労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神労委平成26年(不)第18号
吾平印刷不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y株式会社(「会社」) 
命令年月日  平成28年3月28日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   被申立人会社 の社員であったA1は、平成23年5月23日、誤って断裁機のプレスに左手指を挟まれ、負傷した。A1は、治療を受けたが、仕事に復帰できず、平成24年12月1日をもって会社を退職し、平成26年5月7日、申立人組合に加入した。
 本件は、組合が、平成26年5月21日付けで、会社に対し、A1の労働災害等について団体交渉を申し入れたところ、会社が、団体交渉に応じなかったことが労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件である。
 神奈川県労委は、会社に対して、団体交渉に誠実に応じること及び文書手交を命じた。 
命令主文  1 被申立人は、申立人が平成26年5月21日付けで申し入れた団体交渉に誠
実に応じなければならない。
2 被申立人は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に手交しなければならない。

記(省略)
 
判断の要旨  1 組合の本件団体交渉申入れに対する会社の対応が、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。
ア 会社は、返事をし、組合からの連絡を待つていたため、団体交渉の拒否ではないと主張するので、まず、会社の対応が団体交渉拒否に当たるか否かについて検討する 。
(ア) 本件はがきには、「私に平成26年6月13日に、そちら様へ出向く様にとの事でありますが私は今、現在、体調不良と、印刷屋の仕事と金が全くなく早々動ける状況にありません。 困って居ります。 B1〔会社社長〕」と記載されているのみで、団体交渉に応じる旨の意思表示、開催日時についての調整の提案、団体交渉に応じられる時期の見通し等についての記載は一切なかった。
(イ) 本件団体交渉申入れに係る団体交渉要求事項によると、組合は、最初に、本件事故(後遺障害等級8級)による損害賠償請求の件、割増賃金の支払、年次有給休暇を与えていないこと、雇用保険未加入、健康保険未加入、厚生年金未加入の件等を掲げている。これらの事項は、組合員であるA1の労働条件その他の待遇に関するものであるから、いずれも義務的団体交渉事項に該当し、会社は、交渉義務を負う。
 それにもかかわらず、会社は、本件はがきの送付以外に何らの対応もしていない。本件はがきの記載内容が会社の言い分であるのであれば、本来、会社が団体交渉に応じ、その交渉の場で表明すべきことであり、本件はがきの送付をもって会社としての義務を果たしたとは言えない。かかる会社の対応は、団体交渉に応じる意思がなかったと受け取られてもやむを得ないというべきである。
 なお、組合が提示した団体交渉の日時、場所等が会社にとって都合が悪いとしても、団体交渉そのものには応じる意思があるのであれば、会社としては、本件はがきに団体交渉に応じる意思がある趣旨のことだけでも記載すべきであった。しかしながら、本件はがきに団体交渉に応じる旨の記載は一切なく、会社は、本件はがき送付後も何らの対応をしていないのであるから、団体交渉に応じる意思がないと受け取られてもやむを得ないというべきである。
(ウ) 上記の(ア)及び(イ) を併せ考えると、会社は、平成26年5月21日付けで組合が申し入れた団体交渉を拒否したものと評価するほかない。 (エ) また、本件審査手続中の平成27年1月19日に行われた団体交渉( これは平成26年5月21日付け団体交渉の再度の申入れであり新たな団体交渉申入れではない。) においても、会社は、わからないなどという回答に終始するなど、会社の対応は誠実なものとは言い難く、実のある団体交渉が行われたとはいえない。
(オ) 以上に述べたことから、会社は、平成26年5月21日付け申入れの団体交渉を拒否したものである 。
イ 次に、本件団体交渉申入れを会社が拒否したことに、正当な理由が認められるか否かについて検討する 。
(ア) 会社は、本件はがきにおいて、B1社長の体調不良を理由と して団体交渉に応じない旨の回答をしているところ、会社は、本件団体交渉申入れ当時のB1社長の体調不良の状況や程度等について一切の主張を行っていない。また、それを確認できる資料の提出も証言も行っていない。
 そうすると、本件審査において会社が行った主張または立証の限りにおいては、B1社長の体調が客観的に団体交渉に応じることのできなかった状況であったと判断することはできない。 よって、これを理由として団体交渉を拒否したことは、正当な理由によるものであると評価することはできない。
(イ) さらに、会社は、本件はがきにおいて、仕事と金がないことを理由として団体交渉に応じられない 旨の回答をしているが、上記ア(イ)で判断したとおり、仕事や金がないという会社の事情は、団体交渉に応じたうえ、その場で、説明し、主張すべきことであって、団体交渉を拒否する正当な理由にはならない。
(ウ) 以上に述べたとおり、会社が本件はがきに記載した事項は、いずれも、団体交渉を拒否する正当な理由と評価することはできない。
ウ 以上のことからすれば、本件における会社の対応は、正当な理由のない団体交渉の拒否であり、労組法第7条第2号の団体交渉拒否に当たる。
  なお、組合は、平成26年5月21日付けで本件団体交渉申入れをし、同年6 月11日に、会社から、少なくとも当面の間は団体交渉に応じられない旨の意思を表示した本件はがきの送付を受けているところ、このような回答があった後、会社に対し、本件申立てまでの間に何ら連絡をとることなく、組合が一方的に指定した団体交渉予定日である同月13日を迎え、その後も会社に対し、一切連絡をとることなく団体交渉予定日の3日後の同月16日に本件申立てに及んでいる。 確かに、ア及びイで判断したとおり、会社の対応は正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるものの、円滑な団体交渉の実施という観点からすれば、組合としても、会社に対してさらに何らかの連絡を試み、 団体交渉に応じる意思があるのかどうか、応じる意思があるのであれば、その時期等について確認するなど、相応の対応をすべきであったと考えられるので、その旨付言する。  
掲載文献   

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