労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委平成26年(不)第69号
不当労働行為審査事件 
申立人  X1職員労働組合(「組合」)  
申立人  X1職員労働組合現業支部(「現業支部」、「組合」と併せて「組合ら」) 
被申立人  Y市(「市」) 
命令年月日  平成28年6月7日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   組合らが、給与削減の条例案について団体交渉を申し入れたところ、市は、管理運営事項であることを理由に団体交渉を拒否した上で、市から申し入れた同議題の団体交渉において、交渉日程を一方的に設定し、また、組合らが求めた資料を示すなどして十分な説明をせず、一方的に交渉を打ち切るなど、労使合意を図る努力をしないまま、条例案を議会へ上程したことが不当労働行為であるとして申し立てられた事件で、大阪府労委は、市に対して、誠実団交応諾及び文書手交・掲示を命じた。 
命令主文  1 被申立人は、申立人X1職員労働組合及びX1職員労働組合現業支部が平成26年11月13日付けで申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。
2 被申立人は、申立人X1職員労働組合及び同X1職員労働組合現業支部に対し、下記の文書を速やかに手交するとともに、縦2メートルX横1メートル大の白色板に下記の文書と同文を明瞭に記載して、被申立人の本庁舎玄関付近の市職員の見やすい場所に2週間掲示しなければならない。

 年 月 日

X1職員労働組合
 中央執行委員長 A1様
X1職員労働組合現業支部
 執行委員長 A2様
Y市     
市長 B

 当市が貴組合からの平成26年11月13日付けの団体交渉申入れに誠実に応じなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。 
判断の要旨  1 争点1(組合は、申立人適格を有するか)について、以下判断する。
(1) 市は、組合が、労組法が適用される職員と適用されない職員がともに組織している混合組合であるところ、労組法が適用されない非現業職員が大多数を占め、労組法上の労働組合とはいえず、申立人適格を有さない旨主張する。
 しかし、混合組合の申立人適格が争点となった東京地方裁判所平成25年10月21日判決(平成24年(行ウ)第876号・同25年(行ウ)第16号)、その控訴審である東京高等裁判所平成26年3月18日判決(平成25年(行コ)第395号)、さらにその上告審である最高裁判所第三小法廷平成27年3月31日決定(平成26年(行ツ)第274号・同26年(行ヒ)第287号)から明らかなように、現行法は、混合組合の存在を許容していると解され、混合組合は、その構成員に対し適用される法律の区別に従い、地公法上の職員団体及び労組法上の労働組合としての複合的な法的性格を有すると解するのが自然かつ合理的であって、労組法適用者に関する問題については、構成員の量的割合にかかわらず、労働組合として、労組法上の権利を行使できると判断される。したがって、かかる市の主張は採用できない。
(2) そこで、本件申立てが、労組法適用者の問題に関するものであるといえるかについて検討すると、本件組合団交申入れの議題は、職員給与の削減という市の職員全般の労働条件に関するものであるから、本件組合団交申入れは、労組法適用者の問題に関するものであるといえる。
(3) よって、組合は労組法適用者の問題に関して不当労働行為救済申立てを行ったものであり、申立人適格を有すると判断される。
2 争点2(本件組合団交申入れにおける市の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるとともに、組合らに対する支配介入に当たるか。)について
(1) 本件組合団交申入れにおける市の対応は、正当な理由のない団交拒否及び組合らに対する支配介入に当たるかについて、以下判断する。
ア 中期財政計画案には職員の給与削減という職員の給与に係る事項が盛り込まれていることが認められ、中期財政計画案の策定そのものは管理運営事項であっても、給与その他職員の勤務条件に関する限りにおいては義務的団交事項であるから、市には、これを盛り込んだ計画を策定するに至った経緯を説明する義務があるというべきである。したがって、本件組合団交申入れの議題(a)「中期財政計画案の策定に至った経緯」について管理運営事項を理由に団交を拒否した市の対応は適正なものとはいえず、この点に係る市の主張は採用できない。
イ 次に、市申入れ団交における市の対応が誠実であったかどうかについてみる。
 まず、市は、市申入れ団交における市の対応について、①説明責任の懈怠はなかったこと、②議会上程を前提とした交渉でなかったこと、から、誠実に対応したものである旨主張するので、この点について検討する。
(ア) 説明責任の懈怠はなかったとの市の主張について
a 第1回団交において、市は、給与カットの必要性については、財政健全化団体に転落するのを回避するために10億円の基金残高を確保することが必要であることを回答してはいるものの、①10億円の基金残高を確保する必要性の根拠を示しておらず、②給与カットをしなければ財政健全化団体に転落するとの試算の具体的根拠を説明しておらず、③給与削減の有無による人件費の状況の違いを示すデータを提示するようにとの組合らの要求にも応じていない上、④繰上償還に係る組合らからのごく単純な質問にすら回答していない。さらに、人件費削減を10億円の基金残高を確保するための最後の手立てと説明しながら、削減の理由について、これまでの5年の財政計画ではまだ厳しいという抽象的な説明にとどまり、また、人件費削減に先立って試みたとする「さまざまな方法」についての説明もしていない。
 また、給与カットの相当性については、人件費削減を5年間とする根拠として、実質公債費比率の推移を、数値を挙げて説明してはいるものの、その数値の根拠についての説明はしていない。
b 市は、第2回団交において、確かに、平成27年度以降の給与カットをしなかった場合に基金残高が平成31年度に赤字になる旨及び給与カットをしなければ財政健全化団体へ再転落する可能性がある旨説明してはいるものの、11.10収支見通し案の一部の項目の数値を手書きで追記しただけの資料である11.10収支見通し修正案を示しただけで、組合らが求める市の試算の根拠資料を提示していない上、8億円の給与カットによって基金残高を10億円確保する必要性及び財政健全化団体へ再転落する可能性についても、組合らの質問に対し、具体的根拠を示すことなく第1回団交と同様の主張を繰り返して抽象的な回答をするにとどまり、また、自らの主張の根拠を説明することを回避しているものとみるのが相当である。
c まず、①の市の主張(平成27年度以降の給与カットの必要性、相当性について、市として可能な範囲で資料を提示しできる限りの説明を尽くそうとし、人件費カットを実施しなければ財政健全化団体に再転落するおそれが高まる)についてみる。市は、第3回団交において、11.10収支見通し案の一部の項目の数値を手書きで追記しただけの資料である11.10収支見通し修正案について、組合らが求める根拠資料を提示することなく、財政健全化団体に転落するおそれが高まり、平成30年度か同31年度辺りが厳しいとの自らの見込みを述べるだけであり、また、人件費削減の必要性についての組合らの質問に対しては、抽象的かつあいまいな説明をするにとどまっているといわざるを得ない。
 なお、市は、組合らが提示を求めた11.10収支見通し案についての元データを提示しなかった理由として、①平成25年度までは実績に基づいて記載されたものであり、その根拠資料及び数値は、公開されている各年度の決算書を見れば組合らにも簡単に把握できるものであったこと、②投資的経費を非常に絞った上での経常的経費ばかりを要素とする収支見通しを前提にしてもなお人件費削減が必要であることを市は説明していることを挙げるが、①については、使用者はたとえ公開されている資料であっても、説明に必要なものであれば、当然、団交の場において提示すべきであるし、②については、組合らが問題としているのは、市が給与削減の根拠として提示した試算そのものの妥当性なのであるから、市の説明をもって、元データの提示が直ちに不要であるとはいえない。
 次に、②の市の主張(給与カットと財政健全化団体への転落との関係をめぐる組合らと市の見解が相容れず、労使の主張は平行線となり、交渉は行き詰まってしまった)についてみる。第3回団交において交渉が行き詰まったとみることはできず、むしろ、協議が尽くされた状況にない中で、市が設定した短期間の団交日程の中で、市が提案内容について具体的根拠を示さず、給与カットの必要性及び相当性について説明を行わず、さらに、組合らに市の提案について十分に検討する機会を事実上与えない中で、市が一方的に協議を打ち切ったものといわざるを得ない。
(イ) 議会上程を前提とした交渉でなかったとの市の主張について
 市は、①市団交申入れに際して、労使合意が得られなくても12月議会に上程する、組合と交渉しても市の申入れ内容を変更する余地はないなどと述べていたこと、②給与の独自カットについて、1週間程度の短期間のうちに交渉を終える日程で、しかも全く別の団交である賃金確定交渉に引き続く深夜の時間帯での団交開催を申し入れたこと、③実際にほぼ市の申入れどおりの短期間の日程及び深夜の時間帯で市申入れ団交を行ったこと、④第3回団交において、労使合意に至らなくても給与条例改正案を12月議会に上程するとの発言をしていること、⑤市申入れ団交を打ち切った当日に12月議会に給与条例改正案を提出し、その後の組合らからの給与条例改正案の取下げ及び給与カットの必要性及び相当性を議題とする団交の開催の申入れに応じず、最終的に12月議会において給与条例改正案が可決されたこと、が認められるのであり、このことに、市が、協議が尽くされた状況にない中で一方的に協議を打ち切ったことを併せ考えると、市申入れ団交における市の態度は、給与条例改正案の12月議会の上程を前提とし、当初から組合らとの合意達成の可能性を模索する姿勢を欠いたものといわざるを得ず、この点に係る市の主張は採用できない。
(ウ) 以上のことからすると、市は、短期間のうちに設定された市申入れ団交において、組合らに対する十分な説明及び資料の提示を行うことなく、また、組合らに市の提案内容について検討の機会を与えることのないまま、一方的に協議を打ち切っているのであるから、市申入れ団交における市の対応は、不誠実であったといわざるを得ない。
ウ そうすると、市申入れ団交における市の対応は不誠実であったのであるから、本件組合団交申入れによる団交が市申入れ団交によって実質的に代替されたとはいえず、市が市申入れ団交での協議及び交渉によって本件組合団交申入れの議題(b)に係る団交に応じたとはいえない。
エ したがって、市の本件組合団交申入れに対する対応は、いずれの議題についても正当な理由のない団交拒否といわざるを得ず、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
 また、本件組合団交申入れに対する市の上記の不誠実な対応は、組合らの存在を軽視したものであり、組合らに対する支配介入として、労組法第7条第3号に該当する不当労働行為である。  
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