労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  都労委平成25年(不)第102号
東京電力不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y1会社、Y2会社、Y3会社、Y4会社、Y5会社 
命令年月日  平成28年1月19日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   Aは、Y1会社のD原子力発電所(以下「D原発」という。) の作業員募集に応じ、 申立外C1工業と雇用契約を締結した。C1工業は、Y1会社から業務を請け負ったY2会社の第一次下請会社であるY3会社 、第二次下請会社であるY4会社及び第三次下請会社であるY5会社 (Y2会社、Y3会社、Y4会社、Y5会社の4社を併せてY2会社ら4社」 という。) のさらに下請会社であった。
 Aは、D原発において、建屋近辺に散乱するガラス撤去等を行った際、 当初説明されていた業務と異なる業務に従事させられたことについて、Y3会社の担当者に不服を述べたところ、C1工業を解雇されるに至った。
 Aは、組合に加入し、組合は、Y1会社及びY2会社ら4社に対して団体交渉を申し入れたが、被申立人らは、いずれも団体交渉を拒否した。
 本件は、Y1会社及びY2会社ら4社が団体交渉申入れを、それぞれ拒否したことが不当労働行為であるとして、救済申立てのあった事件である。
 東京都労委は、Y2会社及びY3会社に対して、誠実団交応諾を命じ、その余の申立てを棄却した。  
命令主文  1 被申立人Y2会社及びY3会社は、申立人Xが、採用時に提示されたものと異なる業務にX組合員Aが従事することになったことについての団体交渉を申し入れたときは、誠意をもってこれに応じなければならない。
2 その余の申立てを棄却する  
判断の要旨  1 Y1会社の団体交渉拒否について
  Y1会社は、Y2会社にD原発の事故収束作業を発注した者であって、Y1会社とAとの問に雇用関係はないことはもとより、Aに具体的な作業内容について指示したとか、Aの労働条件に影響力を行使したなどの事実は全く認められないのであるから、労働組合法第7条の使用者としての団体交渉応諾義務を負わないといわざるを得ない。
  組合は、 D原発での事故収束作業及び廃炉作業は、通常の建築工事ではなく、Y1会社が直接的な管理をしなければ遂行不可能な作業であり、同社以外に下請労働者の適正な労働条件及び労働安全衛生環境を維持・向上できる者は存在していないことなどから、同社が労働組合法上の使用者に当たると主張しているが、そのような事情は、道義的あるいは社会的に同社が下請労働者の労働条件及び労働安全衛生環境を維持・ 向上させるべき義務を根拠付けるものになり得るとしても、請負企業に雇用される形で事故収束作業及び廃炉作業に従事する労働者の労働条件に対する支配 決定の根拠となるとまではいえない。したがって、組合の主張は、採用することができない。
  また、組合は、安衛法第29条、第30条の2及び第31条第1項により、Y1会社は、D原発の事故収束作業に関し「元方事業者」 ないし「特定事業(建設業) の仕事を自ら行う注文者」 として、①請負人及び請負人の労働者が安衛法に違反しないように必要な指導を行うこと、②作業間の連絡及び調整を行うことに関する措置その他必要な措置を講ずること、③労働災害を防止するために必要な措置を講ずること、の各義務を負うことになるから、この面から同社が使用者に該当するとも主張する。 しかしながら、D原発の事業が 「特定事業」に当たるか否かに疑問がある上に、条文の規定からは、Y1会社が直ちに請負企業の労働者の使用者に当たるということはできない。
  さ らに組合は、Y1会社のB8社長の記者会見や国会での発言との関係でY1会社が使用者に該当するとも主張するが、同社長の発言は、企業の社会的責任を表明したものということはできても、同社が、下請労働者の労働条件を支配している事実の証左であるとまでいうことはできない。
  以上のとおり、Y1会社は、労働組合法上の使用者には当たらないから、同社が、25年10月10日付け及び11月14日付けの組合の団体交渉申入れを拒否したことは、不当労働行為には当たらない。
2 Y2会社ら4社の団体交渉拒否について
① 労働組合法第7条にいう「使用者」とは、同法が助成しようとする団体交渉を中心とする集団的労使関係の一方当事者と しての使用者を意味し、労働契約上の雇用主が基本的にはこれに該当するものの、雇用主以外の事業主であっても、労働条件等について雇用主と部分的にとはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配力を及ぼしている場合には、労働組合法上の使用者に当たると解すべきである。
  したがって、本件では、組合が申し入れた団体交渉事項ごとに、Y2会社ら4社が、Aの労働条件等について雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配力を及ぼしているか否かについて以下に検討することとする。
② Aの業務内容が変更になったことについて
ア Aの業務内容は、応募時にはD原発3号機原子炉建屋カバーリング改修工事とされていたところ、採用時には、道具の貸し借りと防護服等の放射線量を測定するサーベイの仕事と告げられて雇用契約を締結し、24年6月12日には、Y3会社のB3社員から、E社の除染装置内の撹拌機の交換作業であること、放射線量の高いところでの業務であることを告げられた。この説明を受けて、Aが、C1工業のC3社長に確認したところ、同社長は、「そんなはずはない。」、 「確認するからちょっと待って。」などと返答した。 さらに、6月14日には、Y2会社のB4社員から除染装置周辺での線量が高い場所での業務である旨の説明を受けて、Aが、C1工業のC3社長に 「線量が高すぎる。このまま何の説明もないまま作業に入ることはできない。」 と述べたところ、同社長は、「高い線量の所はなくしてもらった。」 と回答した。ところが、実際に、6月19日の作業現場では、Aは、Y3会社のB5社員やY2会社のB6社員から、建屋近辺に散乱するガラスの撤去とPE管の敷設・接続作業で、線量が高い建屋近辺での業務である旨を告げられた。 Aが、説明を受けていた業務の内容と実際に従事する業務の内容が違うなどと述べたところ、Y3会社のB5社員は、Y3会社としては下請会社に業務内容は説明しているので、雇用された会社に言ってほしいなどと答えた。そして、結局、Aは、放射線量が高い建屋近辺での、ガラスの撤去とPE管の敷設・接続作業に従事した。
  このように、Aは、雇用契約締結時と異なる業務に従事させられることになったのであり、その業務は、労働者の健康に多大な影響を及ぼし得る放射線量の高い場所での業務であったことも考慮すると、作業場所での放射線量などの就労環境やそれに伴う負荷の点を含めたAの業務内容は 「労働条件その他の待遇」 に該当する事項であるというべきであり、使用者に当たる主体との関係では義務的な団体交渉事項であるといえる。
  そこで、この点について、労働組合法上の使用者としての責任の所在について検討することとする。
イ 24年6月19日の業務に当たり、Y3のB5社員は、建屋近辺に散乱するガラスの撤去作業を行ってもらうこと、PE管の敷設・接続作業を行ってもらうことなどの業務内容を説明した また、Y2会社のB6社員は、建屋近辺は線量が高いので、二班に分かれて、1時間で交代するようにすること、建物にガラスが刺さっているところも多いので、金属の棒やパイプでガラスを下に叩き落した上で、地面に落ちたガラスを撤去するようにすることなどを説明した。さらに、Y3会社のB5社員は、その場で班編成を行い、1班リーダーは自分が務め、2班リーダーは別のY3会社の社員が務め 、 Y2会社のB6社員が両方をみることになるなどと述べた。一方、Aらの6 月19 日の業務内容がY3会社からY4会社に伝えられたのは当日であり、Y4会社からY5会社を経てC1工業に伝えられたのも当日であって、C1工業からAには、業務開始前には伝えられなかった。
  Y2会社及びY3会社は、Y2会社のB6社員の説明は Y3会社の担当者に対して行われたものであり、Y3会社のB5社員の説明は下請事業者の担当者に対して行われたものであること、説明内容は、安全衛生上の注意であって業務内容の説明ではないことを主張する。しかしながら、(ア)Y4会社、Y5会社ないしC1工業からは、Aらに対して業務内容の説明が行われたことはないこと、(イ)Y3会社のB5社員は、分からないことがあれば班長や前からいる人に聞いでほ しいなどと作業員に直接話しているとしか思えない発言をしていること、(ウ)Y2会社のB6社員は、「ここからは作業内容なんですけど。」と前置きして説明を始めていること、(エ)Y3会社のB5社員は、業務のための班編成を行い、自ら班長となっていることなどからみて、これらの主張は採用することができない。
  しかも、Y2会社のB6社員は、終始Aらの業務に同行し、業務内容について指示したり、業務終了の指示をしたりした。そして、この間、Y4会社及びY5会社の社員が業務の説明を行ったり、業務に同行したりしたこ とはなかった。
  こうした事実に照らすと、Aの雇用契約はC1工業との間で結ばれているものの、実際の業務内容の決定や指示は、Y2会社やY3会社が行っているものとみざるを得ない。これに対して、Y4会社及びY5会社については、Aの雇用契約の相手方である C1工業とY2会社及びY3会社との間の下請会社ではあるものの、Aの実際の業務内容の決定や指示を行った事実は認められない。
ウ 以上のことからすれば、Aの実際の業務内容に関する事項について、これを具体的に決定し、Aに指示していたと認められるY2会社及びY3会社は、Aとの関係で労働組合法上の使用者に当たるとともに、当該事項は義務的団体交渉事項に当たるというべきである。そして、Aの業務内容が変更になったことについての団体交渉申入事項は、Aの具体的な業務が決定され、指示されるに至る経緯についての説明を求める趣旨のものと解されるところ、前記ア及びイのように、Aの業務内容がめまぐるしく変わる一方で、 この点について事前にAに対して十分な連絡や説明が行われていたとはいえないことも踏まえると、Y2会社及びY3会社は、 この申入事項に対し、義務的団体交渉事項に属する問題 として誠実に対応することが求められるというべきである。
③ Aの賃金から中間搾取した金員を返還すること
  Aの賃金から中間搾取した金員を返還することとの交渉事項は、Aに本来支払われるべき賃金が決まっており、Y2会社ら4社が、Aの賃金をそれよ りも低く決定するか、 あるいはAに支払われるべき賃金として定められた額を引き下げた上でその差額を「搾取」したとの前提に立つているものとみられ、 このような観点からすると、この交渉事項についてY2会社ら4社が労働組合法上の使用者に当たるというためには、Aに実際に支払われた賃金あるいはAに支払われるべき賃金として定められた額を、Y2会社ら4社が実質的に決定していたことが必要になるものといえる。
  しかしながら、 C1工業のC3社長が、採用時に1日当たり13,000円を支払うと述べたほか、解雇時には、実際の業務日だけでなく研修等を行った日についても賃金が支払われることを告げていることなどをみると、Aの賃金については、C1工業が決定しているものとみざるを得ず、Y2会社ら4社がAの賃金を明示した上で工事契約を行っていたというような事実については何ら疎明がないのであるから、Y2会社ら4社が、Aの賃金を実質的に決定していたということはできず、また、Y2会社ら4社においてAに支払われるべき賃金として定められた額が存在したとも、Y2会社ら4社がこれを実質的に決定していたともいうことはできないといわざるを得ない。
④  いわゆる偽装請負、多重派遣の実態に置かれたこと
   これらは、いずれもAに対する使用者としての責任を負うのがいずれの会社であるのかを解明するための具体的な事項であり、Aの労働条件その他の待遇との関わりという観点からは、Aの具体的な業務が決定され、指示される過程に関わる事項と位置付けられるべきものであるから、Y2会社及びY3会社がAの実際の業務内容の決定や指示との関係で労働組合法の使用者に当たるのである以上、これらについても、義務的団体交渉事項に当たるというべきである。
  ただし、労働者名簿に事実と異なる経歴を記載させたことについては、Y3会社の事業所内で行われたという以外にY3会社が関与した事実は認め られないし、ほかにY3会社がこの事項について影響力を行使し得たと認めるに足りる疎明はないのであるから、この点については、Y3会社との関係では、Aの業務内容の決定との関わりは希薄であって、Aの労働条件その他の待遇に関する事項に当たるとはいい難く、Y3会社が使用者として説明責任を負うべき義務的団体交渉事項に当たるということはできない。 また、これらの点については、既に前記②で救済した事項と別個に救済する必要性があるものとはいえないから、救済は、主文第1項の程度に止めるのが相当である。
⑤ Aに対して「パワーハラスメント」 を行ったこと
  「パワーハラスメント」 については、24年7月20日にY5会社における、Y5会社のB7社長の一連の言動を指しているものとみられるのであり、Y3会社及びY4会社については、「パワーハラスメント」 を行った事実自体が存在しないし、ほかにY3会社及びY4会社がこの事項について現実かつ具体的に影響力を行使し得る立場にあったと認めるに足りる疎明はないのであるから、この点について、Y3会社及びY4会社が使用者に当たるということはできない。
 Y5会社については、24年7月20日のY5会社のB7社長の行った一連の言動は認められ、これらの言動は、過去の未清算の労働条件に関するものとしてAが行おうとしている要求を封じようとするものであって、問題がないとはいえないものの、問題の発端となっているAの業務内容や解雇問題について、前記③で既に判断したとおりY5会社が労働組合法上の使用者とはいえないこと、それ以外に、Y5会社がAの労働条件を支配し得る事実上の力を背景にこれらの言動を行ったと認めるに足りる事実も認められないことからすれば、この団体交渉事項についても、Y5会社が、Aとの関係で労働組合法上の使用者であるということはできない。
⑥  以上のとおりであるから、本件の救済としては、主文第1項のとおり、組合が改めて、採用時に提示されたものと異なる業務にAが従事することになったことについての団体交渉を申し入れたときは、Y2会社及びY3会社は、これに応ずるよう命ずることとする。また、組合は、誓約書の掲示をも求めているが、主文の程度をもって相当と考える。  
掲載文献   

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約731KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。