労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  岩労委平成27年(不)第1号の2
不当労働行為審査事件  
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  平成28年9月27日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   組合と会社が締結した、平成27年5月28日付け和解協定には、会社が組合員であること及び組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱いをしないこと、団交ルールに関すること等、労使関係等に関することのほか、会社が、組合員4名を、組合が実施したストライキ以前の担当エリア、担当業務に復帰させること、会社が上記とは別の組合員に対し、再雇用すること等が定められていた。
 本件は、会社が、当該和解協定を履行したか等が争われた事案で、岩手県労働委員会は、会社に対して、和解協定書の履行、文書の掲示及びその履行に係る報告を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、平成28年5月28日付け和解協定に定めた下記事項の履行に直ちに取り組まなければならない。
(1) 組合員に対し、組合員であること及び組合活動を行ったことを理由に不利益取扱いと疑われるような行為はしない。
(2) 組合員に対し、業務命令を発する場合は、その根拠及び理由を十分に説明する。
(3) 指導書の根拠及びその効果を明文化する。
(4) 団体交渉については、平成25年1月31日の訴訟上の和解条項に記載のルールを遵守することを確認する。
(5) 団体交渉を申し込まれた場合は、日程の確保に努め、業務都合などやむを得ない理由により例外的に開催日が遅れる場合は、組合に対し理由を説明する。
(6) 団体交渉の開催に当たっては、相手の立場を考慮し、真摯に対応し、問題の解決に努める。
(7) 団体交渉の開催に向けて、双方の実務者が打合せを行う労使事前協議会(仮称)を設置し、同協議会において団体交渉の日程及び議題並びに会社の業績向上及び職場環境について調整する。
(8) 労使事前協議会(仮称)の運営に当たって必要な事項は、労使間で誠意をもって協議する。
2(1) 被申立人は、平成27年5月28日付け和解協定にのっとり、A1、A2、A3及びA4に対する、平成27年6月15日付け辞令交付の際に新たに命じた業務を取り消し、直ちに平成25年12月16日に申立人が実施したストライキ以前の上記4名の元の担当業務、元の担当エリアに復帰させるとともに、根拠及び理由を十分に説明しない業務命令をしてはならない。
 (2) 被申立人は、A1、A2、A3及びA4を元の業務用机に復帰させ、上記4名に対する隔離、排除行為をやめなければならない。
3(1) 被申立人は、A5に対する平成27年9月3日付け通知による平成27年8月1日以降の雇用関係終了をなかったものとして扱い、平成26年7月31日までの労働条件(週5日勤務)と同一の条件で再雇用したものとして取り扱わなければならない。
 (2) 被申立人は、A5に対して、他の雇用者と同じ1年間の雇用期間として平成27年8月1日から平成28年7月31日までの間、及び平成28年8月1日から再雇用したものとして取り扱うまでの間、平成26年7月31日までと同一の基本賃金相当額を支払わなければならない。
 (3) 被申立人は、A5の再雇用における労働条件について、同人から委任を受けた申立人から団体交渉の申入れを受け入れたときは、誠意をもって対応しなければならない。
 (4) 被申立人は、再雇用に関する規程について、申立人から団体交渉の申入れがあった場合は誠意をもって対応しなければならない。
4 被申立人は、本命令書受領の日から7日以内に、日本工業規格B1版縦長白紙に下記のとおり楷書で明瞭に記載し、事務所内の見やすい場所に14日間掲示なければならない。
 なお、年月日は文書を記載した日を掲示すること。
記 (省略)
5 被申立人は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
6 申立人のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社は、5.28和解協定のうち、第3項(1)ないし(4)、第4項、第5項(1)、第6項(1)、第7項(1)、第9項(2)、第10項(1)、(2)及び(4)並びに第11項(1)ないし(2)を履行したか。履行していない場合、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点1)について
 5.28和解協定は、長年の労使紛争を収束させるために当事者双方が合意の上締結したものであり、当該和解協定により労使関係の改善及び労働環境の改善を図ろうとしたものであった。しかるに、会社が、当該和解協定締結後、多くの条項について履行する意思に乏しいとみなされる態度を示したことは、会社との関係改善が図られるという組合の期待を裏切るものである。結局、会社の当該和解協定不履行は、会社が従来からの組合及び組合員に対する不利益取扱いの態度を改めないことを意味し、組合及び組合員に対する不利益な取扱いに当たる。当該和解協定の不履行は、後述するように、25年ストライキ以来組合に対して抱いてきた嫌悪の念に由来する、不当労働行為意思に基づくものであると推認される。
 したがって、会社による5.28和解協定の不履行は、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当する。
2 A1、A2、A3及びA4に対する業務命令は労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか。
 会社は、組合員らを元の「総務部」、「営業部」の所属に戻したから、5.28和解協定を履行したとし、また、新たな業務命令は組合員らがその任に適しているからとなどと説明するに止まっている。しかし、当該和解協定第6項(1)にいう「配置転換前の職場」とは、単に「総務部」、「営業部」の名称をいうに止まらず、組合員が25年ストライキ直前に担当していた具体的業務を指すものであることは、当該和解協定の各条項が「現状回復」を基本として定められていたものであることからも明らかである。
 加えて、営業部員、総務部員として組合員らに命じた業務は、会社における評価の低いやりがいのない業務や、1人分の仕事量として不十分な業務であって、これら業務命令により組合員らは多大な精神的不利益を被ってきたのであり、組合員に対する不利益取扱いに当たる。
3 A2、A3、A4及びA5の机を27年6月15日に2階に配置したことは労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに当たるか(争点3)について
 会社は、組合員4名の業務用机を従来従業員の業務場所として使われてこなかった2階に配置し、同人らが業務用電話やコピー機を使用する必要がある時は1階に降りて行かなければならないなどの不便を与えた。加えて、組合員を非組合員等から引き離して隔離、排除し、同人らに著しい精神的不利益を与えてきたのであり、組合員に対する不利益な取扱いに当たる。
 会社には25年ストライキを実施した組合に対する嫌悪の念が存在していたことがうかがわれ、そのため机を2階に配置するに当たっても組合員を非組合員から隔離、排除することにより精神的不利益を与えようとする不当労働行為意思が存在したものと推認される。
 よって、組合員の机を2階に配置したことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当する。
4 26年8月1日から27年5月31日までの間、A5を週3日勤務としたことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点4)について
 5.28和解協定第9項(1)は、26年8月1日からの当該和解協定締結までの間のA5の労働条件問題を積み残したものではなく、むしろ、当該和解協定締結後のA5の労働条件につき会社が積極的に対応することを期待して、過去の分は不問に付したものである。従って、この点に関する組合の請求は認められない。
5 A5の再雇用に関して、27年7月31日に会社が提示した労働条件及び同年9月5日に雇用関係終了を通知したことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点5)について
(1)A5の再雇用に関し、27年7月31日会社が提示した労働条件は労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか
 会社は、合理的な理由もなく、A5の再雇用の労働条件について、他の再雇用者の取扱いと異なる提示をしたのであり、他の再雇用者よりも短い雇用期間及び短い勤務時間という条件によらなければ雇用しないということをうかがわせ、このことは、会社の不当労働行為意思の表れと評価しうるものである。さらに、会社の25年ストライキに参加した組合員に対する嫌悪の念に基づくものとも推認され、A5に経済的不利益及び精神的な不利益を与えようとする不当労働行為意思が存在したものと推認される。
 よって、A5の再雇用に関し、27年7月31日に会社が提示した労働条件は、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当する。
(2)A5の雇用関係終了扱いは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか
 他の再雇用者が27年も前年と同じ労働条件で再雇用されているにもかかわらず、合理的理由のないまま、A5のみを再雇用しないことは、不利益な取扱いに当たる。
 会社は、これまでも、A5に対し、26年8月1日からの再雇用に当たり、他の再雇用者と差別して週3日の勤務とした。これを不服とするA5の委任を受けた組合の団体交渉に会社は応じなかった。また、5.26和解協定に基づくA5の再雇用手続きを会社は履行していない。これら経緯に鑑みると、会社には、元組合副委員長であるA5個人と、25年ストライキを実施した組合に対する根深い嫌悪の念が存在していたことがうかがわれ、A5を結局雇用関係終了扱いとした行為には不当労働行為意思が存在したものと推認される。
 よって、A5の雇用関係終了扱いは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当する。  
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