労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  都労委平成27年不第17号
東京学芸大学不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(「X1組合」)、X2組合(「X2組合」) 
被申立人  法人Y(「法人」) 
命令年月日  平成28年7月19日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   法人の中等学校の外国人教員が加入するX1組合及びX2組合(X1組合の支部)(以下「X1組合ら」という。)は、法人に対し、組合員の無期雇用化等を要求事項とする団体交渉を申し入れた際、団体交渉を英語で行うよう求めたが、法人は、団体交渉は日本語で行い、同時通訳者が必要な場合には組合が手配すべきであるなどと回答し、これに応じなかったことから、平成26年9月12日の第1回団体交渉では、法人側が要求事項に日本語で回答し、組合側が英語で発言を行った。
 その後、X1組合らは、要求事項として、法人が通訳者を手配することを追加し、当該事項を含む団体交渉を法人に申し入れたが、法人は、「日本語での交渉が成立しない場合、直ちに団体交渉を終了します。」と回答し、これに応じず、平成27年1月23日の第2回団体交渉では、組合側は英語で、法人側は日本語で発言し、言語に関する団体交渉のルールについて双方の主張が一致しないまま交渉が打ち切られた。
 その後、組合らは、団体交渉の開催を申し入れたが、法人は、日本語によるものでない限り、団体交渉に応ずることはないなどと回答し、団体交渉を開催しなかった。
 本件は、平成26年9月12日及び平成27年1月23日の団体交渉並びにその後の法人の対応が労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否に当たるか否かが争われた事案であり、東京都労委は、誠実団交応諾、文書の交付及び文書交付の履行に係る報告を命じた。  
命令主文  1 被申立人法人は、申立人X1組合及びX2組合が団体交渉におけるルールを交渉議題とする団体交渉を申し入れたときは、日本語による交渉並びに同組合らによる通訳者の手配及び同行という条件に固執することなく、誠実な団体交渉に応じなければならない。
2 被申立人法人は、本命書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合らに交付しなければならない。

年 月 日
  X1組合
  執行委員長 A1殿
  X2組合
  執行委員長 A2殿
法人    
学長 B1
 当法人が、貴組合らからの団体交渉申入れに対し、日本語によるものでない限り、また、貴組合らが通訳者の手配及び同行をしない限り、団体交渉に応じられないとしたことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)
3 被申立人法人は、前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。  
判断の要旨  1 団体交渉における使用言語及び通訳者の手配について
① 団体交渉における使用言語について、X1組合らは、LLR(労使関係において使用する言語、本件では英語)を使用すべきと主張するが、LLRという概念は、一般的に認識されているものとはいえず、団体交渉における使用言語をLLRとすることが法的、一般的な慣行として確立しているということもできないこと等から、当該主張は採用できない。
② 法人は、日本では特段の合意がない限り、日本語を用いることが原則であるから、団体交渉は日本語で行うものと主張する。
ア 団体交渉のルールは労使双方の合意により決定するのが原則であるから、労使の使用する言語が異なる場合には、日本語以外の言語を使用することもあり得るといえる。
イ X2組合の組合員は全員外国人であり、日本語能力を特に問われず、法人の国際中等教育学校に採用され、職場においても、他の教員との間で、単なる日常会話だけでなく、業務上の連絡ないし指示も英語で行われていること等を踏まえ、組合らは、法人に対し、支部の組合員が職場と同様の意思疎通の方法で法人側と会話できるようにするため、英語による交渉を求めていたのであるから、組合らの要求にも相応の理由がある。
ウ 本件事案に鑑みると、団体交渉の使用言語について合意がない以上、単に日本国内であることのみもって、当然に日本語で団体交渉を行わなければならないとするのは相当ではなく、法人の主張は採用できない。
③ 上記①及び②を踏まえると、本件の団体交渉において、日本語を使用すべきか、英語を使用すべきかを一義的に決めることはできないといわざるを得ない。
④ X1組合らと法人との団体交渉では、団体交渉の使用言語と通訳者の手配についての問題が円滑な交渉を行う上で障害になっていたというべきであり、いずれの言語を使用するとしても、通訳者を手配することが必要不可欠であったといえる。
 団体交渉で使用する言語を一義的に決めることができるできない本件にあっては、団体交渉で使用する言語を話すことのできない側が通訳者の手配に関する全ての負担を負うべきものということもできない。
⑤ 以上の点に加えて、団体交渉のルールは労使の合意で決定するのが原則であることをも勘案すると、本件労使間においては、円滑な団体交渉を行うため、団体交渉における使用言語及び通訳者の手配に関するルールついて、労使双方に合意形成のための相応の努力を行うことが求められていたというべきである。
 したがって、組合が上記合意形成に向けた相応の努力を行っているにもかかわらず、法人がそのような努力を行わず、団体交渉が円滑に行われる状況に至らなかった場合には、原則として、法人は、正当な理由のない団体交渉拒否を行ったものと評価すべきである。
2 第1回団体交渉及び第2回団体交渉並びにその後の対応について
①X1組合らの対応
ア X1組合らは、平成26年9月12日の第1回団体交渉において、円滑に意思疎通できない状況から、法人に対し、労使双方が互いに相手方の言語を理解できる者を同行させることも提案しており、交渉の過程で法人に対し一定の譲歩の姿勢を採っていたと評価することができる。
イ また、X1組合らは、法人から団体交渉のルールに関する実例を挙げるようにとの求めを受けて、他の使用者と組合との間で団体交渉における使用言語や通訳者の手配に関する交渉ルールについて労働協約を締結している事実や、具体的に他の使用者との間でどのような団体交渉ルールを設けているかを示していたのであって、X1組合からの要求について法人からの理解を得るために具体的な例を提示し、説得する努力を行っていたものといえる。
②法人の対応
ア 法人は、第1回団体交渉で、日本語による交渉と組合による通訳者の手配を要求するのみであり、X1組合らが、労使双方とも互いの言語を理解できる者を同行させることを提案したり、法人の国際中等学校の教員であるB2や法人で勤務し英語を話せる者を通訳者として出席させることはできないか打診したり、また、専門的な要望を英語で理解できないとの法人の主張に対しサポートを申し出るなど、一定の譲歩を示していたのに対しても、一切応じなかった。
イ 第1回交渉後には、法人は、組合らに対し、法人提示の条件が整えば団体交渉の日程を提示することや日本語による交渉が成立しない場合に団体交渉を中止する旨を回答し、一層強硬な姿勢を採り、現に、第2回団体交渉において、X1組合らが英語で交渉を続けようとしたことを理由に、交渉の打切りを宣言したことが認められる。
ウ さらに、第2回団体交渉後、X1組合らが団体交渉を申し入れたのに対し、法人は、日本語でない限り団体交渉に応じないとする一方、通訳者の手配については、法人の主張を変更する考えはないとして、一切の負担をX1組合らに求めるという対応に終始している。
③ このような法人の対応は、自らの主張する団体交渉のルール以外を一切許容せず、X1組合らがこれに従わなければ団体交渉に応じないというものであり、本件労使間で基本とする言語が異なっていることにより生じている障壁を取り除こうとしたとか、合意達成に向けて妥協点を模索する努力をしたものとはいえない。また、こうした法人の対応を正当化するような特段の事情も認められないのであるから、上記法人の対応は、実質的に団体交渉を拒否していたものと評価せざるを得ない。  
掲載文献   

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