概要情報
事件番号・通称事件名 |
石労委平成27年(不)第3号 |
申立人 |
X組合(「組合」又は「第1組合」) |
被申立人 |
Y法人(「会社」) |
命令年月日 |
平成29年3月23日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
|
事件概要 |
本件は、会社が、
① 平成27年10月9日(以下「平成」の元号を省略)、新入社員のCを18年に締結された現行労働協約(以下「18年協
約」という。)第3条の規定に違反し、第1組合に加入させずに教育指導業務に従事させたこと
② 同年9月30日に朝礼前、B1社長が、社長室に第1組合のA2分会(以下「分会」という。)の役員を呼び出して、分会役
員のCに対する働きかけを止めるよう発言したこと、
③ 同年10月8日の昼休み、分会役員がB1社長に抗議と申入れを行った際、同席していたB2課長が、Cは第2組合組合員で
あると発言したこと、
④ 同日8限終了時、第1組合役員と分会役員が労働協約の遵守を申し入れたところ、B2課長が突然、机を叩いて激高し暴言を
吐き、第1組合役員とA2分会役員を恫喝したこと、
⑤ 同月9日始業前、第1組合役員と分会役員がCが教育指導業務を行う場合、労働協約により第1組合に加入していなければな
らない旨申し入れたところ、B1社長が、どこの組合に加入するかは自由である旨発言したこと、
⑥ 同日朝礼時、B1社長が、全従業員を前にして使用者の地位を濫用して一方的に第1組合を批判する発言を行ったこと、
が不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件で、石川県労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てをいずれも棄却する |
1判断の要旨 |
1 争点1
会社が、いわゆる第2組合の結成に関与したこと等を背景として、27年10月9日、第1組合に加入していない新入社員を教
育指導業務に従事させたことがあるか。
ある場合、会社の行為は労働協約第3条に違反するか。そうだとした場合、会社の行為は支配介入の不当労働行為に当たるか。
①C就業初日において、分会は過半数組合でなかったことから、第1組合への加入を強制する有効なユ・シ協定を締結できる組
合ではなく、18年協約第3条に基づく第1組合への加入強制の効力は認められず、②第1組合が教習指導員に限定した組合で
あったということはできず、仮に、限定した組合であったとしても、過半数代表組合とは認められないから、18年協約第3条に
基づく第1組合への加入強制の効力は認められず、③労使慣行の存在をもってユ・シ協定の効力を認めることもできず、④第2組
合に会社関与の可能性があったとしても本件の判断に影響を与えるものではない。
したがって、会社が、10月9日をもってCを教育指導業務に従事させた行為は、18年協約第3条に違反するものではなく、支
配介入の不当労働行為には当たらない。
2 争点2
27年9月30日の朝礼前、B1社長が、社長室に分会役員を呼び出して行った一連の言動は、第1組合の運営に対する支配介
入の不当労働行為に当たるか。
(1) B1社長の「Cは第1組合とは思想が違う」、「そっとしておけないのか」、「どの組合に入るかは自由だ、憲法があ
る」との発言は、Cの精神状態と同人のおかれた状況を知ったB1社長が、Cの精神状態に配慮して、安全運行管理上の必要から
一時的に組合加入の説得を控えるよう要請したものと認められ、いずれかの組合への加入を勧めたり、あるいは加入を止めさせた
りするものでもなく、また、加入の説得を一時控えることができないかという程度にとどまっていることからすれば、第1組合の
組合活動を妨害しようとする意図があったものとは認められない。
(2) B1社長が、(第1組合と第2組合の間で作成された)本件同意・遵守事項書面の閲覧と写しの交付を求めたのは、同書
面の存在自体を知らなかったことから、内容を確認したいと思ったに過ぎず、また、同書面の真正を確認する意図から押印がない
ことを指摘したに過ぎないとするのも自然である。
B1社長が写しの交付の強要等をしていないことを考え併せれば、同書面の写しの交付を求めたり、押印のないことを指摘したこ
とをもって第1組合の運営について介入があったとは認められない。
(3) B1社長は、分会役員を社長室に3名を呼び出してCへの説得を一時控えるよう要請したのは、Cの精神状態を案じて安
全運行管理上必要と考えたからであり、分会組合員一人を呼び出し要請を強要したものでもなく、Cの個人的事情に係る要請をす
るために他の従業員がいない社長室で話をすることは、特段異常なこととは思われないから、社長室に呼び出すこと自体が支配介
入であるとは認められない。
(4) したがって、9月30日の朝礼前にB1社長の行った一連の言動は、第1組合の運営に対する支配介入に当たらない。
3 争点3
27年10月8日昼休みのB2課長の発言は、第1組合の新入社員に対する加入活動を妨害するものであり、第1組合との18
年協約に違反するか。そうだとした場合、支配介入の不当労働行為に当たるか。
会社はCから第2組合への加入届を既に提出したことを聞き、B2課長は、Cが日頃から第2組合の組合員と昼食のため外に出
ていることを知っていた。
これら事実からすると、10月8日において、B2課長が、Cは既に第2組合加入しており、第1組合よりも第2組合の組合員
と懇意にしていると思ったことから、既に第2組合の組合員として認められているのであろうと思ったとしても不合理ではなく、
Cが第2組合員である旨の同課長の発言が、第1組合の新入社員に対する加入活動を妨害するものであったり、会社が、Cの第2
組合への加入を意図し、促進していたとは認められず、18年協約に違反するもの等でもなく、支配介入には当たらない。
4 争点4
27年10月8日8限終了時のB2課長の言動は、組合の運営に対する支配介入の不当労働行為に当たるか。
(1) 第1組合役員と分会役員は、8限終了後予告なく現れ、B2課長を半ば取り囲むようにして立ち、少なくとも3分以上に
わたって一方的に抗議した。抗議は、9限開始の予鈴が鳴っている間も続けられており、同課長の業務遂行を妨げる可能性があっ
た。B2課長が、「何が労働協約だ」と発言し、机を叩いた行動は、7人に半ば取り囲まれている状態から逃れて、速やかに9限
の教育指導業務に行く必要に迫られてのものとして、やむを得ないものであったと認められる。
(2) したがって、B2課長の言動がその場にいた組合員らに対する威嚇的なものであったとしても、それはその場から離れ業
務を遂行するためのものであり、組合活動自体を威嚇する意図があったとまではいえず、また、この同課長1人の言動がその場に
いた第1組合員役員と分会役員7名を萎縮させるようなものとは到底認められないから、同課長の言動が支配介入であるとはいえ
ない。
5 争点5
27年10月9日始業前のB1社長の発言は、第1組合の新入社員に対する加入活動を妨害するものであり、第1組合との18
年協約に違反するか。そうだとした場合、支配介入の不当労働行為に当たるか。
(1) B1社長は、10月9日、第1組合に対し、「憲法がある。どの組合に入るかは自由だ」と発言したが、争点1で判断し
たとおり、18年協約第3条は、ユ・シ協定としての効力が認められないこと、同社長が、Cに対し、第2組合に加入するような
働きかけを行った事実も認められないこと、同社長の発言は、憲法が認める団結権やCの組合選択の自由について述べるにとど
まっていることからすると、これら発言が第1組合の新入社員に対する加入活動を妨害したとは認められず、18年協約違反にな
るものでもない
(2) B1社長は、10月8日の第1組合のB2課長に対する行動を強い口調で非難し、謝罪を求めたが、当該言動の端緒と
なっているのは、同日8限終了時第1組合役員と分会役員の同課長に対する抗議であり、当該抗議が同課長の業務遂行の妨げとな
り得る可能性があったものであり、それを咎めた同社長の発言は、第1組合に打撃を与えたり、萎縮させようとの意図で行われた
ものとは認められず、かつ、第1組合に打撃を与えたり、萎縮させたとまでは認められないことから、支配介入であるとまでいえ
ない。
6 争点6
27年10月9日の朝礼におけるB1社長の発言は、使用者の地位を濫用した第1組合に対する批判であるか。そうだとした場
合、支配介入の不当労働行為に当たるか。
(1) B1社長が、非組合員も含めた全社員の前で、10月8日8限終了時に第1組合役員と分会役員がB2課長に対し抗議を
申し入れた行為について、第1組合に謝罪を求める意見を表明したが、これは当該行為が同課長の業務を妨げる可能性があったた
め、職場の秩序維持の観点から、全社員に向けて節度ある行動を取るよう呼びかけたものと認められる。
(2) 朝礼において、A2及びA3が、不当労働行為だと発言した際のB1社長の「黙れ、静かにしろ」との発言は、従業員以
外の者からの突然の発言に対して出たものであって、第1組合の運営の妨害を意図したものはといえず、また、この発言によって
第1組合が打撃を受けたり、組合活動を萎縮させられたりといった事情は認められない。
(3) したがって、10月9日の朝礼におけるB1社長の発言は、穏当さに欠ける部分があったとしても、支配介入であるとま
ではいえず、不当労働行為には当たらない。 |
掲載文献 |
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