労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  兵庫県労委平成26年(不)第9号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合兵庫合同支部(「組合」) 
被申立人  株式会社Y(「会社」) 
命令年月日  平成28年4月21日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合と会社との平成25年12月17日から平成26年10月2日までの計4回の団体交渉(以下「本件団体交渉」という。)における、会社都合の休業時の休業補償及び年次有給休暇の取扱いに係る会社の対応、組合の組合員であるA外3人を原告とする神戸地方裁判所に係属中の割増賃金等請求事件に係る会社の対応が、いずれも労働組合法第7条第2号に該当するとして、救済申立てのあった事案である。
 その後、会社が、同当事者間の兵庫県労委平成26年(不)第3号事件において締結された和解協定(以下「和解協定」という。)に係る同年11月19日付け和解協定書(以下「和解協定書」という。)第3項前段を履行せず、Aの時間外労働について、会社の他の従業員であるC1と異なった取扱いをしていることが労組法第7条第1号に該当し、その行為が同時に同条第3号に該当するとし、また、和解協定書の履行を求める同年12月4日の団体交渉においてAとC1の時間外労働を公平にするとした合意事項を遵守しない会社の対応が同条第2号に該当するとして、追加の救済申立てのあった事案である。
 兵庫県労委は、会社に対して、時間外労働について、団交の合意事項を踏まえてAとC1とを公平に取り扱うこと、Aに対し、C1に支払った時間外割増賃金の2分の1に相当する額の支払い、誠実団交応諾、文書交付を命じ、その余の申立を棄却した。 
命令主文  1 被申立人株式会社Yは、時間外労働について、申立人X組合兵庫合同支部組合員Aと被申立人株式会社Yの他の従業員であるC1とを、平成26年12月4日の団体交渉での合意事項を踏まえて公平に取り扱わなければならない。
2 被申立人株式会社Yは、Aに対し、平成26年12月5日から本命令書写し交付の日までの間にC1に対して支払った時間外割増賃金の額の2分の1に相当する額を支払わなければならない。ただし、その間にAに支払った時間外割増賃金がある場合においては、当該支払額に相当する額を差し引くものとする。
3 被申立人株式会社Yは、申立人X組合兵庫合同支部の組合員らに係る会社都合の休業時の休業補償及び年次有給休暇の取扱いについての団体交渉に、誠実に応じなければならない。
4 被申立人株式会社Yは、本命令書写し交付の日から7日以内に、下記文言を記載した文書を申立人X組合兵庫合同支部に交付しなければならない。
記(省略)
5 その余の申立ては棄却する。 
判断の要旨  1 Aに時間外労働を命じない不利益取扱いについて(争点1)
(1) Aの時間外労働について
 神戸支店の現場業務の大半は、Aが組合に加入するまでは、Aが神戸事業所長という肩書で行っていた業務であり、Aがその業務を行ったとしても何ら支障がないことが認められる。
 しかし、和解協定が締結され、その具体的な実現に向けた団体交渉が行われた平成26年12月4日以降、平成27年4月までの間について、証拠上明らかになったAとC1の時間外労働は、Aは6回、延べ約5時間であるのに対し、C1はほぼ毎日、延べ約138時間である。この差からすれば、両人が公平に時間外労働を分担しているとは認め難く、会社は、時間外労働について、Aに対し、C1とは異なった取扱いをし、Aにはほとんど時間外労働を命じていないと言える。
 なお、両人に共に時間外労働を命じる必要がない程度の業務量しかない日は、その業務が主に材料ヤードの業務の場合はAに時間外労働を命じてC1を退勤させるべきであり、Aが従事する材料ヤードの業務をC1に命じることは、平成26年12月4日の団体交渉での合意事項に明らかに反する行為であると言える。
 また、会社は、C1は、重機オペレーター業務だけでなく、神戸支店の場長として、窓口での顧客対応の補助業務や神戸支店の施錠業務にも従事しているため、不可避的に30分から1時間程度の時間外労働がほぼ毎日発生していると主張する。
 確かに、C1は、場長という肩書があるが、場長として特別に遂行しなければならない業務は、神戸支店の施錠業務を含めて特に認められないし、C1自身もその認識がないことが認められる。
 よって、Aの時間外労働についての会社の取扱いは、和解協定書第3項前段及び平成26年12月4日の団体交渉での合意事項に反しているものと言うことができる。
(2) Aに対して時間外労働を命じないことの不利益性について
 時間外労働は、それを命じられないことそれ自体が不利益とは言えないし、時間外労働が命じられなかったために時間外割増賃金が支払われないことも直ちに不利益であるとは言えない。しかし、毎月、一定の量の時間外労働を恒常的に命じられ、時間外割増賃金が労働者の毎月の賃金の一定の部分を占めている場合において、時間外労働が命じられず、時間外割増賃金が支払われないことは、労働者にとって不利益と評価すべきである。
 Aについても、組合加入前、会社がほぼ毎日時間外労働を命じ、それに対する時間外割増賃金を毎月支払っていたものであるにもかかわらず、組合加入後、時間外労働を命じず、時間外割増賃金を支払わないことは、Aにとって不利益と評価すべきである。
(3) 会社の不当労働行為意思について
 Aが、組合に加入した後、会社は、それまでAに命じていた時間外労働を命じなくなった。
 Aの担当業務である材料ヤードの業務であっても、他の従業員に代替させることが可能な場合には、Aに時間外労働を命じていないことが認められる。
 とりわけ、Aを退勤させて、管理職である業務統括部長のC3、営業職で重機に乗務した経験のないC4並びに神戸支店ではなく本店に勤務するC5及びC6に、わざわざAの業務を行わせることや、材料ヤードに来た客を待たせてまでも、C1に、受付業務と受付場所から約50メートル離れた材料ヤードの業務とを兼務させることは不自然というべきである。
 なお、会社は、平成26年12月4日以降にAに6日間の時間外労働を命じていることが認められるが、いずれの場合も突発的な状況が発生したときや、変則的な業務が発生したとき等、A以外の者に時間外労働を命じることができなかった場合に限られることが認められる。
 これらのことからすると、会社には不当労働行為意思があるものと認められる。
(4) 小括
 以上のことから、会社が、Aに対し時間外労働を命じないことは、Aが組合員であるが故をもって行われた不利益取扱いであり、労組法第7条第1号に該当すると判断する。
2 割増賃金等請求事件に関する団体交渉について(争点2)
 本件において、組合は、団体交渉申し入れ書において、割増賃金等請求事件を交渉事項にしたいとする旨を会社に対して明確にしたとする疎明はなく、実際の団体交渉においても、単に交渉の可能性について質したり、交渉事項とすべきであるとの意見を表明したりしたに過ぎないことが認められる
 よって、組合は、割増賃金等請求事件を交渉事項として団体交渉を申し入れたとまでは認められず、労組法第7条第2号に該当しないと判断する。
3 会社都合の休業時の休業補償及び年休の取扱いに関する団体交渉について(争点3)
 会社の団体交渉義務の基本的な内容として、組合と誠実に交渉に当たる義務があるが、会社は、会社都合の休業時及び年休の取扱いについての団体交渉において、会社の交渉担当者は改善の必要性を認めながらも、その旨を会社の代表取締役に進言するとしたり、就業規則変更の際に是正するといった回答に終始していることが認められる。
 このような交渉経過からすれば、会社の合意達成に向けた努力は、不十分であると言うことができる。
 よって、会社都合の休業時の休業補償及び年休の取扱いについての団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たり、労組法第7条第2号に該当すると判断する。
4 和解協定書第3項前段の不履行及び平成26年12月4日の団体交渉における合意事項の不履行について(争点4)
 会社は、前記1で判断したとおり、和解協定書第3項前段を履行せず、また、平成26年12月4日の団体交渉における合意事項を遵守していないことが認められる。
 しかしながら、団体交渉における合意事項を遵守しないからといって、直ちに会社の交渉態度が不誠実であるということにはならない。
 よって、会社の同日の団体交渉での対応は不誠実であり、労組法第7条第2号に該当するとの組合の主張は、失当と言わざるを得ない。
5 支配介入について(争点5)
 会社は、前記1で判断したとおり、和解協定書第3項前段を履行せず、Aの時間外労働に関して不利益取扱いをしたことが認められ、このことは、組合の組合員を威嚇し、動揺を与え、組合の運営を阻害し、組織を弱体化させようとした支配介入行為であると判断する。  
掲載文献   

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