労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神労委平成26年(不)第13号
青葉交通不当労働行為審査事件 
申立人  Xユニオン(「組合」)  
被申立人  株式会社Y(「会社」) 
命令年月日  平成28年5月26日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①経営悪化により平成26年4月21日をもって会社を解散するとして全従業員に対し解雇予告通知を行ったこと、②組合と会社が労働協約を締結した以降に行われた団体交渉で、要求事項に対し具体的な回答をせず、従前に提案していた事項を一方的に覆すなど不誠実な対応をしたこと、③組合員に対して事故車両を配車したことが、①は労働組合法第7条第1号に、②は同条第2号に、③は同条第3号に該当する不当労働行為であるとして、救済申立てのあった事件である。
 なお、組合は、上記①及び③については申立てを取り下げ、②については申立事実を平成26年3月29日に行われた第4回団体交渉における会社の対応のみとした。
 神奈川県労委は、会社に対して誠実団交応諾及び文書手交を命じた。  
命令主文  1 被申立人は、申立人の平成26年3月24日付け「団体交渉要求書」に記載されている交渉事項のうち、①会社解散を理由とする解雇を撤回すること、②年次有給休暇取得時の賃金支払方法を過去2年間分について開示し、賃金未払分を支給すること、及び③これまでの組合員全員の深夜手当を確認し、適法な深夜手当を支払うことの3項目について、具体的な資料を提示し十分に説明するなどして、誠実に団体交渉に応じなければならない。
2 被申立人は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に手交しなければならない。
記(省略)
 
判断の要旨  1 平成26年3月29日に開催された第4回団体交渉における会社の対応は、不誠実であったか否か
 組合は、第4回団体交渉における会社の対応が不誠実であると主張し、会社は、会社解散が決議され全従業員の解雇予告が行われた時点で、組合が交渉を求めている事項を協議する実益もなくなったのだから第4回団体交渉における会社の対応は不誠実とは評価できないと主張するので以下判断する。
ア 平成26年3月19日に開催された臨時株主総会において会社の解散が決議された後、会社は、3.20説明会において、同年4月20日付けで全従業員を解雇すること、及び同月21日に会社が解散となることを通告し、同年3月23日付けの文書で同月25日に予定されていた団体交渉について交渉の意味が失われたとして中止を申し入れた。そして組合が3.24要求書で第4回団体交渉の開催を会社に対し求め、同月29日に第4回団体交渉が行われた。
イ 組合が3.24要求書で求めた交渉事項は、いずれも労働条件に関するものであり、会社にとって処分可能なものであるから、会社は団体交渉に誠実に応じなければならない。しかし、組合による団体交渉の申入れは会社解散、全従業員解雇まで1か月弱となった時点で行われており、会社解散の決議の有効性に疑義が生じる何らかの事情が認められない以上、交渉事項によっては、第4回団体交渉で協議を行う意義ないし必要性が総合的にみて失われていたことも考えられる。そこで、この点について、3.24要求書記載の各交渉事項について検討する。
(ア) 議題1 (会社解散を理由とする解雇を撤回すること)
a 会社は、会社解散と従業員の解雇について3.20説明会で初めて従業員に対して通告したが、同説明会では会社解散の理由について経営の悪化である旨を述べたのみで資料の提供も行っていない。このように何ら具体的な説明がなされない中で3.20説明会の1か月後に解雇されると突然通告された本件組合員らにとっては、会社が解雇の撤回を行わないとしても、団体交渉において解雇の原因となった会社解散の詳細な理由について説明を求めたり、会社に対して何らかの措置を求めることができるのであり、3.20説明会の直後の第4回団体交渉で協議を行う意義があったといえる。
b また、労使関係の経過をみると、組合に対し会社から事前の打診すらないまま会社解散及び全従業員の解雇が通告されており、平成26年2月14日に行われた事務折衝における役員報酬に関するA9執行委員の発言と併せ考えると、組合が、会社解散そのものの目的が組合排除ではないかとの疑念を持ち、会社が3.20説明会で述べた経営の悪化という会社解散の理由が事実に反すると考えたとしても無理からぬものがある。そして、本件組合員らのために会社に対して解雇の撤回の協議を求め、会社解散の理由を質すことは組合の存在意義からすれば当然であり、本件組合員らのみならず合同労働組合である組合自身にとっても第4回団体交渉で協議を行う意義があったといえる。
c 前記a及びbでみたとおり、議題1について第4回団体交渉で協議を行うことは、組合にとって必要性があったといえる。そして第4回団体交渉における協議の意義ないし必要性が失われていたといえる特段の事情を認めることはできない。
(イ) 議題2 (年次有給休暇取得時の賃金支払方法を過去2年間分について開示し、賃金未払分を支給すること)及び議題3 (これまでの組合員全員の深夜手当を確認し、適法な深夜手当を支払うこと)
 これら2つの交渉事項については、本件組合員らにとって団体交渉によって協議すべき事項であることは明らかであり、本件組合員らの解雇まで1か月弱となった第4回団体交渉開催時点においても、会社は十分対応することができるものである。
(ウ) その他の交渉事項
 認定した交渉事項については、いずれも、全従業員が解雇される平成26年4月20日まで本件組合員らの勤務は継続することからすると、本件組合員らにとって団体交渉において協議する必要性があることは明らかであり、本件組合員らの解雇まで1か月弱となった第4回団体交渉開催時点においても会社は十分対応することができるものである。
 そして第4回団体交渉における協議の意義ないし必要性が失われていたといえる特段の事情を認めることはできない。
(エ) 小括
 前記(ア)から(ウ)まででみたとおり、3.24要求書記載の各交渉事項はいずれも、第4回団体交渉において協議すべき意義ないし必要性は失われていないのであるから、会社は3.24要求書記載の交渉事項すべてについて団体交渉に応じ、かつ誠実に対応する義務を負う。
ウ 次に、第4回団体交渉における会社の対応について検討する。
(ア) 議題1 (会社解散を理由とする解雇を撤回すること)
 会社は、会社解散の理由として業績が悪化した旨を述べた上で、解雇撤回には応じられない旨を回答しただけであり、説明資料の提示もなかった。
(イ) 議題2 (年次有給休暇取得時の賃金支払方法を過去2年間分について開示し、賃金未払分を支給すること)
 会社は、規定に基づき直近3か月の平均賃金を支給している旨を回答しただけであり、説明資料の提示もなく組合の主張に対しても何ら対応しなかった。
(ウ) 議題3 ( これまでの組合員全員の深夜手当を確認し、適法な深夜手当を支払うこと)
 会社は、賃金規程(現行)に定められた条件で賃金を支払っており、その賃金は基本給、時間外手当、深夜手当、歩合給がすべて含まれているため、その賃金の深夜手当等に対する配分に誤りがあったとしても問題はないとのみ回答した。また、説明資料の提示もなく、A5組合員の未払いの深夜手当に関する組合の具体的な主張に対しても何ら対応しなかった。
(エ) その他の交渉事項
 認定した交渉事項のうち⑥(A7組合員が、平成26年3月10日から同月17日まで年次有給休暇を取得することを認めること)について、会社は、同組合員の年次有給休暇の残日数8日を限度に認めると回答しており、組合が求める8日間の年次有給休暇に応じている。
 しかし、それ以外の交渉事項について会社は、会社としての結論を述べるだけで、結論の理由を具体的に説明したり、説明資料を示していない。
 また、⑧の年次有給休暇の残日数に関する議題については、組合が求めた資料の開示に応じることすらできなかった。
(オ) 小括
 前記(ア)から(工)まででみたとおり、会社は、第4回団体交渉において、A7組合員の年次有給体暇の取得に関するもの以外の交渉事項に対して誠実に対応していない。
エ 結論
 前記イ及びウで判断したとおり、会社は、3.24要求書記載の交渉事項すべてについて団体交渉に応じ、かつ誠実に対応しなければならないところ、3.24要求書記載の各交渉事項のうちA7組合員の年次有給休暇の取得以外の8項目について第4回団体交渉において誠実に応じたとは認められないから、これら8項目に関する会社の対応は労組法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
2 救済利益の存否
 会社は、本件結審日現在、清算結了の登記がなされていないことから、清算法人として存続していることが認められる。前記1で判断したとおり、第4回団体交渉における議題1から議題3に関する会社の対応は労組法第7条第2号に該当する不当労働行為である。しかし、会社は、組合と何らかの交渉を持つとしても清算の目的の範囲内でしか交渉に応じることはできないと主張するので、これを交渉事項によっては救済利益が失われていると主張しているものととらえ、以下、組合が団体交渉を命じるよう求める交渉事項について救済利益の存否を判断する。
ア 組合は、本件において、議題1 (会社解散を理由とする解雇を撤回すること) 、議題2 (年次有給休暇取得時の賃金支払方法を過去2年間分について開示し、賃金未払分を支給すること及び議題3( これまでの組合員全員の深夜手当を確認し、適法な深夜手当を支払うこと)について団体交渉を命じることを求めている。
イ 清算法人は清算の目的の範囲内で存続しているところ、議題1については、会社解散を理由とする解雇の撤回を求めるものであり、清算法人に移行し、かつ会社は所有するタクシーの営業権をすべて譲渡していることからすれば、解雇の撤回そのものを団体交渉によって解決することは不可能となったようにもみえる。
 しかし、本件において組合は、「会社解散の根拠や経緯について説明しなければ、組合が会社解散及び組合員の解雇について理解や納得できるはずはなく」と主張しており、そうであれば会社が団体交渉において会社解散の理由について資料を示すなどしてその根拠や経緯を丁寧に説明することにより組合及び組合員らの理解を得ることは十分可能である。
 よって議題1についての団体交渉を行うことは、会社にとって対応が可能なものであり、清算の目的の範囲内といえる。
ウ 議題2及び議題3については、未払賃金及び深夜手当を支払うことを求めるものでありこれらの議題について団体交渉を行うことは、会社の財産関係の整理に関係することから清算の目的の範囲内といえる。
エ 前記イからウで判断したとおり、会社が清算法人であるとしても、会社が救済命令を履行することは可能である。そして、議題1及び議題3については裁判における請求事項と重なるとしても団体交渉における解決は妨げられないこと、議題1から議題3までの交渉事項が解決に至ったという事情は認められないことを併せ考えると、本件申立てに係る救済利益が存在すると判断する。  
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