労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  沖労委平成26年(不)第2号及び同平成27年(不)第2号
祐愛会宮古の里不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(X2組合と合わせて「組合ら」) 
申立人  X2組合 
被申立人  Y法人(「法人」) 
命令年月日  平成29年1月27日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、X2組合執行委員長A2及びその当時同組合副執行委員長であったA3と、平成26年9月に労働契約を更新するにあたり、A2及びA3の基本賃金を従前より引き下げたこと(以下「本件賃金引下げ」という。)、並びにA2に対して同年6月賞与(以下「本件6月賞与」という。)及び同年12月賞与(以下「本件12月賞与」という。)を支給しなかったことが、不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件であり、沖縄県労働委員会は、法人に対し、バックペイ及び文書の掲示を命じた。  
命令主文  1 被申立人は、平成26年9月から平成27年8月までの申立人組合員A2の基本賃金については、降給がなかったものとして、平成25年9月から平成26年8月までの基本賃金の額と同額とし、既に支給した額との差額を、同人に対し、支払わなければならない。
2 被申立人は、平成26年6月及び同年12月の申立人組合員A2の賞与については、被申立人の賞与の計算式により、掛率を同年6月賞与については1.1、同年12月賞与については1.2とし、支給率及び査定率を100パーセントとして算出して得た額を、行事不参加の回数に応じた減額を行うことなく、同人に対し、支払わなければならない。
 この場合、同年12月賞与については、同年9月に基本賃金の降給はなかったものとして計算しなければならない。
3 被申立人は、本命令書を受領した日から15日以内に、縦55センチメートル横80センチメートル(新聞紙2頁大)の大きさの白紙に、別紙のとおり明瞭に記載し、特別養護老人ホームB2の玄関の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。  
判断の要旨  1 本件賃金引下げについて(争点1)
(1) 本件賃金引下げは、平成26年9月のA2及びA3の有期労働契約更新時に、A2及びA3が介護職に復帰した平成25年9月から同年11月まで(以下「評価期間Ⅰ」という。)及び同年12月から平成26年5月まで(以下「評価期間Ⅱ」という。)を評価期間とする人事考課の評価結果に基づき、従前の基本賃金の1割に相当する額を降給する旨の決定を踏まえてなされたものである。
(2) 本件賃金引下げは不合理なものか
 法人が技術不足等を理由に、A2及びA3の評価を1としたことには全く理由がなく、その評価に基づくA2及びA3の降給の決定及び降給後の基本賃金の額の決定についても、給与規程によるものであったとはいえないことから、本件賃金引下げは、不合理なものであったと認められる。
(3) 本件賃金引下げは組合員によることの故によるものか
① 組合結成当時から存在していた組合と法人との対立関係は、組合員が介護職へ復帰した後もなお継続していたものと認めるのが相当である。
② 法人が、平成25年8月29日、給与規定に新たに人事考課で総合評価が2.0以下の職員を降給対象とする旨の規定を加えたのは、同月16日の判決によりA2及びA3が本件施設に復帰することが確実となる、その復帰直前になされたものであること等から、法人が、人事考課制度の導入及び就業規則に降給の定めをおいたのは、A2ら組合員の復帰を想定して行われたものと認めるのが相当である。
③ ほかの介護職員については、評価結果が4又は5であったのに対し、組合員であるA2及びA3は、介護職に復帰した平成25年9月から同年11月までの僅か3か月間について何らの理由もなく最低評価の1とされ、評価期間Ⅱにおいても1と評価され、その結果、組合員であるA2及びA3のみ賃金が引き下げられるという大きな経済的不利益を受けたものである。
④ これらを総合すると、本件賃金引下げは、法人が組合員を標的とし、組合員のみに経済的な不利益を与える意図に基づいてなされたものと認めるのが相当である。
(4) したがって、本件賃金引下げは、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当する。
2 本件6月賞与不支給について(争点2)
(1) 本件6月賞与不支給は不合理なものであったか。
 法人がA2に本件6月賞与を支給しなかったのは、評価期間Ⅱにおける人事考課に基づき、細則によって賞与の査定額を算出し、A2の行事不参加の回数に応じた減額を行ったことによるものである。
 本件については、本件施設の就業規則にも、A2に交付した労働条件通知書にも、勤務時間外の行事参加義務は明記されていないことからすれば、法人が、職員に対し勤務時間外の行事への参加を義務づけるには、個別に就業規則第18条第5項に定める休日勤務に係る施設長の業務命令を発しなければならないが、個別の業務命令が発せられた様子は窺われない。
 したがって、法人が、A2を含む職員の賞与を、労働義務を負わない勤務時間外の行事に参加しなかったことをもって減額したことは、違法不当なものであったことは明らかである。
(2) 本件6月賞与不支給は組合員であることの故によるものか
① 本件6月賞与不支給に際しても、行事不参加の回数に応じて賞与から減額する旨を細則に明文化したのは、A2及びA3が介護職に復帰して初めての賞与となる平成25年12月賞与の支給時期直前であったこと、当該細則規定の新設について組合員には説明していなかったこと、法人が承諾書の提出を勤務時間外の行事参加への条件としたことにより、組合員は勤務時間外に開催された行事に参加できなかったため、A2は、本件6月賞与が支給されないという大きな経済的不利益を受けたことが認められる。
② この点について、法人は、組合員の行事参加を禁止したことはなく、組合員が自らの意思で行事に参加しなかった旨主張するが、組合員が解雇又は雇止めを受ける前においては、行事不参加による賞与からの減額は少なく、このことから勤務時間外の行事に概ね参加していたことが窺える。そうだとすると、組合員が自らの意思で行事に参加しなくなったと認めるのは困難である。
③ 組合は、法人に対し、法人が提出を求める承諾書というのは、勤務時間外の行事への参加手当が職務手当等に含まれること、労働基準法や就業規則を下回る労働条件についての承諾を求めるもので応じられない旨の回答書を提出している。それにもかかわらず、法人は、あたかも回答書が提出されていないかの如くに、組合員に対し承諾書を提出してから行事に参加することを繰り返していることからすれば、組合員が組合の方針に従う限りにおいて、かかる承諾書を提出せず、行事に参加できないことを知悉していたともみられる。
 このようなところからすると、承諾書を提出してから行事に参加することを再三にわたり求める法人の態度は、組合員の行事参加を実質的に禁止し、あるいは、参加できないことに乗じて賞与を減額することを企図したものとさえいい得るものである。
④ したがって、本件6月賞与の不支給は、組合員であることの故によるものといわなければならない。
(3) 以上のことから、法人がA2に本件6月賞与を支給しなかったことは、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当する。
3 本件12月賞与不支給について(争点3)
(1) 本件12月賞与不支給は不合理なものであったか 
 本件12月賞与の査定にかかる平成26年6月から同年11月までの評価期間(評価期間Ⅲ)におけるA2の能力や勤務態度について、法人は、A2が平成26年6月21日に44分、同年7月29日に26分遅刻したことに対し厳重注意書・警告書をそれぞれ交付しており、これをもってA2を勤務態度不良と評価した理由と主張するが、2回の遅刻だけをもって、A2の総合評価を1とすることは相当でないことは明らかである。しかも、法人の人事考課における評価は、B3施設長1人の主観のみで決定され、恣意的な評価が入り込む余地が大きなものであったことを併せ考えると、当該評価期間におけるA2の能力や勤務態度を適正に評価したものとは到底いえない。
(2) 本件12月賞与不支給は組合員であることの故によるものか
 法人がA2に本件12月賞与を支給しなかったのは、人事考課の評価結果に基づいて算出した査定額が著しく低額になったことに加えて、その査定額からA2が勤務時間外の行事に参加しなかった回数に所定の額を乗じて算出した金額を減額したことを指摘しているけれども、A2を含む職員には勤務時間外の行事に参加すべき義務は生じていないというべきことから、労働義務を負わない勤務時間外の行事に参加しなかったことをもって賞与を減額したことは違法不当なものである。
(2) 争点1及び2について認定・説示したとおり、法人の組合員に対する処遇は、ほかの介護職員との均衡を明らかに失するほど経済的な打撃を与えるものであって、その後本件12月賞与の不支給に至るまでの間に、それが解消されたことを窺わせる事情は全く見受けられない。むしろ、本件の事実経過に照らせば、組合員であることの故に、引き続きA2に対して経済的な打撃を与えるべく、本件12月賞与の不支給に至ったと認めるのが相当である。
(3) 以上のとおり、法人がA2に本件12月賞与を支給しなかったことは、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当する。  
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