労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件名  泉陽会 
事件番号  都労委平成23年不第5号 
申立人  一般合同労働組合東京北部ユニオン 
被申立人  社会福祉法人泉陽会 
命令年月日  平成27年4月21日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   被申立人法人の運営する訪問看護ステーションで非常勤看護師として勤務していたX2は、平成22年7月、担当していた訪問看護サービスの利用者Bの家族から苦情があった際、Bの訪問看護に関する記録(以下「看護記録」)が法人により開示されることを危惧し、同僚のX3とともに申立人組合に加入した。組合は法人に対し、看護記録の開示の件など訪問看護業務に関することについて申入れを行い、法人は文書で回答したが、組合はこの回答に納得できず、同年8月、団交を申し入れた。同年9月から12月にかけて団交が行われたが、法人は組合の質問や要求に対し、「業務の中で回答する」などとしたほか、組合が利用者の個人情報を不正に取得しているとして問題視するとともに、「個人情報のことをもとに話はできない」などと発言した。法人は、同年10月から12月までの間に3回にわたり組合に文書を交付し、守秘義務及び個人情報保護義務の遵守を求めた。そして、12月に行われた団交の後、訪問看護ステーションの管理者である係長Y2から勤務の継続が困難であるとの申出を受けたことに伴い、23年3月末をもって訪問看護ステーションを休業した。
 本件は、①上記の団交における法人の対応、②法人が組合に交付した上記文書、③法人が訪問看護ステーションを休業したことが不当労働行為に当たるか否かが争われた事件である。
 東京都労委は申立てを棄却した。 
命令主文  本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 団交における対応について
 被申立人法人が「業務の中で回答する」といった対応を採ったのは、団交の内容が利用者Bの個人情報に密接に関連し、また、団交には法人の職員ではない組合員も出席していたためであり、これには相応の理由があるといえる。また、団交で回答できなかったことについては、団交でのやり取りを踏まえて業務の中で職場環境の改善に向けて話合いをし、対策を講じている。こうしたことからすると、法人が上記のような対応をしたことにより、申立人組合との実質的な交渉を妨げたとする事情は見当たらず、不誠実な団交とはいえない。
 また、法人が「個人情報のことをもとに話はできない」などと発言したことに関して、団交を実質的に拒否するために個人情報のことを方便として利用したかのような組合の主張は、採用することができない。
 組合は、法人が組合員X2に対し、組合員であるか否かを数回にわたり確認したことが不誠実な交渉態度であるなどと主張するが、義務的団交事項とは一般に当該組合の組合員の労働条件その他の待遇とされているところ、同人が組合員であるか否かを確認したこと自体は特段非難されることではなく、この主張は採用することができない。
 以上のとおりであるから、法人の対応が不誠実な団交に当たるとはいえないし、組合の運営に対する支配介入に当たるということもできない。
2 法人が組合に交付した文書について
 組合は、法人の平成22年10月4日付文書に、X2が利用者の同意及び法人の許可なく組合に対し、利用者の個人情報を提供したことは職員としての守秘義務違反及び個人情報保護義務違反である旨、組合が同様に同意や許可なく、かつ、目的外の利用のために利用者の個人情報を取得したことは不適正な取得であり、第1回団交の席に看護記録を持ち出した上、利用者の実名を挙げたことも個人情報の不適正な取扱いである旨、以上のような個人情報の不適正な取扱いにつき、組合及び組合員に厳重に抗議し、守秘義務及び個人情報保護法の厳守を求める旨などを記載したこと等が支配介入に該当すると主張する。
 しかし、これらの記載は、守秘義務及び個人情報保護義務についての法人の見解を述べたにとどまるものであり、その内容も法人の個人情報保護規程、倫理規程及び個人情報管理手順書の趣旨に沿ったもので、殊更、組合活動を制約するものとは認められないから、組合の主張は採用することができない。
 また、同文書並びに同年7月22日付、11月30日付及び12月29日付の文書に係る組合のその他の主張も、採用することができない。
3 訪問看護ステーションの休業について
 組合は、法人が不誠実な態度をとり、不当労働行為を組織的に繰り返した結果として、訪問看護ステーションでの職場の信頼関係が崩壊したことが、法人の係長Y2が勤務の継続が困難であると申し出たことの原因であり、法人が意図的に管理者不在の状態を作り出したと主張する。
 しかし、同人の申出は、同人と非常勤看護師との長期にわたる関係の悪化を背景に、第3回団交で同人に対する不適任の申立てがなされたことが直接の原因になっていると考えるのが自然であり、休業の一因を法人が意図的に作出したとは認められない。
 組合はまた、法人がY2の後任の管理者の求人に当たり、「管理者経験者」という条件を付し、意図的に狭く設定したと主張するが、同人に対する責任の追及が激しく行われていたことからすると、法人が管理者の人選に慎重になり、かかる条件を付したことも無理からぬところであり、意図的に厳しく設定したとは認め難い。
 さらに、組合は、休業は組合の解体が目的であったと主張するが、法人は組合員を含む非常勤看護師全員に対し、他の勤務場所での継続雇用の機会を提示し、X2については訪問看護ステーションと同じ施設内で引き続き雇用していることからすると、法人が組合を壊滅させようとしたとは考え難い。
 以上のとおりであるから、法人が訪問看護ステーションを休業したことが組合の運営に対する支配介入に当たるということはできない。 
掲載文献   

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約1048KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。