労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神労委平成26年(不)第19号
神奈川県総合リハビリテーション事業団不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y事業団(「事業団」) 
命令年月日  平成28年3月30日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、被申立人事業団 が、神奈川県が県職員の退職手当の支給基準を引き下げたことを受け、事業団の退職手当を県の支給基準と同様に引き下げることについて申立人組合と団体交渉を行ったが、県に準拠して退職手当を引き下げなければならない合理的な理由を述べず、 具体的な資料も提供しないなど誠実な交渉を行わず、また、組合と合意が得られないまま平成25年10月24日に団体交渉を打ち切って、平成26年1月に退職手当支給規程の変更を実施したことが、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして、救済申立てのあった事件である。
 神奈川県労委は、事業団に対して、文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人事業団は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人組合に手交しなければならない。

記(省略)

2 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 被申立人が平成25年2月15日に提案した退職手当制度の改定について、申立人と誠実に団体交渉を行ったか否か。
イ 事業団の説明について
(イ) 県の意向等に係る説明について
 事業団は、組合に対して、県の具体的意向、つまり、県と同じ退職手当制度を維持しなければ、退職手当に係る補助金等の交付が受けられなくなると事業団が推測せざる得なかった具体的事情に触れることもないまま、ただ漠然と、県との関係悪化の可能性や信頼性の維持等をいうだけであり、当該具体的事情を述べることができない理由等も何ら説明しなかった。なお、事業団は、県の補助金等の予算措置の結果にかかわらず不退転の決意で行うなどとと述べるなど、県の意向等は関係なくあくまで事業団が主体的に判断したような説明も行っているところであるが、そうであれば、事業団が当該判断を行った経緯及び根拠が合理的であることの説明をさらに尽くさなければならないところである。しかし、上記で見たとおり、一連の交渉における事業団の説明は、結局のところそれには到底及ばない。 したがって、この点に係る事業団の交渉態度は、組合を説得し理解を求めるに足りる態度であるとはいえない。
(ウ) 事業団の退職手当及び給与制度の実態と県に準拠する必要性について
 事業団は、給与制度については既に過去の交渉で整理済みであるし、退職年金職域加算相当部分の廃止については職員と合意したもので、いま話をすることではないなどとして議論を拒否し、単に県に準拠することが望ましい旨を述べるばかりであった。このような説明は到底組合の疑問に答えたものということはできない。
(エ) 退職手当の引下げと指定管理者の指定との関連について
 事業団は、県との信頼関係が大切であることなどを漠然と説明しつつ「一番怖いのは、指定管理に指定されないことである。」、「指定管理から離れたら、事業団は解散するしかない。」 などと述べるだけであって、上記具体的事情については何ら説明せず、説明できない理由も述べていない。このような対応では、組合は、退職手当引下げの必要性を指定管理者の指定の維持という観点からは理解することはできない。組合にしてみれば、事業団には高度な専門性があると認識していたことに加え、県も、事業団に対する平成27年2月5日付けの通知において 「長期的、継続的な視点と高度・ 専門的な知識の蓄積・活用が必要なことから、事業団が指定管理者となることが最も適当と認められる」 と記載していることを併せ考えても理解できないのは無理からぬものであり、この点に係る事業団の説明の程度は、組合に理解を求めるには不十分であったといわざるを得ない。
ウ 資料の提供等について
 組合は、退職手当引下げに係る理解のため、①過去3年間の定年退職者の平均退職手当額及び平均勤続年数が分かる表、②各組合員の退職手当額の試算データ、③過去5年間の給料表別離職率、④ラスパイレス指数のデータ、 ⑤退職手当引下げの影響に関する職員分布表等の資料を求めたところ、事業団は、ラスパイレス指数についてはデータが一般公開されていないなどと して提出しなかったが、「給料表別定年退職者平均退職手当額・平均勤続期間一覧」を提出したほか、各組合員の退職手当額の試算データについて、 モデルケースでおよその傾向を把握してほしいとしながらも、最終的には各組合員に対して 試算データを提示し、さらに、「 自己都合退職の給料表別離職率一覧」及び「退職手当改定による影響額の分布」 を提出している。このことからすると、事業団は組合の要求に概ね応じてぃると評価すべきであり、この点については必ずしも不誠実な対応であったとはいえない。
エ 代償措置の検討状況について
 事業団は、組合の要求を受け、代償措置として日額200円のADL日額特殊勤務手当を提案するも、組合が、大幅な退職手当の引下げには遠く及ばないとして日額500円以上又は1000円とすること、病棟以外で行う訓練もADL日額特殊勤務手当の対象とすることを要求した。これに対し、事業団は、他の日額特殊勤務手当とのバランスもあり難しいこと、手当の対象となる訓練の区分けが難しくなることを理由に拒否した。
 また、組合は、上記以外の代償措置として、①給与面で退職手当の減額分に近い金額を補填すること、②若年層の職員に係る退職手当が明らかに低くなることの対策を講じること、③県に準拠して退職手当を引き下げるのは、平成25年度までの採用者が定年退職する場合以外とすること、④療法士手当を新設することなどを要求したが、事業団は、①給与面で退職手当の減額分に近い金額を補填する考えは全くない、②若年層への対策は非常に難しく、現時点では回答はない、③現行の調整率が残る案は受け入れられない、④療法士手当の新設等はできないが、既存の職務手当の見直しということであれば退職手当の引下げとは別に引き続き検討する旨回答し、上記組合の要求をいずれも受け入れなかった。
 使用者たる事業団は、組合の要求に応じる義務まで負つているものではないが、要求に応じられないのであればその理由を述べ、組合に理解を得る努力をすることが求められるところである。確かに、事業団は、ADL日額特殊勤務手当に関しては、 組合の提案を受け入れることができない理由を述べているが、その余の組合の提案については、具体的理由を述べずに提案を拒否するか、又は退職手当の減額と併せては協議しないとするなどの対応であったことが認められる。 事業団のこれら一連の交渉態度は、組合に理解させ、合意に向けて努力する姿勢を示しているとまではいえない。
オ 小括
 以上を総合すると、事業団が民間事業者である以上、労働条件は労使交渉で決めることが原則となる中、退職手当引下げに係る事業団の交渉態度は、県に準拠する必要性についてただ漠然と述べるのみで、県の意向についても、明らかにしないか、又は明らかにできない理由を述べないなど、組合を納得させる努力というにはその説明の程度は十分ではない。また、資料の提供については概ね対応する一方で、代償措置の検討については合意に向けて交渉する態度というにはなお足りないなど、全体として十分ではなかったと評価せざるを得ない。
 事業団は、従前の調整率が残る組合の代償措置の案を受け入れず、不退転の決意で行うなどと述べるなど、県に準拠した退職手当の引下げそのものについては妥協する意思はなく、自らの提案を堅持する意思であったと思われるところ、そのこと自体は必ずしも否定されるものではない。 しかし、それであれば、その論拠を示し、自らが固執せざるを得ない理由を十分に説明し、組合の説得に努めることが求められるのであって、事業団の交渉態度はこのような努力を尽くしたものとは認められない。
 したがって、退職手当制度の改定に係る事業団の交渉態度は労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する 。
2 被申立人が平成26年1月1日付けで退職手当制度を改定したことが支配介入に当たるか否か。
 前記1でみたとおり、組合は、事業団が提案した退職手当の引下げについて、県に準拠して行わなければならない必要性の説明を繰り返し求めたが、事業団はこれについて具体的な説明を行わず、また、代償措置の検討については十分でないまま、組合からの団体交渉継続の要望を無視して団体交渉を一方的に打ち切り、退職手当引下げを実施した。その結果、組合に対して、退職手当が大幅に減額されるという極めて大きな不利益を与えた。
 以上のことから、団体交渉を一方的に打ち切り、組合の合意が得られないまま退職手当の引下げを実施した事業団の行為は、組合の団体交渉権を侵害するとともに、組合を軽視するものであり、組合の弱体化をもたらすおそれがあることから、支配介入に当たると判断する。 
掲載文献   

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