労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  埼労委平成26年(不)第1号 
申立人  X1組合(X2と合わせて「組合ら」) 
申立人  X2組合 
被申立人  Y法人(「法人」) 
命令年月日  平成28年12月12日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   法人は、平成25年3月、埼玉県学事課長の依頼に基づき法人の運 営するB2高等学校の生徒及び保護者に対して「体罰の実態把握のためのアンケート」(以下「本件アンケート」という。)を実 施した際、本件アンケートに自らの体罰についての記載がある旨申告したA2に対し、平成25年4月1日、同日の定期昇給を停 止する旨の懲戒処分を行うとともに学級担任を外すことを申し渡したが、本件アンケートに記載のあった他の体罰については、事 後調査をしなかった。
 組合らは、その後の団体交渉において、A2の懲戒処分の撤回、本件アンケートの原本の開示、A2の懲戒処分に係る懲戒会議 の議事録の開示等を求めたが法人は応じなかった。
 本件は、法人が、A2に対し、懲戒処分及び学級担任外しを行ったこと及び組合らと法人の間で当該懲戒処分について行われた 団体交渉における法人の対応が、不当労働行為に当たるとして救済申立てのあった事件で、埼玉県労働委員会は、法人に対し文書 の手交を命じた。  
命令主文  1 被申立人法人は、下記の文書を本命令書受領の日から15日以内 に申立人X1組合及び同X2組合に手交しなければならない。(下記文書の中の年月日は、手交する日を記載すること)。

平成  年  月  日
X1組合
 中央執行委員長 A1様
X2組合
 中央執行委員長 A2様
法人      
理事長 B1

 当法人が行った下記の行為は、埼玉県労働委員会において、労働組合法第7条第2号の不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにします。

 「A2氏の懲戒処分に関して」を議題として行われた第1回団体交渉から第4回団体交渉までにおいて、貴組合からの平成25 年3月29日実施の懲戒会議の議事録(備忘録を含む)の開示要求及びB2高等学校における体罰による懲戒事例に関する説明要 求に対して、誠実に対応しなかったこと。

2 申立人らのその余の申立ては、これを棄却する。  
判断の要旨  1 法人が平成25年4月1日付けで行ったA2に対する懲戒処分は 不当労働行為(労組法第7条第1号)に当たるか。(争点1)
(1)本件懲戒処分の合理性について
 (法人は)他のアンケートについての体罰の有無を確認しないまま、A2に対し、本件昇給停止処分を行ったことから、組合ら が主張する平等取扱いの原則について判断するまでもなく、本件昇給停止処分には合理性が認められない。
(2)X2組合と法人の労使関係
 平成15年のA3の転籍問題以来の約10年間、本件昇給停止処分が行われるまでは、訴訟のほか労働委員会における不当労働 行為救済申立てや労働争議のあっせん申請はなく、第2代執行委員長であるA4の証言から、労使間での懸念事項はなくなり継続 的かつ安定的な労使関係が維持されていたとするのが相当である。
(3)不当労働行為の成否
① 法人が、A2以外のアンケートの事後調査をしなかった理由について
ア 当時、高校生が部活動の顧問からの体罰が原因で自殺するなど、教師による体罰が世間の耳目を集めている中、法人は、法人 内の体罰の実態を明らかにしようとしたのではなく、むしろ、世間からの批判を恐れ体罰の実態から目を背けようとしていたとす るのが相当である。
イ このことは、法人が、平成25年3月2日の時点でA2による体罰の事実を把握しておきながら、同月22日までに県学事課 長に対して体罰件数をゼロで報告していることからも分かる。
ウ すなわち、法人が、A2以外のアンケートについて事後調査をしなかった理由は、労使関係とは関係がなく、法人には、本件 アンケートを機会に法人内における体罰を明らかにしようとする考えが希薄だったためとなる。
② 一方A2に対しては、A2からの申告があり、しかも被害生徒の保護者が教育関係者でB3と知り合いであったため、法人と しては何もせず放置しておくことができないことから、A2だけに始末書の作成・提出や事情聴取を進め、本件昇給停止処分を実 施したにすぎないとするのが相当である。
③ 理事長・校長が自ら体罰厳禁と宣言しておきながら、本件アンケートを機会に法人内における体罰の実態を明らかにしなかっ た法人の対応は非難されるべきものではあるが、それは体罰撲滅に関する法人の姿勢の問題であると言え、A2だけに懲戒処分を 実施したこと自体が、法人の不当労働行為意思の表れであるとまでは認定できない。
④ したがって、本件昇停止処分は、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に当たらない。
2 法人がA2を学級担任から外したことは、不当労働行為(労組法第7条第1号)に当たるか。(争点2)
① 本件学級担任外しは、労組法第7条第1号の「不利益取扱い」に当たる。
② しかし、平成25年3月21日までにB6校長代行及び3名の教頭により、A2を平成25年度も学級担任にするとした決定 を、その後に理事長・校長が、特に厳しくなっている教員の生徒に対する体罰への社会からの目や保護者の心情等を踏まえ、感情 的になって生徒の頭部を10回余り叩くという体罰を行ったA2に対して、教育的配慮から、学級担任ではなく副担任に変えたと しても、その権限を濫用したとは言えず、合理的であると言える。
③ また、組合と法人の労使関係については、継続的かつ安定的な労使関係が維持されていた。
④ したがって、本件学級担任外しは、労組法第7条第1号の不当労働行為には当たらない。
3 法人の団体交渉における以下の対応(下記①~⑥)は、不当労働行為(労働組合法第7条第2号)に当たるか。(争点3)
① 平成25年3月及び同年6月に実施したアンケートの原本を開示しないこと
ア 本件アンケートは、回答者のプライバシーが記載されているものであり、その保護が極めて重要なものであることから、法人 が積極的に開示できる資料ではない。そして、自身が担任するクラスについて、本件アンケートの回収に携わっているA2ならば その保護の重要性を当然理解できるはずである。
イ すなわち、C弁護士の対応はやむを得ないものであり、法人は組合らが理解しうるよう努力していると言える。
ウ したがって、法人がアンケートの原本を開示しないことは、労組法第7条第2号で禁止する不誠実な団体交渉に当たらない。
② 平成25年3月に実施したアンケートの結果について県学事課に提出した資料を開示しないこと
ア 一件記録を精査しても組合らが法人に対して、法人が県学事課に提出した資料の開示を要求した事実は認められない。
イ したがって、法人が当該資料を開示しないことは、労組法第7条第2号で禁止する不誠実な団体交渉に当たらない。
③ 平成25年3月29日実施の懲戒会議の議事録(備忘録や懲戒会議開催に当たって収集した書面を含む)を開示しないこと
ア 組合らが、3.29会議における議事録を要求したのは、3.29会議において過去の処分例と比較したかどうか、A2が体 罰を行った経緯が議論されたかどうかを知るためである。
イ それにもかかわらず、法人の対応は、平成25年3月28日に行ったA2に対する事情聴取の内容を3.29会議で報告した ことを説明した以外は、3.29会議の議事録は存在しない、と繰り返すのみで、組合らが理解し納得するような努力をしなかっ たと言うべきである。
ウ したがって、法人の対応は不当労働行為に該当する。
④ B2高等学校における体罰による懲戒事例に関する資料を提出しないこと
ア 過去の体罰による懲戒事例は、懲戒処分の相当性を検討する上で必要と考えられるので、組合らが法人に要求することには理 由があると言える。これに対し、プライバシー保護の観点から説明できないとする法人の主張にも一理あるが、組合らは具体的な 人名を挙げなくても構わない、と譲歩する姿勢を示している。
イ 法人は、組合らに対して、教員名を伏せた形で、懲戒処分の時期や懲戒内容が記載された資料を提示できたはずである。実際 に法人は、当該資料を本件審査においての証拠として当委員会あてに提出しており、法人の対応は組合らが納得するような努力を しなかったと言うべきである。
ウ したがって、法人の対応は、不当労働行為に該当する。
⑤ 組合員に対する根拠のない誹謗中傷を行うこと
 組合が、組合員に対する根拠のない誹謗中傷であるとするC弁護士の発言の中には、団体交渉を軽視する不穏当なものも含まれ ているが、発言がなされた状況等に鑑みると、それらの発言をもって、法人が不誠実な団体交渉を行ったとはいえない。
⑥ A2に対する平成25年4月1日付け懲戒処分や学級担任外しについて、団体交渉において撤回しないこと
ア 4回にわたる団体交渉において、法人は、懲戒処分を撤回できないと回答し、その理由も説明するとともに学級担任外しは二 重処分及び降格に当たらないことについても法人の主張を、組合らが理解し、納得することを目指して努力したと言える。
イ したがって、法人の対応は、不当労働行為に当たらない。  
掲載文献   

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