労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  山労委平成26年(不)第1号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y学園(「学園」) 
命令年月日  平成28年3月17日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   被申立人学園が、①組合員A1、A2及びA3(以下「A1ら3名の組合員」という。)並びに組合の同意を得ずに、定年規程を変更して、学園が経営する大学 の教員の定年を70歳から65歳に引き下げたこと並びに変更後の定年規程に基づき、A1に対して定年退職となることを通知したこと、②A1ら3名の組合員の同意を得ずに、賃金を減額して支給したこと、③団体交渉の際、必要な資料の提出や具体的な回答を行わなかったこと及び団体交渉に係る確認書の作成を拒否したこと、④朝礼においてB1事務局長が、A1ら3名の組合員を誹謗中傷する発言を行ったことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 山梨県労委は、申立てを棄却した。 
命令主文  本件申立てをいずれも棄却する 。 
判断の要旨  1 争点1 (学園が、定年規程を改定し大学教員の定年を70歳から65歳に引き下げ、A1に対して定年退職通知を出した.ことは労組法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に当たるか。) について
 学園が行った大学教員の定年年齢引き下げは、急激に悪化し、極めて深刻な状況に置かれている学園の財務状況を緊急に健全化するために行われたと認められ、加えて、第4回団体交渉及び第2回あっせんでA1に提示された激変緩和措置の案並びに第8回団体交渉でA2に提示された激変緩和措置の案についても相応の合理性があると認めることができるから、A1及びA2が組合員であることを理由にして行ったものであると認めることは困難である。また、組合は、確かに非組合員である大学教員も影響を受けるが、その教員はむしろ賛成しているので、現実的に利害関係があるのは組合員のみであるとも主張するが、定年年齢は労働者にとって重要な労働条件であり、本件定年規程の変更により、非組合員であるC2も組合員と同様に現実に大きな不利益を受けることには変わりはないため、組合の主張は採用できない。 ゆえに、学園が、A1に対して行った8月19日退職通知もA1が組合員であることを理由として行われたものと認めることはできない。
 したがって、学園が、定年規程を改定し大学教員の定年を70歳から65歳に引き下げ、A1に対して定年退職通知を出したことは、組合員であることを理由とした不利益取扱いである(労組法第7条第1号)とか、組合に対する支配介入である (労組法第7条第3号)と評価することはできない。
2 争点2 (学園が、A1ら3名の組合員及び組合の同意を得ずにA1ら3名の組合員の26年4月分以降の賃金を減額して支給したことは労組法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に当たるか。) について
 学園は、個別同意による労働契約変更の手続きにより、26年度、1年間に眼り大学教員の賃金を減額 して高校教員と事務職員の賃金を上げることとしたが、同意を得た非組合員の大学教員と同じように、同意を得ていない(ほかの大学教員と同じ時期に個別同意を求めていない) A1ら3名の組合員の賃金も安易に減額してしまったといえる。 確かに、学園も自ら認めるとおり、学園の手続きに瑕疵はあるが、減額幅に組合員に対する 差別もなく、団体交渉の手続きの中で実質的にはA1ら3 名の組合員に対しても説明を行っていることが認められ、それらを総合的に考慮すると、当該賃金減額が労働基準法及び労働契約法上違法であるかどうかはともかくとして、A1ら3名の組合員が組合員であることを理由として行った不利益取扱いや組合に対する支配介入であるとまでは評価できない。
3 争点3 (1) (25年11月20日に開かれた団体交渉における学園の対応)について
 当時、学園は7年に一度の認証評価の最中であったこと 、また、前回の調査が不適合という評価であったため 、学園は、経営が苦しい中で今回の認証評価の対応に追われていたこと、それに加えて、同年12月9日に行われた運営調査への準備対応が重なったこと 、同年9月に教学について対応していたB3学部長が私傷病で休暇を取得したこと、第1回団体交渉において定年引き下げ及び賃金減額を除く項目については回答を行っていること、組合の設定した期限内(25 年1 1月8日まで) に団体交渉の日程及び要求書への回答が遅れることを返答している(25年11月7日) ことが認められ、それらの事情を総合的に考慮すると、定年引き下げ及び賃金減額について学園の回答が遅れたことについては、不当とまではいえない程度の事情はあったと認められる。
 また、第3 回団体交渉以降の学園の対応をみても、団体交渉や当委員会の労働争議あっせんの中でA1及びA2に対して定年引き下げの激変緩和措置の提案を行っており、学園が、形式的な話し合いにすぎない見せかけだけの団体交渉を行っているとまではいえないことを考慮すると、学園の団体交渉における対応は不慣れで稚拙なものではあったが、不誠実な対応とまではいえないと判断する。
 よって、学園の25 年11月20日の団体交渉における対応は不当労働行為(労組法第7 条第2 号) であるとまでは評価することはできない。
4 争点3 (2) (団体交渉確認書の作成拒否) について
 組合と学園との間で合意が確認された (3 )の①〔「給与表」および「管理職・職務手当表」を就業規則の別表として、就業規則に整備し、学園勤務者に周知すること。〕及び②〔給与規程第10条および第11条の「別に定める」細則並びに「休職および復職に関する規程」を作成し、就業規則に整備し、学園勤務者に周知すること。〕の事項は、いずれも合意に係る事項の実現について学園の努力義務を宣明したものにすぎず、書面化しても労働協約として固有の法的効力を持ちうるものではない。 そのため、学園が上記合意事項について協定書を作成しないこと自体が直ちに不当労働行為であるとはいえない。 また、本事件に提出された全ての証拠をみても、 団体交渉確認書を作成しないことが不誠実団体交渉にあたるという特別な事由があるとは認められない。
  したがって、本件団体交渉確認書が作成されていないことが不当労働行為 (労組法第7条第2号) であるとはいえない。
5 争点4 (26年1月17日、B1事務局長が朝礼で行った発言は労組法第7条第3 号の支配介入に当たるか。) について
 1月17日B1発言は、26年4月から学園が実施を予定していた高校教員及び事務職員の賃金の引き上げとそれに伴う大学教員の賃金減額について、B1事務局長が定例的に行われている朝礼において、事務職員に対してその経過を説明したものであり、その内容が組合の組織・運営に現実に影響を与えるまでの行為であると認めることは困難であり、支配介入とまでは評価することはできない。  
掲載文献   

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