労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  EMGマーケティング(21年度一時金等) 
事件番号  都労委平成23年不第14号 
申立人  スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合 
被申立人  EMGマーケティング合同会社 
命令年月日  平成27年1月13日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   被申立人会社が①職種別・職位別・業績評価別に基本給上限額を設け、平成21年度に基本給上限額を引き下げたこと、②21年度の一時金支給に関し、専門職と事務・技能職の支給月率に差を設けたこと、③21年度昇格・賃金・一時金に係る組合員の業績評価を平均を下回る評価としたこと、及び④21年度賃上げ・一時金に係る団交における会社の対応は不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 東京都労委は申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 基本給上限額の引下げについて
 認定した事実によれば、被申立人会社は平成21年度に専門職及び事務・技能職の職位・業績評価別の基本給上限額について、最上位の職位及びこれに次ぐ職位の基本給上限額を引き下げた。しかし、高年齢層の基本給上限額を引き下げるように賃金制度を設定すること自体は格別特異な制度であるとはいえず、また、基本給上限額は他組合の組合員も含む全従業員に適用されており、申立人組合の組合員が殊更不利益に扱われたとの事実も認められない。この引下げによって組合員2名の基本給が減額されることはなく、基本給上限額を超える額のままであったことも併せ考えれば、会社が基本給上限額を引き下げたことは、組合員であるが故に殊更に不利益に取り扱ったものであるとまではいえず、また、組合の運営に対する支配介入に当たるということもできない。
2 一時金支給月率に差を設けたことについて
 会社では、専門職と事務・技能職とで異なる雇用管理がなされており、経営判断により職種に応じた賃金体系を構築し、その結果、両者の一時金支給月率に差が生じたこと自体が不合理であるとはいえない。そして、こうした職種による一時金支給月率の差は、他組合の組合員も含む全従業員に適用されており、組合員を狙いうちにするために事務・技能職の一時金支給率を引き下げたものとまでみるのは無理である。したがって、会社が一時金支給月率に差を設けたことは、組合員であるが故の不利益取扱いであるとはいえず、また、組合の運営に対する支配介入であるともいえない。
3 基本給決定における組合員の業績評価について
 会社では、昇格、賃金及び一時金は業績評価により異なる仕組みになっているところ、組合員X2及び同X3の19年1月から20年12月までの業績評価、組合員X4の11年以降(15年及び16年を除く。)の業績評価、組合員X5及びX6の19年1月から12月までの業績評価はいずれも平均を下回るものであった。しかし、過去の組合員の業績評価をみると、組合員全員が常に平均を下回る評価を受けていたわけではない。
 そして、会社が上記のような業績評価をしたことは、その理由等を個別にみれば、組合に対する差別に基づくものと判断することはできない。
 なお、組合は、会社に評価の基準やマニュアルがなく、評価制度が恣意的に運用されているなどと評価制度の不当性を主張する。しかし、会社は、業績評価に当たっての留意点等が記載された資料を評価者に配布しており、面接については実施時期がずれることはあるにしても実施し、組合員には過去に平均以上の評価を受けた者がいる事実が認められ、他に評価制度が恣意的に運用されたと認めるに足りる具体的事実の疎明があったとはいえないことから、上記の判断を左右するものではない。また、会社と組合との間に多数の訴訟や申立てが行われており、労使関係は必ずしも良好とはいえない。しかし、本件審査において、会社が、組合員であるが故に差別を行ったとする、組合を嫌悪していることを窺わせるに足りる具体的な事実の疎明はなされていない。
 以上を総合して考えれば、上記組合員5名に対する業績評価が平均を下回ったことは、組合活動あるいは組合員であるが故の不利益取扱いであるとはいえず、また、組合の運営に対する支配介入であるともいえない。
4 組合員らの昇格について
 事務・技能職の昇格に当たっては、過去2年間の業績評価の結果が反映されるが、X2及びX3については、前記のとおり、20年1月から12月までの業績評価が平均を下回ったことが組合に対する差別に基づくものと判断することができないことや、19年1月から12月までの間に平均以上の業績評価を受けるのに相当する業績を上げたと認めるに足りる具体的な事実の疎明がなされていないこと等からすれば、19年1月から20年12月までの両名の業績評価が平均を下回ったことが組合に対する差別に基づくものと判断することはできない。
 また、X4については、同人は一般従業員の専門職としては最高位の職位に達しているところ、少なくとも直前の1年である20年1月から12月までの同人の評価が平均を下回ったことが不当労働行為であるとはいえないことは前記のとおりであるし、同人が管理職に登用されるべきであることを示す具体的事実の疎明もないのであるから、21年4月1日付けで昇格させなかったことが組合員であるが故の不利益取扱いであるとはいえず、また、組合の運営に対する支配介入であるともいえない。
5 団交における会社の対応について
 組合は、会社が団交において、①TRサーベイ(会社の親会社がその傘下にある各会社の従業員の総報酬水準の状況を確認するために実施している、比較対象会社の従業員の総報酬についての調査)の結果を開示しないこと、②T1/07等の職位の総報酬が高止まりであるとする根拠を示していないこと、③基本給上限額を超過した分の再配分先について設定する「ターゲットライン」を示さないこと、④会社の賃金水準についての「あるべき姿」の具体的内容を示していないことが不誠実な対応であると主張する。
 しかし、認定した事実によれば、会社は、賃上げ額、一時金支給月率について一応の根拠を示し、高年齢層の賃金水準を是正する必要性について組合の理解を求める努力を行い、高年齢層の賃金水準を是正した分の原資を再配分する仕組みの概要を説明しており、これに対する組合の対応を考えれば、会社がTRサーベイの結果を開示しないこと及びターゲットラインを示さないことをもって不誠実な対応であるということはできない。また、前年以前の交渉でTRサーベイは実施会社との関係で公表できない旨を説明していることも併せ考えれば、T1/07等の職位の総報酬が高止まりであるとする根拠について組合の理解を得る努力をしていないとはいえない。
 なお、「あるべき姿」については、明確な基準として団交の中で取り扱われていた文言であるかが不明である上、21年度の賃上げ・一時金の団交についてはその開示が不可欠なものとはいえないのであるから、会社がこれを示さなかったことをもって不誠実であるとまではいえない。
 以上の経緯及び少なくとも17回行われた団交において21年度賃上げ・一時金について協議が行われ、妥結していることを考え併せれば、会社の対応が不誠実であったとまではいえない。 
掲載文献   

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