労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神労委平成26年(不)第31号
エス・エフ・ティー不当労働行為審査事件 
申立人  X組合「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  平成29年3月16日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、神奈川県労働委員会におけるあっせん事件において、誠実団体交渉実施等を定めた協定を締結したにもかかわらず、申立人組合の組合員A2の賃金を減額したことに関する組合からの団体交渉申入れに対し、引き延ばしをした上で、その後に実施された団体交渉においても不誠実な対応をしたこと等が不当労働行為に当たるとして救済申立てがあった事件で、神奈川県労働委員会は、申立てを棄却した。  
命令主文  本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 争点①(会社のA2に対する平成25年10月25日付け賃金減額に関する団体交渉の対応は、不誠実な交渉態度及び組合に対する支配介入に当たるか否か。)
(1) 団体交渉に至るまでの会社の対応について
 会社は、①A2に対する平成25年10月25日付け賃金減額に関する同月29日付けの組合からの団体交渉開催要求に対し何ら回答せず、②その後、組合から度重なる文書送付がなされてはじめて同年11月26日付け回答文書を送付したが、この時点で、組合が最初に団体交渉の開催を要求してから約1か月が経過しているにもかかわらず、回答に遅れた理由等を全く説明せず、③組合に対して当該回答文書で団体交渉に応じるとの回答はしたものの、多忙であることのみを理由として、開催可能な時期をそこからさらに2か月後の平成26年1月下旬とした。このような会社の対応は、団体交渉の開催を先延ばしにした行為であり、不誠実な対応であったといわざるを得ない。
(2)団体交渉における会社の対応について 
① 組合が会社に対して、A2の平成25年10月25日付け賃金減額を行った根拠の説明を求め、A2の賃金を元に戻すことを要求したのに対し、会社は、平成26年3月1日の第2回団体交渉において、A2に対する賃金減額は賃金規定に基づくものではなく、A2がプログラマーとして採用されておきながらプログラマーとしての仕事を行っていないため、債務不履行により賃金を減額したことを説明し、A2がプログラマーとしての仕事をしていない以上は、組合の要求に応じられない旨を繰り返し説明しており、組合と会社の間には、賃金減額の意味とその根拠をめぐって根本的な理解の対立があり、そのことが団体交渉が進展しない大きな原因であったと考えられること、②会社は、A2に継続的なスマートフォン用アプリケーション開発のための研修を受けさせることで、会社が主張するA2の債務不履行状態が解消され、結果として賃金を元に戻すという組合の要求に応じられるよう会社なりに努力していること、③団体交渉における会社の「申し上げられません」、「以上です。これ以上のことは申し上げるつもりはありません」等の発言は、組合が会社に対して同じ質問を繰り返し、組合の要求事項に応じるよう執拗に要求し、そのたびに会社が同じ回答を述べるというやり取りが行われた後に、結果として会社が交渉を終了させる趣旨の発言をしたものと認められること等から、団体交渉における会社の対応は、組合の要求内容や交渉態度も考慮すれば不誠実であったとまではいえない。
(3) A2に対する平成25年10月25日付け賃金減額に関して、団体交渉に至るまでの会社の対応は、不誠実な交渉態度であったといわざるを得ず労組法第7条第2号に該当するとともに、早期に団体交渉を開催することによって、問題を解決しようとする組合の目的を阻害し、組合の弱体化をもたらす行為であるから同条第3号に該当するが、団体交渉における会社の対応については、不当労働行為には当たらない。
2 争点②(会社の組合に対する対応の中に、平成26年4月7日付け協定書に違反する行為があったか否か。そのような行為があった場合、それが組合に対する支配介入に当たるか否か。)
(1) 会社は、平成26年10月6日からのA2に対する申立外C社内における常駐作業命令について、組合に通知を行わなかったが、A2を申立外C社内において常駐作業させることは、A2の就労場所が変更になるということであるから、労働条件の変更に当たり、協定書に定めた組合への通知が必要であった。
 また、同年11月25日付けA2に対する賃金減額については、給与支給日の当日に組合に通知したが、賃金の減額は重大な労働条件の変更に当たり、会社は可能な限り早く組合に通知する必要があるといえ、会社がA2の賃金減額について給与支給日当日に組合に通知したことは協定書第2項に違反する行為である。
 会社が、組合との協定を遵守しないことは、組合が組合員の労働条件変更について速やかに対応することを妨げ、ひいては組合の弱体化につながるおそれがあることから、組合に対する支配介入に当たる。
(2) 協定書第3項では、組合と会社は要求、提案及び回答する場面は原則書面で行うことが記載されている。
 会社は、組合からの平成26年4月23日「団交申入書」等について、団体交渉で口頭で回答しているが、一度回答したことについて、組合が同様の要求を行ったとしても、会社がそれに対して何度も同じ回答を文書で提出しなければならない理由は認められないから、会社が文書回答を行わなかったことは、協定書第3項に違反する行為ではなく、組合に対する支配介入には当たらない。
3 救済方法について
(1) A2に対する平成25年10月25日付け賃金減額に関して、団体交渉の開催に至るまでの会社の対応は不当労働行為に該当するが、会社は、協定書締結以降、組合からの団体交渉の申入れがあった場合には、その開催日の決定について誠実に対応しているといえることから、現時点において救済を命じる必要性はないと判断する。
(2) 会社の組合に対する対応の中には、協定書に違反し、不当労働行為に該当する行為があったことは認められるが、A2に対する申立外C社内における常勤作業命令については、会社では従業員が顧客先に常駐して作業を行うことが頻繁になされており、会社はそれを労働条件の変更と認識していなかった面もある。
 また、A2に対する平成26年11月25日付け賃金減額については、同年10月24日にB2部長がA2に査定結果を伝えており、会社が主張するように、給与支給額の決定が給与支給日の直前となったために組合に対する通知が遅れたという事情も認められる。
 加えて、会社は、会社の対応の中には認識不足のために協定書に違反していたものがあったことを認め、今後は協定書に違反する事項がないよう注意を怠らないようにする旨を述べている。
 以上のことと審査の全趣旨を総合的に考量すると、会社が今後上記のような協定書に反する行為を繰り返すおそれはないと考えられることから、将来に向けた救済を命じる必要性はないと判断する。  
掲載文献   

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