概要情報
事件番号・通称事件名 |
兵庫県労委平成27年(不)第2号 不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X1組合(「組合」) |
申立人 |
X2~X30(個人) |
被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
平成28年11月10日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、①平成26年年末一時金(以下「本件一時金」という。)に係る団体交渉において被申立人会社が不誠実な対応をしたこと、②被申立人会社が、申立人組合の組合員に本件一時金を支給しなかったこと、③被申立人会社が乗務日当等を割増賃金算定の基準内賃金に含めずに割増賃金を算定していたことによる、未払割増金は、申立人組合が裁判闘争の結果獲得したものであるにもかかわらず、被申立人会社が、平成26年12月26日付け覚書き等に基づき、申立人組合の組合員以外の従業員に対し未払割増金に相当する金員を支給したことが不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件で、兵庫県労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。
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判断の要旨 |
1 本件一時金交渉に係る被申立人会社の対応は、不誠実団体交渉に該当するか。(争点1)
① 被申立人会社は、申立人組合に対し、第1回から第4回までの本件一時金交渉において、財務状況との関係で一定の説明をしたということができる。
特に、被申立人会社は、申立人組合に対し、第3回団体交渉において、別表に記載されている車両売却費の残額は、運転資金として必要なものであり、本件一時金の原資には使わない旨回答し、第4回団体交渉において、保有している資金は、運営するための資金として必要なものであり、本件一時金の原資にはできない旨などを説明したことが認められることから、被申立人会社は、本件一時金交渉において、本件一時金の原資の状況に言及し、具体的に説明したということができる。
② 本件一時金交渉において被申立人会社が提示した運送管理表は、損益計算書の内容と類似の内容が記載されている資料であり、別表は、その運送管理表に記載されている数値に係るより詳細な説明資料であるといえるので、被申立人会社が運送管理表及び別表を提示して説明していることからすると、本件一時金の提案額の根拠や本件一時金の原資の有無について、財務状況との関係で必要な資料を提示して説明しているということができる。
③ さらに、第2回団体交渉において、申立人組合は、本件一時金支給額の検討結果の回答を求めたのに対し、被申立人会社は、財務状況が赤字であるため20万円の提示を維持すること、本件一時金支給額について、支出が収入を上回るコスト構造の問題を抱えており、この問題が改善されない限り、仮に単年度の黒字が出ても、今以上の額の回答は難しい旨説明したこと、第4回団体交渉において、申立人組合は、運送管理表と別表の数値が一致しない箇所について、資料に基づいた説明を求めたのに対し、被申立人会社は、運送管理表は月次決算前の資料で確定分ではなく、その後月次決算を行った際に数値を修正しており、修正後の数値を引用したものが別表であることを説明したことなどが認められる。
これらのことからすると、被申立人会社は、申立人組合の説明要求に対しては、適切に対応しているということができる。
④ 以上のとおり、第1回から第4回までの団体交渉において、被申立人会社は、必要な資料を提示し、具体的に説明を行っていること及び申立人組合の説明の要求に対しては、適切に対応していることからすると、被申立人会社は、このような対応を通じて合意形成の可能性を模索しているということができるので、被申立人会社の対応は、不誠実な団体交渉であるということはできず、労組法第7条第2号には該当しない。
2 被申立人会社が、本件一時金を申立人組合の組合員に支給しなかったことは、申立人組合の組合員に対する不利益取扱い及び申立人組合に対する支配介入に該当するか。(争点2)
被申立人会社は、単に、本件一時金について、妥結できていないから支払えなかったに過ぎず、その後の経過をみても、被申立人会社があえて申立人組合と妥結しないようにしたとも認めることはできない。
そうすると、申立人組合が団体交渉において被申立人会社の財務状況について質問するという正当な組合活動を行った故に、被申立人会社は、本件一時金を支給しなかったということはできないので、本件一時金を支給しなかったことが、申立人組合の組合員に対する不利益取扱い及び申立人組合に対する支配介入に該当するという申立人らの主張には理由がない。
3 被申立人会社が、平成26年12月26日付け覚書に基づきC労組の組合員に対し、金員を支給したこと及び平成27年1月28日付け覚書等に基づき非組合員に対し、金員を支給したことは、申立人組合に対する支配介入に該当するか。(争点3)
① 申立人らが主張するように、原告らに支払われた未払割増賃金は、申立人組合の裁判闘争の結果得られたものということができ、この申立人組合の組合活動の成果といえるものを、裁判闘争を行っていないC労組の組合員及び非組合員に与えることは、申立人組合の組合活動の成果を実質的に減殺し、申立人組合の組合員の団結を揺るがすことになり得るということもできる。
② しかしながら、第1次訴訟及び第2次訴訟の争点は、乗務日当等を割増賃金算定の基準内賃金に含めるかどうかという全乗務員に適用される賃金制度の仕組み自体に関わるものであること、C労組の組合員及び非組合員に支給することは、当該裁判で認められた賃金制度の仕組みをC労組の組合員及び非組合員に対して適用したに過ぎないことが認められる。
③ さらには、被申立人会社は、C労組の組合員及び非組合員に対して原告らに支払った平成20年4月分から平成24年2月分までの間における未払割増金額の平均額の97パーセント相当額を支払い、遅延損害金については支払わないなど申立人組合へ一定の配慮をしていることが認められる。
④ これらのことを併せ考えると、被申立人会社が、C労組の組合員及び非組合員に対して乗務日当等を割増賃金の算定基礎に組み入れた場合の賃金支給額と実際の支給額との差額を支給したことは、申立人組合を弱体化させる意図に基づきなされたものとまではいうことができない。
したがって、労組法第7条第3号に該当しない。
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掲載文献 |
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