労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  都労委平成27年(不)第32号
平河工業社不当労働行為審査事件 
申立人  Xユニオン(「組合」)  
被申立人  株式会社Y(「会社」) 
命令年月日  平成28年5月10日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   平成24年10月12日付の「和解協定書」及び「組合貸与及び使用に関する覚書」に基づく新たな組合事務所貸与の前後において、会社は、組合に対して、過去の請求額に比べて高額の電気料金及びそれまでは請求していなかった水道料金を請求した。組合は、従前の金額を主張してこれを支払わなかったところ、25年8月2日、会社は、組合事務所への送電を停止した。
 また、26年4月11日に会社の依頼を受けた警備会社が、組合事務所に立ち入り警備装置を取り外したが、会社は、このことを組合には通知していなかった。
 6月13日、会社は、組合事務所の所在する建物について、取壊し及びマンション建設を計画しており、他に社内に貸与する場所がなく、貸与期間の満了日である10月31日以降は組合事務所の貸与はできないとして、組合に対して、組合事務所の明渡しを要求(以下「明渡要求」という。)した。以降、組合と会社とは、団体交渉を計5回行ったが、会社は、組合に対して、7月17日付けで覚書の終了を通知(以下「終了通知」という。)し、11月4日には建物明渡請求訴訟を提起(以下「明渡訴訟提起」という。)した。
 本件は、会社が①組合事務所へ無断で立ち入ったこと、②電気及び水道料金を請求したこと、③終了通知及び明渡訴訟提起をしたことなどが、それぞれ組合運営に対する支配介入に当たるか否かが争われた事案である。
 東京都労委は、会社に対して、和解協定書にのっとった協議、文書交付を命じた。  
命令主文  1 被申立人会社は、申立人組合との新たな組合事務所の貸与に関する協議について、平成24年10月12日付和解協定書にのっとり、代替建物への移転等を提案し、誠実に実施しなければならない。
2 被申立人会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合に交付しなければならない。

年  月  日

Xユニオン執行委員長
    A  殿

株式会社Y     
代表取締役 B

 当社が、平成26年4月11日に貴組合の組合事務所に無断で警備会社を立ち入らせたこと、及び組合事務所の明渡しについて、貴組合と締結した24年10月12日付和解協定書に規定された次の組合事務所の貸与に関する組合との協議を誠実に実施せずに、「組合事務所貸与及び使用に関する覚書」の終了を通知したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注: 年月日は文書を交付した日を記載すること。)
3 被申立人会社は、前各項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
4 その余の申立てを棄却する。  
判断の要旨  1 組合事務所への無断立入りなどについて
 平成26年4月11日、会社の依頼を受けた警備会社は、組合に無断で組合事務所に立ち入り、警備装置を取り外したことが認められる。
 会社は、組合事務所の警備装置の取外しに立ち会っていないという。警備装置の取外しを警備会社が単独で行い、依頼者が立ち会わず、取外し後の状況を確認もしないことが通常あり得るのかについては疑問があるが、会社が立ち会ったことを裏付けるに足りるまでの疎明はない。しかし、少なくとも、会社は、警備会社と事前に打合せをしているのであるから、警備会社が組合に無断で組合事務所に立ち入り、警備装置の取外しを行うことを当然認識していたというべきである。
 そうすると、組合が警備装置の取外しを要求した経緯があり、会社が同装置の取外しを警備会社に依頼すること自体は、その要求に沿ったことであると一応はいうことができるが、会社は、組合事務所を貸与し、それを使用している組合に対して、警備会社が組合事務所に立ち入る旨の事前連絡を常識として当然行うべきであったにもかかわらず、あえてこれを怠ったというほかなく、会社の対応は、配慮を欠き、組合を軽視しているといえる。
 また、会社は、組合事務所が荒らされていたとの事実はないというが、具体的な実害があったとまではいえないものの、立入り後に資料等が散乱していたことが認められる。そして、警備装置や電気及び水道料金等、組合事務所の貸与を巡り組合と会社とが対立していた状況を考慮すれば、会社は、警備会社を無断で組合事務所に立ち入らせたことが、組合に情報漏えい等の危惧を抱かせ組合活動を委縮させる等の影響を生じさせることも容易に予見できたはずである。
 したがって、会社が組合に対して、警備会社の組合事務所への立入りを事前に通告しなかったことは、組合運営あるいは組合活動に対する支配介入に当たるといわざるを得ない。
2 電気及び水道料金の請求について
 まず、会社が、組合に対して、23年7月に算定根拠も示さず月額5,000円の電気料金の請求を行った後に、25年6月3日には電気料金の基本料金の負担など従来と違う算定方法による請求を行い、そのわずか2か月後から組合事務所への送電を停止したことには、責められるべき点がないとはいい難い。しかし、組合が、26年12月12日に至るまで電気及び水道料金を支払っていなかったことにも問題がない訳ではなく、どちらか一方だけに非があるとはいえない。
 次に、会社の電気及び水道料金の請求について、組合は不合理であると、会社は合理的であるとそれぞれ主張する。しかし、覚書に料金の算定方法の記載はなく、組合が従前の組合事務所での請求額を基準にすべきという主張にも、会社の電力会社に相談して算定した請求にもそれぞれ一理あり、これは、双方が協議し決定すべき問題であるといえる。
 そして、25年9月12日以降団体交渉が開催され、会社が、翌13日に水道の供給を停止し、26年7月31日には送電を再開し、組合が12月12日に60,000円を支払い、会社がその後は請求を行っていないことが認められる。
 したがって、双方がそれぞれの算定方法を主張し、対立はあったものの、協議の末に一定の解決に至ったものであり、会社の電気及び水道料金の請求が組合に対する支配介入に当たるということはできない。
3 終了通知及び明渡訴訟提起などについて
 まず、和解協定書には、会社が立退きを求めた場合、組合が立退きに応じる旨の条項(第3項)が、覚書には、使用活用する必要が出てきた場合には、代替建物等への移転及び明渡しを求めることができる旨の条項(第4条)があり、明渡要求自体は、和解協定書及び覚書に従ったものであり、支配介入には当たらない。組合は、明渡要求に経営上の理由はないという。しかし、会社は、後に違約金を支払って解除したものの、26年4月26日に建設会社とDの取壊し及び跡地でのマンション建設工事契約を締結したこと、並びに、会社の不動産の賃貸事業で営業利益が生じているものの、事業全体及び印刷事業で営業損失が生じていることが認められ、経営上の理由との会社の主張には、それを裏付ける事情がないとはいえない。
 しかしながら、和解協定書及び覚書の内容をみると、会社が何らの措置も講ずることなく明渡しを要求できるものともいえないので、以下の点について検討する。
 和解協定書には、明渡しを求める場合、会社が次の組合事務所の貸与に関する組合との協議を誠実に実施するとの条項がある(第3項)。この条項は、前件において当委員会で協定締結に至った経緯と覚書の代替建物等への移転(第4条)、次の組合事務所貸与に関して、双方は誠実に協議を行わなければならない(第5条)との条項を考慮すれば、代替建物等への移転などの次の組合事務所の貸与を前提とする協議を誠実に実施することを規定したものと解するのが相当である。
 組合と会社とは、6月13日以降5回の団体交渉を実施した。ところが、会社は、組合事務所について、複数の遊休不動産を所有するにもかかわらず、社内に貸与する場所がないとするばかりで、代替建物等への移転などを提案したことはなく、送電を停止しても困っているとの印象はなかった、組合事務所が必要なのか、週1回程度では組合事務所の必要性がないなどと繰り返し組合事務所の必要性に疑義を述べ、社外に借りる、マンションの一室を提供するなどの組合の提案を一蹴し、さらに、この間に再三明渡要求の通知等を行っている。
 これらの経緯からは、会社が和解協定書にのっとった協議を誠実に実施したということはできず、したがって、会社の対応は、和解協定書を遵守しないことによる支配介入に当たる。
 会社は、①代替事務所の提供が物理的に不可能であり、②他組合との差別優遇となるおそれがあることを、繰り返し説明し誠実に対応しており、組合の弱体化を意図して労働協約の継続を拒否したものではないという。しかし、①については、上記のとおり、会社は複数の遊休不動産を所有するにもかかわらず、社内に貸与する場所がないとするばかりで、代替の組合事務所の提供が物理的に不可能との説明を尽くしてはいないものであり、②については、そもそも複数組合の併存下において和解協定書を締結し組合事務所を貸与した経緯があり、その後の事情が特に変化したとの疎明もないのであるから、会社の主張は、いずれも採用することはできない。  
掲載文献   

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