労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  三労委平成25年(不)第2号
鈴鹿さくら病院不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  医療法人Y1(「法人」) 
被申立人  Y2(個人) 
命令年月日  平成28年4月14日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   (1)法人及びY2が、①組合員でない特定の従業員4名に対して、年俸制や給与規程に基づかない賃金及び手当の増額を行う一方、組合員にはそのような増額をしなかったこと、また、②2名の薬剤師の採用に際して、初任給加算等を行う一方、組合員にはそのような措置をしなかったこと
 (2)Y2が、平成24年4月頃及び平成25年4月頃、A1分会(「分会」)の執行委員であったA2精神保健福祉士に対して第二組合の設立を勧奨したこと
 (3)Y2が、平成24年8月20日、Y2を債権者とし組合及び分会を債務者とする争議行為禁止の仮処分を津地方裁判所に申し立てたことが不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件である。
 三重県労委は、争議行為禁止の仮処分を津地方裁判所に申し立てたことが、労組法7条3号の不当労働行為に該当するとして、法人に対して、文書掲示を命じ、非組合員に対して賃金の増額支給を行ったことに関する申立てについては却下するとともに、その余の申立てを棄却した。  
命令主文  1 被申立人Y2が、平成24年8月20日、被申立人Y2を債権者とし申立人及び申立人のA1分会を債務者として争議行為禁止の仮処分を津地方裁判所に申し立てたことが、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であることを確認する。
2 被申立人医療法人Y1は、本命令書受領の日から7日以内に、下記内容の文書を申立人に交付するとともに、縦90センチメートル×横60センチメートルの白紙に楷書で明瞭に記載し、被申立人医療法人Y1が経営するC病院内の従業員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
記(省略)
3 被申立人らが、非組合員6名に対し、年俸制及び給与規程に基づかない賃金の増額支給等を行ったことに係る申立てを却下する。
4 申立人のその余の申立てを棄却する。  
判断の要旨  (1) 本件ストライキの正当性
ア 争議行為の目的
 (ア) 憲法第28条は団体交渉を中心とした労使の自治に法的基礎を与えることを本旨とし、団体交渉を機能させるための権利として争議権を保障しているので、争議行為が争議権保障の範囲に入るためには、それが団体交渉上の目的事項のために遂行されなければならないから、争議行為の目的は使用者が団体交渉を行うことを労働組合法によって義務付けられている事項(義務的団交事項)にあたる必要があると解される。
 (イ) また、義務的団交事項とは、組合員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものをいうとされている。
 (ウ) そこで、本件ストライキ通告書のストライキの目的が義務的団交事項に当たるか否かをそれぞれ検討する。
 本件病院では労使合意により年俸制が適用される医師及び管理職以外の職員に対しては、給与規程による賃金体系が適用されていたところ、Y2が一般職であるB3経理係長及びB4運行管理主任に対し、給与規程に基づかない手当の増額支給を行ったことは労使合意に反するものであることから、組合員との関係でも賃金制度の基準枠組みに関するものということができる。そうすると、本件増額支給の解明及び是正を求めることは組合員の労働条件に関する事項ということができ、使用者に処分可能なものということができる。
 また、損害賠償請求訴訟における尋問において、Y2がB1事務長らに本件増額支給をしたうえで、増額分を返還させ、黒字額を圧縮し組合からの要求を免れることが目的であったなどと陳述していることからすると、Y2は組合及び分会からの賃金の増額要求等を免れるため本件増額支給を行っていたものと判断するのが相当であるから、本件増額支給の解明及び是正は組合員の労働条件に関するものということができる。
 本件増額支給の解明及び是正は組合員の労働条件に関する事項であり、使用者に処分可能なものであるから義務的団交事項にあたる。
 次に、B7看護師長の処分については、B7看護師長の下で働く労働者の労働環境の改善を求めるものといえるから、組合員である労働者の労働条件に関する事項であり、使用者に処分可能なものであることから義務的団交事項にあたる。
イ 争議行為の開始時期・手続き
 平成24年6月21日、組合及び分会は、Y2に対し、本件増額支給について問い質したが、Y2が平成20年8月以降本件増額支給を行っていたにもかかわらず、本件増額支給を認識していないと回答し、その後の団体交渉等においても本件増額支給があったことを認めず、組合及び分会の本件増額支給に係る調査要望に応じなかったことから、組合及び分会が本件ストライキを実施したことが認められる。
ウ 争議行為の手段・態様
 組合及び分会はストライキ期間中も非組合員によるシフトが組めるように配慮して2名の非組合員看護師が所属する2病棟の夜勤帯に限定して本件ストライキを実施することにした上、Y2に対し、平成24年8月17日に提出した本件ストライキ通告書において、本件ストライキ期間中の保安要員の提供を申し出ているのであるから、患者の生命・身体の安全確保に相当の配慮をしている。組合及び分会は、Y2から要請を受けた保安要員の提供を拒否しているものの、これはY2が本件ストライキ期間中の2病棟のシフト表を開示せず、保安要員の必要性について具体的な説明をしなかったためであるから、保安要員の提供拒否について組合及び分会に主たる責任があるということはできない。そして、Y2は、2病棟の本件ストライキ期間中の臨時のシフトを組むことができた上、本件ストライキが実施された平成24年8月20日及び同月21日には保安要員として外部の看護師2名を手配することもできていたのであるから、本件ストライキにより患者の生命・身体に具体的な危険が生じたというものではない。
エ 以上のことからすると、本件ストライキは正当な争議行為であったということができる。
(2) 支配介入該当性
 上記(1)のとおり、本件ストライキによる入院患者の生命・身体の安全に対する客観的危険性があったとは認められず、Y2が主張する被保全権利はないこととなるから、本件仮処分申立てには客観的に相当な理由はなく、Y2が本件仮処分申立てに相当な理由があると誤信したとしても、そのことにやむを得ない事情が認められるわけではない。
 また、Y2は、8月20日のストライキ当日に津地方裁判所へ本件仮処分申立てを行った上、外部の看護師2名を手配して待機させた。これは、ストライキを止める手段を講じた上で、仮にストライキが決行されても支障のないように準備を整えることにより、申立人及び分会のストライキの効果を大幅に減じさせるものである。このため、同日に申立人及び分会が提案して開催されたストライキ実施時の保安要員に係る臨時労使協議会において、保安要員の必要性について具体的な説明をせず、保安要員の必要性を確認するためのストライキ対応勤務シフトの組合及び分会への提示を拒むなど、不誠実な対応に終始した。そして、同月22日に本件仮処分申立てを認容する仮処分決定がなされ、同日にストライキは中止されることとなったが、同月29日に津地方裁判所において民事保全法第37条第1項による起訴命令の決定がなされると、即、翌30日に本件仮処分命令申立てを取り下げた。
 このように、Y2は、組合及び分会との関係で、入院患者の生命・身体の安全を確保するための真摯な努力をしたとはいえない上、上記のとおり、本件ストライキによる入院患者の生命・身体の安全に対する客観的危険性があったとは認められないにもかかわらず、本件仮処分申立てに及んだものであり、良好な労使関係では到底見られないような不自然さや手続きの異常さがみられる。
 また、Y2は、組合及び分会から本件増額支給の事実を問いただされても「認識していない」「不正は認められなかった」などと回答したうえ、組合及び分会から繰り返し本件増額支給の調査・解明の要請がされたにもかかわらず、本件増額支給の事実を否定する回答や不誠実な対応を続けたものであり、組合及び分会から本件ストライキの通告を受けた際にも、本件増額支給について事実を明らかにすることなく、本件仮処分申立てに及んだものであるから、かかる経緯に鑑みれば、Y2は、組合及び分会による本件増額支給問題の追及を封じるための手段として本件仮処分申立てに及んだということができる。
 以上のことから、本件仮処分申立ては、入院患者の生命・身体の安全を確保するためというよりも、正当な争議行為である本件ストライキの阻止そのものを欲しての申立てであると推認することができ、正当な争議行為に対する妨害行為と評価することができることから、労働組合法第7条第3号にあたる。  
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