した事項」について
組合の主張は、昭和61年当時に「労働基準法に違反して職業病療養中の者を解雇したり、労働組合の抹殺を行ったりした」行
為があったとの主張であるところ、今回団交を申し入れたのは、平成28年3月15日付けであり、30年以上前の会社の対応を
団交事項として申し入れたことになる。これは、社会通念上合理的な期間を徒過したものである。
当該団交申し入れは、社会通念上、交渉議題に関する解決を実際上期待できる時機を失したものといわざるを得ない。
したがって、当該要求に対する会社の対応は不当労働行為に当たらない。
4 平成28年7月19日の団体交渉において、会社は、渉外室長及び弁護士が対応したことについて
平成28年7月19日の団体交渉においてB3室長らは、会社としては確定的に回答できる事項については回答を行うとともに
組合から文書回答を求められた事項についても、持ち帰って、後日、会社としての回答を行う旨約束し、後に文書回答を行った事
実が認められる。
また、B3は交渉担当者として十分な権限及び能力を有していたと思料される。
したがって、当該要求に対する会社の対応は、不当労働行為に当たらない。
5 組合が平成28年8月17日に申し入れた団体交渉を会社は正当な理由なく拒否したかについて
8.17要求③には、「③ 9月30日東京総行動回避努力、団交設定」とだけ記載され、その趣旨説明として「アスベスト被
爆退職者労組に生涯団交権あり、争議解決を図ること」との記載のみでは、会社は、当該要求に対し、どのように回答すればよい
のか不明であったと推忍できる。
そうすると、会社が、平成28年8月26日付けの回答書により、「8.17要求③につき、団交の趣旨説明に関して具体的内
容が不明確であり、これが明確化されない段階で団体交渉に応じるのは困難であるため、明確化をした上で改めて連絡されたい」
旨回答したことはもっともなことである。
組合が、平成28年8月17日に申し入れた団体交渉について、会社が団交拒否したとする組合の主張には理由がないため、会
社の対応は、不当労働行為に当たらない。 |
掲載文献 |
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