労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神労委平成25年(不)第17号
社会福祉法人青い鳥不当労働行為審査事件 
申立人  X組合 
被申立人  社会福祉法人Y(「法人」) 
命令年月日  平成28年3月10日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   被申立人法人が、①申立人組合との団交において、別法人Y1との合併前には行われていた文書回答を合併後初回を除いて拒否し、あらかじめ用意した見解を繰り返す対応に終始したこと、②賃金に関する組合の要求に対して具体的な回答をしなかったこと、③掲示板の貸与及び施設利用に係る組合との協定について、別組合と協定締結に至っていないことを理由に締結を拒否したこと、④施設利用は上記③の協定の対象ではないにもかかわらず、締結を拒否するまで組合にそのことを説明しなかったこと、⑤組合員A1に対して所属施設の所長となったことを理由に組合からの脱退を勧めたこと、⑥組合員A2にタイムカードの打刻を依頼したA1及び同人の代わりに打刻したA2に対して、既に口頭注意を行ったにもかかわらず、弁明の機会等を与えることなく、けん責処分としたこと、⑦本件申立て後の平成26年7月1日に開かれた法人運営会議において、法人の常務理事兼事務局長B1作成の陳述書を出席者全員に配布したことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 神奈川県労委は法人に対し、1 新人事給与制度に関する団交における誠実な対応、2 上記⑥のけん責処分をなかったものとして取り扱うこと、3 文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、新人事給与制度に関する申立人との団体交渉において、必要な資料を提供し、十分な説明を行う等、誠実に対応しなければならない。
2 被申立人は、申立人組合員A2及びA1に対する平成25年6月6日付けけん責処分をなかったものとして取り扱わなければならない。
3 被申立人は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に手交しなければならない。
記(省略)
4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 団交における対応について
(1)割増賃金の算定基礎額に関する団交
 申立人組合は、被申立人法人は団交において割増賃金の算定基礎額の明白な誤りに関する組合の説明に聞く耳を持たなかったと主張する。しかし、法人は事前に労基署から算定基礎額についての考え方を聞き、法人のやり方が正しいと解釈した上で、第5回団交で組合にそのことを説明している。よって、組合から団交で誤りを指摘されたとしても、直ちにそれを受入れられなかったことには無理からぬ面もある。
 また、法人が組合から要求のあった労基署の是正勧告書を資料として提供しないことを決定したとしても、そのこと自体が不誠実な対応であるとはいえない。
 さらに、労基署の是正勧告書に従うようにとの組合の要求に対し、法人は全職員に残業代の差額を支払っており、法人内部での検討時間や差額支払手続に要する時間を考えると、法人が是正勧告に直ちに従わなかったとまではいえない。そして、結果的に残業代の差額を支払っていることから、法人が組合の説明や要求を無視し続けたともいえないため、法人の対応が不誠実なものであったとまではいえない。
(2)掲示板の貸与及び施設利用に関する団交
 法人は、掲示板の貸与及び施設利用について、組合と直ちに交渉を開始しなかったのは、他労組と協定締結に向けた交渉を行っていたことが理由であるが、その協定締結後、組合に協定書案を提示し、締結に至っていると主張する。
 しかし、組合が要求してから法人が協定書案を提示するまでに約7か月、さらに協定が締結されるまでに約5か月が経過しており、この間、法人は他労組との協議が長引いている理由等について、組合に全く説明していない。また、施設利用については、組合が要求した後、法人が何ら回答しないまま、約5か月が経過している。
 これらのことからすると、法人の団交における対応は、組合からの要求を軽視したものであり、不誠実なものであったと判断する。
(3)賃上げ及び「人事給与制度設計プロジェクト」に関する団交
 賃金体系の変更は重大な労働条件の変更であるから、組合が「人事給与制度設計プロジェクト」内における議論の内容や法人が目指す給与体系の方向性について説明を求め、組合員の納得がいくような賃金体系が作られるように議論を行いたいと思うことは当然である。これに対して、法人が一切説明を行わず、資料提供もしないことは、あまりにも不誠実な対応といえる。また、法人は、組合に対して要求を受け入れられない理由を資料等を示しながら説明することもしていないが、こうした対応は、労働条件の決定に向けて対等の立場で話し合って決定するという姿勢が欠如したものであるといわざるを得ず、不誠実な団交に当たる。
 さらに、本件申立て後、法人は団交で「新しい人事給与制度」の内容の説明は行ったものの、話合いに応じることはないまま、平成26年4月から新人事給与制度を実施している。つまり、結局、組合と一度も話合いを持たないまま、賃金体系を一方的に変更するに至っており、継続して不誠実な団交を繰り返していたといえる。
(4)一連の団交における対応
 組合は法人が団交において文書回答をしないことが不誠実な団交であると主張するが、法人は一応全て口頭で回答しており、また、文書回答をしなければならない旨を定めた協定等も締結されていないことから、法人が文書回答をしないことのみをもって、不誠実な団交であると判断することはできない。
2 法人の常務理事兼事務局長B1が組合員A1に対し、同人のY2就労支援センター所長就任の翌日に行った発言について
 A1が法人のY2就労支援センター所長に就任した翌日、法人運営会議に出席した後、B1から「明日の団体交渉には法人側と組合側のどちらに座るのですか」と聞かれ、組合側に座ると答えたところ、B1が「管理職になったら、普通は組合をやめるけどね」と述べたことが認められる。
 B1の「どちらに座るのですか」との発言については、以前の団交ではY2就労支援センターの所長は法人側の出席者として団交に出席していたことから、B1がこのように確認したことが不自然とまではいい難い。また、「管理職になったら、普通は組合をやめるけどね」との発言については、法人内部では就労支援センター所長は管理監督者に当たると認識されていたと推認できることからすれば、B1が疑問を感じ、このような発言をしたことはやむを得ないと考えられる。
 したがって、上記B1の発言は、組合に対する支配介入に当たらないと判断する。
3 A1及び組合員A2に対するけん責処分について
(1)不当労働行為性 
 両名に対するけん責処分については、両名がタイムカード不正打刻問題に係る顛末書の提出を拒んだことも理由の1つになっているが、法人は両名に対し、顛末書に記載する事項等を明示した文書を提出するよう求めてはいるものの、両名が顛末書を提出すること自体を拒んだという事実は認められない。他方、組合が顛末書の件を含めタイムカード不正打刻問題を団交の議題にしようとしてから、わずか1週間後に法人が両名をけん責処分にしていることなどから、組合が両名の顛末書提出を団交の議題にしようとしたことを疎ましく感じていたことが認められる。
 さらに、法人は、A1が決算事務を行う過程で生じた疑問について横浜市に問合せを行ったことも、けん責処分の理由の1つに加えている。法人はA1が組合に加入した後、同人をY2就労支援センター所長に昇格させたが、それにもかかわらず、同人は組合活動を活発化させていた。このようなことから、法人がA1を疎ましく感じ、横浜市に問合せを行ったことをけん責事由に付け加えたと考えざるを得ない。
 以上から、A1及びA2に対するけん責処分は、法人の不当労働行為意思に基づいて行われたものと判断する。
(2)合理性
 法人がA1及びA2に顛末書の提出期日を示したという事実が認められないにもかかわらず、両名に文書を求めてから約2週間後に、顛末書の提出を拒んだとしてけん責処分にしたことは、判断が早急すぎるといわざるを得ない。加えて、法人は顛末書の提出は就業規則等で定められたものではないことを認めている。したがって、両名に対するけん責処分には合理性が認められない。
 また、A1の横浜市への問合せの問題については、法人は同人に対し、事情を聴取した上で必要に応じ、顛末書の提出を命じるべきところ、それを行わないまま、一方的な判断でけん責処分を科したことは均衡を欠いた処分といわざるを得ない。したがって、横浜市への問合せの問題を理由とするけん責処分には合理性が認められない。
(3)結論
 以上のとおりであるから、本件けん責処分はA1およびA2が組合員であることを理由とした不利益取扱いであると判断する。
4 法人運営会議でB1の陳述書を出席者全員に配布したことについて
 当該法人の行為は、そのこと自体がA1及びA2にとって客観的に不利益なものとは認められず、また、そのことから両名にとって直ちに何らかの不利益がもたらされるものとも認められない。したがって、不利益取扱いとはいえず、その理由の如何を問題とするまでもなく、労組法7条4号の報復的不利益取扱いには当たらないと判断する。  
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