労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  福岡労委平成27年(不)第5号
九州電機工業学園不当労働行為審査事件 
申立人  X組合福岡地方本部(「組合」) 
被申立人  学校法人Y学園(「法人」) 
命令年月日  平成28年4月15日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   平成26年10月14日、法人が、組合の組合員であり、法人を27年3月31日定年退職予定のA1及びA2に対し、27年4月1日から28年3月31日まで、「短時間嘱託」として継続雇用するとして、「週10時間の勤務形態」、「基本賃金月額84,600円」、「賞与 無」、「社会保険加入 無」、「雇用保険適用 無」とする労働条件(以下「本件継続雇用条件」という。)を提示した。本件は、上記法人の行為は、労組法7条1号及び3号に該当するとして、組合が救済を申し立てたものである。
 福岡県労委は、申立てを棄却した。  
命令主文  本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  (1) 不利益性について
 高年法〔高年齢者等の雇用の安定等に関する法律〕では、継続雇用後の賃金等の労働条件については、基本的に当事者の自治に委ねる趣旨であることが認められ、事業主は、労働者の意欲と能力に応じた多様な希望を踏まえて、合理的な裁量の範囲で条件を提示することができる。しかし、提示された継続雇用後の労働条件が、具体的状況に照らして、労働者に継続雇用後も勤務を継続する意思を削がせるような労働条件であるときは、高年齢者の安定した雇用の確保の促進という同法の趣旨に抵触するものといわざるを得ない。
 本件のように、業務量、本人の能力や法人の経営状況等を考慮して継続雇用の労働条件を個別的に決定する制度の下においては、労働者の多様な希望への対応が可能であるところ、労働者が従前どおりの勤務を希望する場合において、労働者に提示された労働条件が、従前と比較して月額賃金の21パーセント程度、年収ベースでみると17パーセント程度となる月額84,600円という著しく低いものであるときは、合理的な理由が認められない限り、同法の趣旨に抵触するというべきである。
 以上のことからすると、A1らに提示された本件継続雇用条件は、ほかの継続雇用された教職員の雇用条件及びA1らの定年退職前の雇用条件と比較して大きな格差があり、合理的な理由が認められない限り、経済的に不利益な取扱いであることは否定できない。
(2) 本件継続雇用条件を提示した理由について
 法人は、定年退職者の継続雇用の条件については、就業規則等に定める継続雇用制度の範囲内でその都度、業務量、本人の能力及び法人の経営状況等に応じて定めていたということができ、特に、教員については、授業及び校務の実施体制上の必要性に応じて、「常勤嘱託」とするか「非常勤又は短時間嘱託」とするかを決定するとともに、授業のみを担当させる後者については、定年退職する教員が担当できる授業科目の年度ごとの実施体制等を考慮して、担当する授業時間数を決定していたとみることができる。
 そして、A1らの継続雇用条件も法人のそのような方針に沿って決定されたものとみることができ、非組合員である教員のC1についても同様である。
 これに対して、B1校長やC2事務員については、定年退職を機に、それまでの業務量が著しく減少するとは考えられないことからすると、教員とは異なり、勤務時間や日数を定年前と同様の取扱いとすることに一定の合理性が認められる。
 したがって、法人が、A1らに対して本件継続雇用条件を提示したことについては、カリキュラム編成等の学校運営における合理的な理由に基づくものであったと認められる。
(3) 総括
 法人が、A1らに対して本件継続雇用条件を提示したことは、ほかの継続雇用された教職員の雇用条件と比べて、経済的に不利益な取扱いであることは否定できない。
 しかしながら、法人が本件継続雇用条件を提示したことには、学校の運営上合理的な理由が認められ、また、非組合員にも本件継続雇用条件と同一の条件で雇用された事例があり、さらに、組合が主張する各事実は、いずれも事実として認められないか、認められるものについても、それをもって、法人が本件継続雇用条件を提示したことが組合嫌悪の意思によることを示すとは認められない。
 以上のことを併せ考えると、法人が、A1らに対し本件継続雇用条件を提示したことは、組合員であること又は組合の正当な行為を理由としてなされたものとは認められないから、労組法7条1号には該当せず、また同条3号にも該当しない。  
掲載文献   

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