労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  あかつき歯科 
事件番号  神労委平成26年(不)第3号 
申立人  神奈川シティユニオン 
被申立人  Y(個人) 
命令年月日  平成27年9月29日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   被申立人Yの経営するあかつき歯科で歯科衛生士として勤務していたXは、平成25年12月16日、Yから雇用期間を同日から3か月としてその後の契約更新はしない旨及び従前に比べ5万円減の給与額が記載された雇用契約書を提示されたことを受け、同日をもって退職する旨を同人に告げた。同月18日、Xは弁護士に相談の上、退職の意思表示を撤回したが、Yは撤回を認めなかった。
 本件は、その後、Xが申立人組合に加入し、組合が①Xの労働条件不利益変更の撤回、②同人を従前の労働条件で就労させることなどを求めて団交を申し入れたのに対し、Yがこれに応じなかったことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 神奈川県労委はYに対し、誠実団交応諾及び文書手交を命じた。 
命令主文  1 被申立人は、申立人が平成25年12月27日付けで申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。
2 被申立人は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に手交しなければならない。
記(省略) 
判断の要旨  1 被申立人Yは組合員Xの労組法上の使用者に当たるか否かについて
 Yは、Xは平成25年12月17日以降はYが雇用する労働者ではなかったのであるから、Yは労組法7条2号の「使用者」に該当しないと主張する。
 しかし、Xが退職の意思表示を行ったとしても、その直後に雇用契約書の内容に疑問を持ったことには無理からぬ面があり、実際、同人は労働基準監督署、B弁護士の事務所及びかながわ労働センターに赴き、あかつき歯科での勤務の継続の可否等について相談している。また、XがB弁護士に相談した際には、Yに電話をし、雇用関係の継続を前提として有給休暇を取得する意思を示したが、YはXが既に退職している旨を述べている。これらのことからすると、XとYとの間にはいまだ退職の効力について争いがあるのであるから、雇用関係は完全には清算されておらず、YはXとの関係において同条2号の使用者に当たるといえる。
2 Yが申立人組合による団交要求を拒んだことについて
 Yは、組合はXの退職の意思表示の有効性を争っているにすぎず、単なる個別労働紛争であるから、本件団交の要求事項は義務的団交事項には該当しない旨主張する。
 しかし、本件団交の要求事項は、Yが提示した雇用契約書の撤回、Xに支払われた給与についての是正、期間の定めのない雇用契約が締結されている状態であることの確認などであり、これらはいずれも義務的団交事項に当たる。したがって、Yが義務的団交事項に当たらないとして団交に応じなかったことに正当な理由があったとはいえない。
 Yはまた、“YとXとの雇用関係についての交渉、地位保全仮処分等の法的手段についてB弁護士が委任に基づく代理人となっていること、及び連絡等はB弁護士宛としてほしい旨記載された平成26年1月4日付け「通知書」をB弁護士から受領したのであるから、Xは既に団交ではなく、代理人弁護士を通じた正式な法的手続による解決を望んでいるとしか理解のしようがなかった”旨、“少なくともYから見て、XとB弁護士との当該委任関係がなかったとは知り得なかったことは明白である”旨、“B弁護士が窓口であるとすると、組合が申し入れてきた交渉事項は結局のところ、YとXとの雇用関係の有無であり、Xの代理人弁護士が通知してきた事項と重なることから、当該雇用関係を専らの交渉の議題とする団交は二重交渉になってしまう”旨などを主張する。
 しかし、仮にXとB弁護士との間に委任関係が成立し、存続していたとしても、その委任事項は当事者をXとYとする民事上の法律問題に係る事項であり、組合が労組法6条に基づきYに団交を求めることとは法律上の制度を異にするものであるから、Yは、B弁護士との交渉が並行することをもって、組合との団交を拒む正当な理由とすることはできない。
 Yはさらに、労働組合といえども、組合委員個人の法律関係について本人の意思を無視して交渉を行うことはできないから、B弁護士が自分はXの委任に基づく代理人であるとして通知してきた事項については組合と交渉できない旨主張するが、組合は組合員個人の労働条件その他の待遇について組合員たる労働者を代表して団交を行う権限を有するものであり、YがX個人の団交についての意思を確認できないことをもって、組合の要求する団交を拒む正当な理由とすることはできない。
 以上のとおりであるから、Yが本件団交申入れに応じなかったことは正当な理由のない団交拒否であって、労組法7条2号に該当する不当労働行為である。 
掲載文献   

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