労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委平成26年(不)第26号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y1会社 
被申立人  Y2会社 
命令年月日  平成28年9月27日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、被申立人Y1会社が、①組合員が腕章を着用した期間中の就労を認めず、その間の賃金を支払わなかったこと、②同社提案の給与制度改定への合意が前提であるとして、団体交渉を誠実に行わなかったこと、③給与制度改定への申立人からの合意がないことを理由に全従業員に夏季賞与及び冬季賞与を支払わないことで合意を強要したこと、④協議事項について全従業員に対して文書を発出して既成事実化を図ったこと、⑤また、それらについては、被申立人Y2会社の影響のもとで行われたことが、それぞれ、不当労働行為であるとして申し立てられた事件であり、大阪府労働委員会は、Y1会社に対し、文書の手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人Y1会社は、申立人に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
年 月 日
  組合
    執行委員長 A様
会社         
代表取締役 B
 当社が、貴組合との給与制度改定等に係る団体交渉において、貴組合が求める当社の財務状況に関する資料の開示に速やかに応じなかったこと及び大阪府労働委員会のあっせん事件係属中に、当該あっせん事件の調整事項にかかわる当社の方針案を従業員に対し提示する文書を提出したことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
2 申立人のその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 給与制度改定及び賞与の支給等に係る団交について
 Y1会社が、賞与支給に関して組合との約束を反故にしたとはいえず、また、給与改定に関する説明を組合の頭越しにしてきたとまではいえないものの、Y1会社は、十分な説明を行わないまま、組合が求める財務状況に関する資料を速やかに提出せず、本件あっせん係属中の25.12.9団交直前に、本件あっせん事件の調整事項に関する25.12.6会社提案文書を従業員に拙速に提示して組合を無視したものといえ、かかるY1会社の対応は、組合に対する十分な説明を怠り、また、組合に対する団交に臨む姿勢として誠実さを欠くものであって、いずれも団交の進展を妨げ、組合との交渉を軽視するもので、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為である。
2 賞与の不支給について、
 Y1会社の財務状況は厳しく、賞与の支給は困難であると推忍されるところ、賞与支給に係る労使慣行は認められず、また、Y1会社が賞与の支給をしなかったことには、一定の合理性があるといえることからすれば、Y1会社が平成25年7月及び12月に賞与の支給をしなかったことは、組合等に対する支配介入には当たらないといわざるを得ず、この点に関する組合の申立ては棄却する。
3 平成25年9月6日から同月11日までの間、Y1会社が組合の腕章を着用した組合員らに対し、その労務提供の受領を拒否し、当該期間中の賃金を支払わなかったことについて
(1) まず、Y1会社が腕章を着用した組合員の労務提供の受領を拒否したことについてみる。
① 就労中の腕章着用が正当な組合活動に当たるかについて 
ア Y1会社の就業規則第17条第43号は、就業時間中の組合活動を禁止しており、組合員が就業時間中に組合活動を行うことは、職務専念義務との関係で、原則として、正当な組合活動とは認められないというべきであるが、就業時間中の組合活動であっても、組合活動としてやむを得ない必要性が認められ、かつ、労働者の誠実労働義務と支障なく両立し、使用者の業務を阻害するおそれのない行動である場合は、正当な組合活動であると認められることがあるというべきである。
イ まず、腕章着用当時の組合の置かれていた状況についてみると、組合等は、Y1会社との間で給与制度の改定や賞与の支給に関して、会社の提案を受け入れられないとして団交等で対立している時期であったこと、第2回腕章着用就労を行ったのは組合等が要求していた資料の開示をY1会社が拒否して交渉の進展を妨げていた時期であり、かかる対応が不誠実であったことは、前記判断のとおりであることからすれば、組合等がY1会社の上記対応に対して抗議活動を実施するに至ったことには一定の理由があるといえる。
ウ 次に、誠実労働義務との関係についてみると、組合等は、作業に従事する際は、腕章着用の上から所定の作業着を着用しており、異物混入の可能性が無く、実質的に何らの瑕疵もないから、通常の労務提供である旨主張するが、装飾品等の着用禁止は、その現場における作業ルールとして主要取引先自身が定めているものであり、Y1会社としては、これに従って作業を行う義務を負っていたことからすれば、このような状況のもとで異物混入の可能性が無いとして、主要取引先の構内における組合等のかかる行為を正当化することはできないというべきである
エ また、腕章着用就労が会社の業務を阻害するおそれのないものであったかどうかについてみると、(略)Y1会社は、就業規則上も実態上も腕章着用就労を承認していたとは認められず、第2回腕章着用の就労申出を拒否した行為は、主要取引先からの異物混入防止の再徹底の要請があったことを受けて、25.8.27服装通知書を発出し、着用の中止を指示するなど、段階的に手順を踏んだ上で、Y1会社の売上の約90%を占める主要取引先が求める異物混入防止の徹底に対して対応したものとみるのが相当である。
 そして、その主要取引先から異物混入が判明した場合の契約解除を示唆されていたことに鑑みると、このときY1会社は、業務の運営に重大な支障が及ぶ可能性があると判断した上で、主取引先からの信用失墜回避のために、組合員の腕章着用就労を認めなかったものといえ、腕章着用そのものを敵対視して、就業規則の全く対象外の条項をあえて適用したものとはいえない。
 したがって、第2回腕章着用就労は、使用者の業務を阻害するおそれのない行動であったとはいえないとみるのが相当である。
オ 以上のとおり、本件腕章着用は、その実施に至ったことに一定の理由があったといえるものの、誠実就労義務と支障なく両立出来ていたとも、Y1会社の業務を阻害するおそれが無かったともいえないから、正当な組合活動であったとは言い難い。
② したがって、Y1会社が、主要取引先における組合員の第2回腕章着用による労務提供の受領を拒否した行為は、主として取引先との業務上の支障を回避するためにとられた措置であり、第2回腕章着用就労がそもそも正当な組合活動ではなかったうえ、就業規則の適用についても特に問題がない以上、不当労働行為には当たらない。
(2) Y1会社が、腕章を着用して就労しようとした組合員に対し、就労を許可せず、就労を許可しなかった分の賃金を日割で減額したことについて
  Y1会社の腕章着用就労の受領拒否が、そもそも主要取引先からの契約解除の示唆を受けたことに対応した行為にすぎず、組合を嫌悪するが故のものではないのであるから、当該不就労分に係る賃金を不支給としたことについても、この間あえて主要取引先に多く配車して受領を拒否したなど、組合員らを殊更不利益に取り扱ったと認めるに足る疎明もない以上、単に就業規則に基づいて賃金規程を適用したものであったとみるのが相当であり、不当労働行為には当たらない。
(3)以上を総合すると、Y1会社の組合員に対する腕章着用による労務提供の拒否及び賃金の不支給は、いずれも労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であったとは認められず、この点に関する組合の申立ては、棄却せざるを得ない。
4 Y2会社は、組合員らの労働組合法上の使用者に当たるか等について
  Y2会社は、資本関係及び出身の役員を通じ、子会社としてのY1会社に対し、その経営について一定の影響を及ぼしていたものとみることができるものの、組合等が主張するようにY1会社の資本・営業・人事ならびに労務関係などのすべてにわたってY2会社が支配・管理しているとまでは認めることはできないし、労働者の基本的な労働条件等について雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったというだけの事実の疎明もない。
 したがって、Y2会社は、労働組合法第7条の使用者に当たるということはできず、本件において不当労働行為責任を負うものに該当しない。
 組合等の主張は、Y2会社が労働組合法の使用者であることを前提としていることから、上記の検討によれば、その余の主張はいずれも前提を欠くことになる。よって、この点に関する組合の申立ては棄却する。  
掲載文献   

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約646KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。