労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  石労委平成26年(不)第2号
全日本海員組合不当労働行為審査事件 
申立人  X組合 
被申立人  Y組合 
命令年月日  平成28年7月13日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   AとY組合は、平成24年8月21日付けで同年9月1日から平成25年8月31日までを雇用期間とする再雇用職員労働契約を締結した。
 その後、AがX組合を結成し、Y組合に対し団体交渉を申し入れ、東京都労委に不当労働行為救済申立てを行うなどの組合活動を行っていたところ、平成25年7月18日、Y組合はAに対し、同年8月31日付けで雇止めにする旨を通知した。
 本件は、被申立人Y組合が、申立人X組合の組合長であるA(以下「A組合長」という。)を平成25年8月31日付けで雇止めにしたことが、労働組合法第7条第1、第3号及び第4号に規定する不当労働行為に当たるとして救済申立てがあった事件で、石川県労委は、原職復帰・バックペイ及び文書の交付・掲示を命じた。 
命令主文  1 被申立人は、申立人組合長Aにかかる再雇用職員労働契約について雇止めがなかったものとして取扱い、同人を原職に復帰させるとともに、同人に対し、平成25年9月1日から原職復帰までの間において同人が就労していたならば得られたであろう賃金相当額を支払わなければならない。
2 被申立人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートルの白紙に明瞭に記載して、被申立人の従業員らの見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
X組合
組合長 A殿
平成 年 月 日
Y組合     
組合長B1
 当組合が貴組合長Aにかかる再雇用職員労働契約を平成25年8月31日をもって更新しなかったことが、石川県労働委員会において労働組合法第7条第1号、第3号及び第4号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような不当労働行為を繰り返さないようにします。

(注 年 月 日は文書を交付した日を記載すること。) 
判断の要旨  1 本件申立ては申立権の濫用に当たるか。
 X組合の求める救済申立ての趣旨は、私法上の地位確認ではなく、X組合に対する不当労働行為の排除、すなわち、A組合長の原職復帰により、健全な労使関係を構築することにあるのだから、本件申立てが地位確認訴訟と重複するというY組合の主張は採用することができない。
2 本件雇止めは、A組合長らがX組合を結成したこと、団体交渉を申入れたこと及びX組合が都労委に不当労働行為救済申立てをしたことを理由とした不利益取扱いに当たるか。
(1)本件ブログについて
① A組合長が書き込んだブログ本文については、主としてA組合長とY組合との間の一連の裁判の経過やY組合に対する批判などが記載されたものであり、Y組合の違法行為の公表や法令遵守を求める記事が記載されているにとどまるから、A組合長がY組合に対する加害・破壊を意図して本件ブログを開設・運営したというような事情は認められない。また、コメントの記載の中には、Y組合を激しく批判するものも存在するが、それがA組合長によるものと認めるに足る証拠はないし、また、A組合長が節度ある意見表明をするよう数回にわたり本件ブログの読者に要請していたことも加味すると、A組合長のブログ運営に問題があったとまでは言えない。
② A組合長と同じ部署に所属していたY組合の人事責任者であるB2がA組合長に対して本件ブログについて注意や事情聴取及び削除要請をしていないこと等からすると、本件ブログはY組合内部において、A組合長の雇用契約に影響を与えるほど大きな問題であるとは評価されていなかったと考えるのが相当である。
③ 本件ブログの記載が雇止めの主たる原因であるとすれば、雇止めに至る前に注意・削除要請を行うのが一般的であるが、Y組合がこれを行わなかった理由について、Y組合は、注意・削除要請を行うことで、さらにブログでの誹謗中傷が激化したり、他の裁判で悪用されるおそれがあったため注意等をしなかったとも主張する。しかし、解雇・雇止めに関する法理に精通しているはずの労働組合であるY組合が、本件ブログについての注意・警告等を経ずに雇止めすることの法的問題を認識していなかったとは考えがたい。
④ Y組合が再雇用契約の更新時に本件ブログを考慮することに関しては不合理とはいえないものの、本件ブログが雇止めの主な原因であったとするY組合の主張は採用できない
(2)本件雇止めに至るまでの事情
① Y組合の再雇用職員規定上、労働契約の更新は、双方に異存がなければ自動的に行うこととされており、1年間の期間満了で終了することを前提としているとは言いがたい。
② Y組合は、本件雇止めに関してA組合長の弁明の機会を一切与えず、通常の再雇用契約の更新時とは極めて異なる例外的な対応をとったといえる。
③ Y組合がA組合長のD会館での勤務態度を問題視していたというような事情も認められず、このほかに再雇用から本件雇止めまでの間に、Y組合が雇止めを判断するきっかけとなるような特段の事情は見当たらない。
(3)Y組合とA組合長及びX組合との関係
① A組合長の地位や組合員資格について平成20年以降6件の訴訟が提起され、これらの訴訟では、いずれもY組合及びY組合役員のA組合長に対する処分の違法性を認め、損害賠償などを命じている。
② X組合結成後、Y組合から提訴された本件ブログに関する1億円の損害賠償訴訟は、社会通念上相当であるか疑問があるといわざるを得ず、損害賠償以外の意図があったと推忍される。
④ Y組合は、X組合から結成通知が届いた後もX組合の組合資格に疑念を持ち、団体交渉の開催について疑問を持っていただけでなく、X組合からの2度に及ぶ団体交渉申入れに対しても回答していないことからすると、X組合を労働組合として尊重し、真摯に向き合おうとする姿勢が欠けていたと言わざるを得ない。
(4)不当労働行為の成否
 本件雇止めに至るまでの労使関係やX組合の活動(平成25年4月18日のX組合の結成、4月25日のY組合に対する団体交渉申し入れ、5月14日の都労委への不当労働行為救済申立て)、そして、本件雇止めを決定した時期(7月16日)を総合的に勘案すると、Y組合が不当労働行為意思をもって本件雇止めをしたと判断せざるを得ない。
 よって、本件は、労組法第7条第1号及び第4号に該当する。
3 本件雇止めは、Y組合がX組合の弱体化を図ることを目的とした支配介入に当たるか。
① A組合長を雇止めにすることは、A組合長個人に対する不利益取扱いにとどまらず、X組合の活動にも打撃を与え、組合活動を萎縮する効果があったと認められる。
② Y組合は、A組合長が従業員の地位にないことを理由として団体交渉に応じなかったことや、A組合長が石川県に転居した後は、開催場所についての問題も加わり団体交渉が行われなかった事情も加味すれば、本件雇止めは、X組合に大きな打撃を与えたのは明らかである。
③ 労働組合であるY組合が、本件雇止めによるX組合に対するこれらの影響を認識していなかったとは考えられず、Y組合はX組合に打撃を与えることを意図・認識してA組合長を雇止めにしたと判断される。
④ 以上のとおり、本件雇止めは、支配介入にも該当する。 
掲載文献   

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