労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  アスカシステム 
事件番号  都労委平成25年不第8号 
申立人  全国一般三多摩労働組合 
被申立人  有限会社アスカシステム 
命令年月日  平成27年1月20日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   被申立人会社の社員X2は、平成23年4月15日から申立外会社Aに派遣され、設計業務に従事したが、24年6月30日をもって会社とAとの労働者派遣契約が終了した後は両社間の業務委託契約に基づき請負の形態で引き続きAで勤務することとなった。会社は、Aへの派遣開始と同時にX2の賃金を増額したが、派遣契約の終了に伴い、派遣前の水準に引き下げた。同年7月1日、X2は申立人組合の前身である労働組合(以下「組合」)に加入し、組合は会社に同人の賃金引下げ等についての団交を申し入れたが、会社はこれに回答しなかった。
 その後、同年7月から12月にかけてX2の売上工数が実績工数に比べ少ない状況が続いたため、会社は12月12日、同人に対し、その不足について具体的に説明するよう電子メールで連絡し、同月27日にも再度、電子メールを送信した。しかし、X2のそのメールアドレスはAとの派遣契約終了に伴い使用不能となっていたことから、同人はそれらの電子メールを見ていなかった。会社は、X2の売上工数の不足について同人に直接、事実確認することもないまま、業務不履行を理由に同人の同年12月分の賃金から25,000円を減額した。
 本件は、会社が①上記団交申入れに応じなかったこと、②上記の賃金減額を行ったことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 東京都労委は、会社に対し、誠実団交応諾、文書交付及び履行報告を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人有限会社アスカシステムは、申立人全国一般三多摩労働組合が、平成24年8月7日付けで申し入れた要求事項について、団体交渉を申し入れた場合には、速やかに、かつ、誠実に応じなければならない。
2 被申立人会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合に交付しなければならない。
記(省略)
3 被申立人会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 団交拒否について
 認定した事実によれば、被申立人会社は、申立人組合からの団交申入れに対し、本件救済申立てに至るまで、一度も自ら組合に連絡をすることなく、また、組合からの再三の電話連絡に対しても、団交に応じるか否かの回答をせず、いわば一貫して申入れを無視していた。
 会社は、企業として団交に応じなければならないことを認識していなかったと主張するが、会社が認識していなかったとしても団交応諾義務があるのであるから、団交を拒否する正当な理由とならない。会社は、多忙で団交に応じられなかったとも主張するが、会社がそのような事情を組合に説明した事実は認められず、また、仮に多忙であったとしても団交に応じるよう日程調整に努力すべきであるから、組合に何の回答もせず、長期間団交に応じなかったことに正当な理由は認められない。
 したがって、会社が本件救済申立て前に団交に応じなかったことは、正当な理由のない団交拒否に該当する。
 ところで、本件労使間では、本件救済申立て後の平成25年8月5日に第1回団交が行われており、会社は、期日の調整に応じているから不当労働行為に該当しない旨主張する。しかし、当該団交によって組合員X2の労働条件についての交渉が実質的に尽くされたとは到底認められず、また、会社はその後、「先日の団体交渉の議論ではお互い平行線で進展しません。次回は別の議題について話し合いと言うことであれば、期日を決め交渉に応じます。」と文書で回答し、これ以上話合いを続けたり説明したりする意思がないことを表明するなどしている。したがって、第1回団交後、会社が期日の調整に応じたとは評価できず、会社の主張は採用することができない。
2 24年12月の減給処分について
 会社は、X2が会社からの24年12月12日付け及び27日付け電子メールを見たか否かを確認することもなく、また、売上工数が実績工数を下回っていることについて、電子メール以外の手段で同人に連絡したり、事実確認をすることもなく、本件減給処分に及んでいる。したがって、X2に対する減給処分は、そもそも処分の前提となる指示を欠いていた上、適正な手続に則ったものであるともいえない。しかし、会社は電子メールによりX2に対し、報告がない場合には処分の対象になると連絡しているにもかかわらず、同人がこれを無視したものと理解していたのであるから、報告をしない同人の態度を重大な問題ととらえ、何らかの制裁が必要と考えるに至ったこと自体はやむを得なかった面もある。したがって、本件減給処分は、会社の認識を前提とすると不合理なものとまでいうことはできない。
 組合は、本件減給処分はX2が組合に加入し、組合が団交を申し入れるなど正当な組合活動を行ったことに対する報復である旨主張する。しかし、会社とX2との間では同人の組合加入以前からトラブルが相次いでいたこと、組合加入後に会社から同人や組合の組合活動を批判したり妨害したりするような言動はなかったこと、同人が業務報告書以上の報告をしないという態度に終始し、売上工数が少ない状況について会社に報告しなかったこと等を考慮すれば、本件減給処分は、組合加入あるいは組合活動に対する報復というよりも、従前から続いていた会社と同人との対立が深刻化し、双方が必要最低限行うべき連絡や報告を怠った結果、同人が電子メールによる指示を無視したと会社が一方的に断定し、処分に及んだものとみるのが相当である。
 したがって、本件減給処分は、X2の組合活動又は同人が組合員であるが故の不利益取扱いであるということも、また、組合の運営に対する支配介入であるということもできない。 
掲載文献   

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