事件番号・通称事件名 |
愛労委平成26年(不)第8号 |
申立人 |
Xユニオン(「組合」) |
被申立人 |
Y商事([会社」) |
命令年月日 |
平成28年7月4日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、①組合員に対し、組合の誹謗中傷をしたこと、②
組合員3名の異動辞令を発令したことが不当労働行為であるとして,当初申立てがなされ、その後、③恫喝行為を行い、④異動辞
令を発し、⑤監視カメラにより監視し、⑥始末書の提出を指示し、⑥有給休暇取得相当分の賃金の削減を指示したことが不当労働
行為であるとして追加申立てがなされ、更に、⑧同年の夏期賞与の支給を遅延したこと並びに同年の夏期賞与及び冬季賞与を減額
したこと、⑨⑧のことに係る団体交渉に誠実に応じないことが不当労働行為であるとして追加申立てがなされた事案である。
愛知県労委は、会社に対して、①組合への誹謗中傷及び組合員への脱退勧奨の禁止、②組合員の現職復帰、③脅迫行為の禁止、
④監視カメラによる監視の禁止、⑤始末書の提出を命じる場合、懲戒処分であるか否かを明示し、懲戒処分として命じる場合は根
拠規定を明示し、適正手続を踏むこと、⑥有給休暇相当分の賃金のうち未払分の支払い、⑦26年夏期賞与及び冬期賞与について
分会結成前の水準との差額の支払い並びに⑧文書掲示を命じた。 |
命令主文 |
1 被申立人は、申立人の組合員に対し、申立人を誹謗中傷する発言
及び申立人からの脱退を迫る又は勧める言動をしてはならない。
2 被申立人は、申立人Y商事分会の組合員A2に対する平成26年9月2日付け異動命令及び分会長A3に対する同年10月
17日付け異動命令を撤回し、両名をF市G区の事業所に復帰させ、かつ、当該異動命令前の職務に従事させなければならない。
3 被申立人は、申立人の組合員に対して脅迫行為をしてはならない。
4 被申立人は、申立人の組合員が就労する場所に設置した監視カメラにより、申立人の組合員の動向を監視してはならない。
5 被申立人は、申立人の組合員に対し、始末書の提出を命じるに当たっては、当該命令が懲戒処分であるか否かを明示しなけれ
ばならず、懲戒処分として命ずる場合には、就業規則上の根拠規定を示し、かつ、弁明の機会を与えるなど適正な手続を踏まなけ
ればならない。
6 被申立人は、申立人Y商事分会の組合員に対し、同分会結成前の慣例(「前日までの申請」及び「当日・事後の申請」(有給
休暇を取得しようとする日の始業前に連絡をし、後日休暇届を提出する方法)並びに「半休・時間単位の取得」)に従い申請され
た有給休暇に係る相当分の賃金のうち、未払分を支払わなければならない。
7 被申立人は、申立人Y商事分会の組合員の平成26年夏期及び冬期賞与について、同分会結成前の水準との差額を同分会の組
合員に支払わなければならない。
8 被申立人は、下記内容を縦1.5メートル横1メートルの大きさの紙に明瞭に記載し、本命令書交付の日から7日以内に、F
市G区の事業所内及び同市H区の工場内の従業員の見やすい場所に、それぞれ、10日間掲示しなければならい。
記
貴組合又は貴組合のY商事分会(以下「分会」という。)の組合員に対して行った次に掲げる当社の行為が、労働組合法第7条
第1号、第2号又は第3号の不当労働行為に該当すると、愛知県労働委員会により認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1) 分会の組合員に対し、貴組合を誹謗中傷する発言及び貴組合からの脱退を迫る又は勧める言動をしたこと。
(2) A2に対し平成26年6月17日付け及び10月17日付け異動命令をしたこと、A3に対し同年6月20日付け及び9
月2日付け異動命令をしたこと、並びにA4に対し同年6月20日付け異動命令をしたこと。
(3) A5に対し、同年7月17日に脅迫行為をしたこと。
(4) 同月14日以降に分会組合員が就労する場所に設置した監視カメラにより、分会組合員の動向を監視したこと。
(5) A2及びA3に対し、同年9月1日に始末書を提出するよう要求したこと。
(6) 分会組合員に対し、分会結成前の慣例に従い申請された有給休暇取得相当分の賃金を削減したこと。
(7) 分会組合員に対し、平成26年の夏期賞与の支給を遅延したこと並びに同年の夏期及び冬期賞与を減額したこと。
(8)平成26年12月25日の団体交渉に関し、同年の夏期及び冬期賞与金額について根拠となる資料を提示しなかったこと及
び説明をしなかったこと並びに交渉権限を有する者を出席させなかったこと。
年 月 日
組合
運営委員長 A1様
会社
代表取締役 B1
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判断の要旨 |
(1)平成26年5月28日からの同年6月25日までの会社発言に
ついて
① 社長及び工場長の発言は会社の組合嫌悪の情の現れとみなせるものであり、組合の弱体化をもたらすおそれがあるものであっ
て、労組法(以下「法」という。)第7条第3号の不当労働行為であることは明らかである。
② 当委員会は、不当労働行為と疑われるような行為を慎むよう会社に勧告したが、会社がこれに応じたとの事情はうかがわれ
ず、本件申立て後に会社の組合に対する対応が是正されたとは到底認められない。これを是正するよう促す必要があるから、組合
に救済利益があるといえる。
(2)平成26年6月17日付けのA2対する異動命令並びに同月20日付けのA3及びA4に対する異動命令の発出について
① 異動命令が事前に何ら説明もなく唐突に発せられ、しかも、当該異動命令の内容が不合理であるから、組合員にとって不利益
であり、かつ、上記(1)の不当労働行為の最中に発せられたことからすれば、A2ら3名が組合員であるが故に行われたと解す
るのが相当であり、法第7条第1号に該当する不当労働行為であることは明らかである。
② 異動命令はいずれも撤回され、当該異動命令自体の救済の必要性はないが、本件申立て後の会社の組合に対する対応からし
て、労使関係の正常化が果たされたとはいえず、今後、このような行為が繰り返されるおそれがあり、かつ、過去の出来事につい
て反省を促す必要もあるから、組合には救済利益があるといえる。
(3)平成26年7月17日のA5に対する脅迫行為について
会社による脅迫行為がA5に精神的不利益を与えたことは明らかであり、当該脅迫行為の前日の夜に第2回団交が開催され、同
人が初めて出席したこと等から同脅迫行為は、同人が組合員であるが故に行われたものと優に認められる。 よって、法第7条第
1号の不当労働行為に該当する。
(4)A3に対する平成26年9月2日付け異動命令(以下「9.2命令という。」」及びA2に対する同年10月17日付けで
異動命令(以下「10.17命令」という。)について
① 9.2命令について
ア 異動命令が、異動日の直前に、その理由を付されることなく突然発せられ、これによって6年近く従事した業務内容及び就業
場所と異なる業務に変更させられることは、会社の従業員にとって不意打ちであり、不利益であることは否めない。
イ A5に対する社長室での脅迫事件の後に開催された第3回団交において、組合が会社に対し、社長室に組合員を1人で呼び出
すことを止めるよう要求したことが認められ、A4の社長室への入室拒否がかかる事情を背景に行われたことからすれば、同人の
行動は是認できるものであり、これを理由とする異動命令には何ら合理性はない。
ウ 分会結成後組合員として活動しているA3に対する同年6月23日の実態のない場所への異動命令等から、9.2命令は、
A3が組合員であるが故に行われたものと優に認められる。
エ よって、法第7条第1号の不当労働行為に該当する。
② 10.17命令について
ア 異動命令が、異動日の直前に発せられることは、たとえその理由が明示されていたとしても、不意打ちであることに変わりは
なく、また、それからわずか2か月以内に辞令に記載された内容とは異なり、かつ、応募時の内容とも異なる業務に変更されたこ
とは、会社の従業員にとって不利益であることは否めない。
イ 会社は、10.17命令からわずか2か月以内にA2に対して同辞令とは別の業務を命じたのであって、結局のところ当該
チェック体制は意味のないものとなることから、当該異動の目的が、A2の任務懈怠の防止にあったとは認め難い。
ウ A2に対する同年6月16日の組合嫌悪とみられる発言、翌17日の工場への異動命令等から、10.17命令は、同人が組
合員であるが故に行われたものと優に認められる。
エ よって、法第7条第1号の不当労働行為に該当する。
(5)平成26年7月14日以降、本社事務所に監視カメラを設置したことについて
会社は、監視カメラの設置目的について、商品サンプルへの異物混入を防止するためである旨主張するが、そうであるならば、
監視カメラが商品サンプルよりも異物混入の及ぼす影響の遙かに大きい商品そのものを製造する工場に最初に設置されて然るべき
ところ、実際には工場に設置されたのは本社より10か月余り遅れていたこと等からすると、会社主張は合理性を欠き採用できな
い。
監視カメラの設置目的に係る会社の主張は信用し難く、その運用実態は合理性を欠く上、その設置時期の前後に上記(1)~
(4)の会社の一連の不当労働行為が近接していることからすれば、その設置は、組合員に対する不当労働行為意思の実現として
行われたことは否定できない。
よって、法第7条第1号の不当労働行為に該当する。
(6) A2及びA3に対し、平成26年9月1日に始末書を提出するよう要求したこと(以下、「9.1始末書命令」とい
う。)について
① 就業規則以外に始末書提出の根拠はなく、かつ、社長らが「顛末書」の受取りを拒否し、「始末書」にこだわったことからす
れば、9.1始末書命令は懲戒処分として発したと考えるほかない、
② 始末書の提出命令が懲戒処分であること及びその根拠が明示されることなく、かつ、弁明の機会も与えられずに発せられると
いうことは、労働者にとって不利益であることは明らかである。
② 会社が、分会結成前に、両名が行った行為に匹敵するような内容で始末書の提出を求めたことがなかったこと等からすれば、
9.1始末書命令は、両名が組合員であるが故に行われたとみるのが相当である。
③ よって、法第7条第1号の不当労働行為に該当する。
(7)有給休暇取得相当分の賃金の減額について
① 分会結成前は、有給休暇について「前日までの申請」及び「当日・事後の申請」並びに「半休・時間単位の取得」が慣例的に
承認されており、これらに係る賃金が減額されるということは想定されていなかったといえ、分会結成後のA2及びA3の賃金の
減額は、慣例に反するものであって不利益にほかならない。
② 賃金削減が分会結成の翌月以降からであること等からすれば両名が組合員であるが故に行われたものとみるのが相当である。
③ よって、法第7条第1号の不当労働行為に該当する。
(8)平成26年の夏期賞与を例年より遅く同年11月に支払ったこと及び同年の夏期及び冬期賞与を減額したことについて
① 夏期賞与の支払い遅延及び減額について
ア 会社は、組合員に対する夏期賞与の支払い遅延及び大幅な減額の理由について赤字決算であった旨主張するが、会社が当該赤
字決算を証するものとして提出した唯一の証拠である証明書は、直近3期分の所得金額の申告欄の額が記載されているにすぎず、
これのみでは赤字決算であると判断することは到底できない。加えて、会社が平成26年の夏期賞与を組合非加入のパート従業員
に対して例年どおりの時期及び額で支払っていること、並びに平成26年7月期と平成25年7月期の証明書の所得金額の申告欄
の記載は同じ零円であるにもかかわらず、会社が平成25年の夏期賞与を各従業員に対して例年どおり支払っていることからすれ
ば、会社の主張はにわかに信じ難い。
イ 会社による組合員のみを対象とした夏期賞与の支給遅延及び減額は、その合理的理由を何ら見出し難い上、上記(1)~
(7)の会社の一連の不当労働行為の時期と重複していることからすれば、当該行為が組合員であるが故に行われたとみるのが相
当である。
② 冬期賞与の減額
会社は、組合員に対する平成26年の冬期賞与を大幅に減額した理由について、上記①と同様の主張をするが、上記①と同じ
く、当該行為が組合員であるが故に行われたものとみるのが相当である。
③ よって、いずれも法第7条第1号の不当労働行為に該当する。
(9) 平成26年12月25日の団交(以下「12.25団交」という。)について
12.25団交において、会社は夏期及び冬期賞与額について、何ら資料を提示せず、納得のいく説明を行わなかったものであ
り、出席したD弁護士及びB2部長は、組合からの質問に対して具体的なことは何も答えることができず、4日後に迫った冬期賞
与の支払金額ですら全く把握しておらず、社長のみが実情を把握していることを述べるにとどまり、交渉担当者としての役割を果
たしているとはいい難い。
これらの行為は、法第7条第2号の不当労働行為に該当する。 |
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