労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  都労委平成27年(不)第106号
青林堂不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  株式会社Y(会社) 
命令年月日  平成29年3月7日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   A2は、従前、会社から解雇を予告されたが、それを含む都労委平成26年(不)第120号事件(以下「前件」という。)の和解が成立し、復職した。
 しかし、A2の復職後の労働条件をめぐって、会社と組合の間で再び紛争が生じ、組合は、東京都労働委員会に不当労働行為事件の救済申立てを行った。そうした中で、平成26年12月3日、B1社長が、B2専務や他の従業員がいる前で、A2に対し、「全ての元凶は組合なわけよ。君が組合をやめれば普通にみんな付き合う」「まあ、こういうこと言うと、支配介入って言われるけどな」、「何でも言うよ。君が嫌いじゃなくて、組合が嫌いなんだから」などの発言(以下「本件発言」という。)をしたところ、組合は、上記の不当労働行為事件の追加の申立てを行った。
 本件は、本件発言が、組合の運営に対する支配加入に当たるか否かが争われた事件で、東京都労働委員会は、会社に対し、組合からの脱退勧奨の禁止、文書の交付・掲示等を命じた  
命令主文  1 被申立人会社は、申立人組合の組合員に対して同組合からの脱退を勧奨したり、同組合を非難する発言をするなどして、同組合の組織、運営に支配介入してはならない。
2 被申立人会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書で明瞭に墨書して、会社内の従業員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。

年 月 日

  組合
  執行委員長 A1殿
         
会社           
代表取締役 B1
 当社代表取締役が、平成27年12月3日、会社内において貴組合員に対し組合からの脱退を勧奨したこと及び貴組合を非難する発言をしたことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は、文書を交付又は掲示した日を記載すること。)
3 被申立人会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。  
判断の要旨  1 会社は、本件発言の存在や内容については認めるが、本件発言は憲法で保障する言論の自由の範囲内のものであり、支配介入に当たらないと主張する。
① B1社長は、「全ての元凶は、組合なわけよ。君が組合辞めれば、辞めれば、普通みんな付き合う」、「そういう可能性は、ないわけ。みんな君のこと嫌っているけど、それ以上に組合に対して、非常にアレルギー、アレルギーがある」と発言している。これらの発言は、直接的にA2に対して向けられ、A2が組合員であることが労使紛争の原因であるとして、組合を非難ないし批判するものであると同時に、明らかに組合からの脱退を促す発言である。
② また、発言当時の労使関係をみると、A2の解雇に関連した前件において、和解が成立した後、同人が復職したものの、復職後間もなく職務内容など労働条件について再び労使間で問題が発生し、対立関係が厳しくなる中で行われたものである。
③ さらに、発言当時の状況をみると、A2は、会社内における唯一の組合員であり、本件発言は、会社内においてA2の勤務時間中、B1社長のほかB2専務や他の従業員が同席する中で行われた。そのような状況下において、会社代表者であるB1社長が組合への非難や明らかな組合脱退勧奨発言をすれば、組合員として組合活動を続けることについて直裁的な威嚇効果があり、会社内において組合活動が阻害される効果は極めて大きいといえる。
④ 以上のことから、使用者側の言論の自由を考慮しても、会社がその存在と内容について認めている本件発言は、組合の組織、運営や組合活動に悪影響を与えるものであることが明らかであり、組合の組織運営に対する支配介入に当たる。
2 この点、会社は、本件発言は、B1社長が組合活動に対する知識がない中で組合に対応し、精神的に追い詰められた中でなされたものであり、発言当時B1社長は心神衰弱状態で責任能力がなかったと主張する。
① 確かに、B1社長は、うつ病とされる診断書を交付されているが、心神耗弱とは弁識能力又は行動制御能力が著しく減退した状態をいうところ、診断書においてはその旨の記載がない。
② むしろ、B1社長は「まあ。こういうこと言うと、支配介入と言われるけどな。君のこれからの人生のことを考えると、そういう結論」、「組合と縁を切ったら、まだ付き合える」等述べているのであるから、自身の発言が労働組合法で禁止される支配介入に該当し得ることを認識した上で、組合からの脱退勧奨や組合に対する嫌悪の情を示す発言を繰り返し行っていたというべきであり、精神的に追い詰められ、責任能力がなかったとする会社の主張は採用できない。
3 また、会社は、本件審査において不当労働行為として禁止されている行為を断じて行わないと誓約していることから救済命令の必要性はないと主張する。しかし、組合が新たな申立てをするなど、組合と会社の間で円滑な労使関係が構築されているとはいえず、当該誓約が遵守される保障もないことから、救済の利益が失われたということはできない。   
掲載文献   

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