労働委員会命令データベース

(こ の命令は、労組法に基づく和解の認定により失効しています。)
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概要情報
事件番号・通称事件名  熊労委平成27年(不)第2号 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  株式会社Y(「会社」) 
命令年月日  平成28年8月18日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   申立人組合は、平成27年3月13日付け及び同年4月1日付け で、会社が就業規則に定める皆勤手当、無事故手当、家族手当及び時間外手当等に係る団体交渉を会社に申入れたが、会社は、① 裁判所の公正な判断に委ねたい、②同年2月20日に会社社長との電話において、申立人組合の書記長が、脅迫罪、強要罪に当た る発言をしたして団体交渉を拒否するとともに③当該書記長の発言は、脅迫罪、強要罪に当たるとした文書を申立人組合に交付し た。
 本件は、会社による上記①及び②の行為が労働組合法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に当たるとして、また、上記③の 行為が同条第3号の不当労働行為に当たるとして救済申立てのあった事件であり、熊本県労働委員会は、誠実団交応諾、支配介入 の禁止及び文書の手交を命じた。  
命令主文  1 被申立人は、平成27年3月13日及び同年4月1日に申立人が 申し入れた皆勤手当、無事故手当、家族手当及び時間外手当等を議題とする団体交渉に誠実に応じなければならない。
2 被申立人は、平成27年3月13日及び同年4月1日に申立人が申し入れた団体交渉を正当な理由なく拒否したり、同年2月 20日の申立人書記長の被申立人代表取締役社長に対する発言を脅迫罪、強要罪に当たるとしたりして、申立人の運営に支配介入 してはならない。
3 被申立人は、本命令書受領の日から7日以内に、申立人に対して、下記の文書を手交しなければならない。
年 月 日
組合
委員長A1殿
会社         
代表取締役 B

 当社が、貴組合が、平成27年3月13日付け及び同年4月1日付けで申し入れた団体交渉に対して、裁判所の公平な判断を仰 ぎたいとして応じなかったこと及びA2書記長の当社代表取締役Bに対する平成27年2月20日の電話における発言が脅迫罪、 強要罪に当たるとし、そのようなことをする申立人との交渉に応じられないとしたことが、いずれも不当労働行為であると熊本県 労働委員会において認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。  
  1 争点1(法的な見解の対立を理由とする団体交渉拒否)について
(1)団体交渉が行き詰まりの状態に達していたかどうか。
① 本件就業規則の周知性やこれが労働契約に及ぼす効力に関する被申立人の主張は、一般的な解釈と異なるものであるから、そ の主張を相手方が理解し、納得することを目指すためには、被申立人としては、単に従来の経緯、D営業所の実態、「周知」の国 語的意義などを述べるにとどまらず、D営業所の労働者との間で本件諸手当に関する本件就業規則が労働契約の内容にならないこ とにつき自己の資料を提示するなどして反論すべきであったといえる。ところが、被申立人には、自らの主張について、裏付ける 文献等の適切な資料を提示したり、具体的な論拠を示したりして、これを申立人に理解させようと努めた事実が認められない。
② したがって、被申立人としては、本件団体交渉においてさらに行うべき事項が残っていたということができ、このような段階 にあった本件団体交渉は、いまだ行き詰まりの状態には達していなかったというべきである。
(2)被申立人が、本件諸手当について、申立人から訴訟を提起してもらい裁判所の公平な判断に委ねたいとしたことが、団体交 渉拒否の正当な理由に当たるか。
① 本件諸手当の支払いに関する双方の主張が行き詰まりの状態にあったとは認められないのであるから、依然として交渉により 自主解決を図る余地があったといえる。そうすると、仮に、当事者が民事訴訟により問題解決を図ることを選択したとしても、な お、併せて団体交渉により解決を図る意味は十分に存在すると認められるから、このような状況のもとで裁判所の判断を仰ぐとす ることは、団体交渉を拒否する正当な理由となり得ないというべきである。
2 争点2 A2書記長の発言を理由とする団交拒否について
 ① A2書記長の発言の、「あっちこっちに広げる」とは、関係機関に告発、申立てその他の方法で申告することのほか、いわ ゆる情宣活動を行うことも意味すると解されるが、これらの行為は、その態様等により違法となることはあるものの、それ自体は 違法なものではなく、正当な組合活動として行い得るものである。
 ② A2書記長の発言は、それ自体違法な発言と認められないこと及びその発言がされるに至った(団体交渉等での)経緯等に 鑑みると、違法と評価することはできない。
 ③ A2書記長の発言を理由とした団交拒否は、正当な理由のある団交拒否であるとは認めることはできず、労働組合法第7条 第2号の不当労働行為に当たる。
3 争点3(団交拒否による支配介入)について
 ① 団体交渉における被申立人の態度は、B社長がC労組及び申立人に対して抱いていた嫌悪に基づくものと推認されるとこ ろ、申立人を軽視し、労働組合として尊重しないものといえるものであって、このような状況のもとで頑なに団体交渉を拒む被申 立人の行為は、実質的には申立人の労働組合としての機能を否定するものといえる。
 ② また、被申立人が、A2書記長の発言は違法なものと評価できず、脅迫罪や強要罪に当たるとは認められないにもかかわら ず、これを理由に団体交渉を拒否したことも、同様に被申立人のC労組及び申立人への嫌悪感に基づくものと推認される。
 ③ したがって、本件団交拒否は、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たる。
4 争点4(A2書記長の発言に関連する支配介入)について
 C労組が結成されてからも、C労組が申立人に加入してからも6か月前後の期間しか経過しておらず、その間、団体交渉におい て実質的な合意が存在しない状況のもとにおいて、申立人の書記長について「脅迫罪又は強要罪に該当する。」、「刑事告訴を検 討する。」などと記載した文書を申立人に交付した被申立人の行為は、C労組の組合員に対し、申立人の労働組合としての交渉力 に疑問を抱かせ、申立人への信頼を失わせる行為であるといえる。
 したがって、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たる。
掲載文献   

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