事件名 |
神労委平成24年(不)第36号 |
事件番号 |
神労委平成24年(不)第36号 |
申立人 |
X1労働組合 |
被申立人 |
公益財団法人Y |
命令年月日 |
平成26年7月24日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
被申立人法人が平成24年4月12日、その楽団員である組合員
X2及び同X3を解雇したことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
神奈川県労委は法人に対し、上記の解雇をなかったものとして取り扱うこと等並びに文書の交付及び掲示を命じ
た。 |
命令主文 |
1 被申立人は、申立人組合員X2及び同X3に対する平成24年4
月12日の解雇をなかったものとして取り扱い、同人らを原職に復帰させるとともに、当該解雇の日から原職復帰に至るまでの
間、当該解雇がなかったならば支給されるべきであった賃金相当額に年率5分相当額を加算した額の金員を同人らに支払わなけれ
ばならない。
2 被申立人は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に交付するとともに、同文書の内容を縦1メートル、横1.5メー
トルの白色用紙に明瞭に認識することができる大きさの楷書で記載した上で、被申立人の楽団員の見やすい場所に毀損することな
く10日間掲示しなければならない。
記(省略)
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判断の要旨 |
1 不当労働行為意思の存否について
認定した事実によれば、被申立人法人は、法人の特別契約団員であったAが平成20年10月7日、組合員X2や同X3の言動
により精神的なダメージを受けたなどとして法人との契約を解除したこと(以下「退団問題」)に関し、X2及びX3が法人の指
摘を受け入れようとせず、反省の態度を示そうとしない点で、両名を法人の運営にとって好ましくない人物であるととらえていた
ものと認められる。そして、X3らが21年3月3日、申立人組合の分会を結成し、X2も加入して両名が分会の組合活動を積極
的に行うようになると、両名に対する敵対的な姿勢をますます強めるだけでなく、組合及び分会の存在やそれらの活動をも嫌悪す
るという反組合的な姿勢を示すようになった。このことからすると、本件解雇には不当労働行為意思を推認することができる。加
えて、法人はその一体感を損なうことなく公益法人として存続するという第一義的な目的を実現するため、本件解雇によって組合
及び分会の弱体化を企図したものと推認することができる。
2 本件解雇に係る合理性の存否について
(1)解雇の理由
法人の解雇通知書によれば、X2の解雇理由は、1
演奏技術が著しく低く、それについて指揮者から指摘を受けていること(就業規則第37条①)、2
演奏中や練習における態度がきわめて悪いこと(同第37条②)、3
度重なる事情聴取等呼び出し、始末書の提出等の要請について、応じなかったこと(同第5条、第37条②、⑪)、4
A氏に対し精神的ダメージを与え、また、退団したことにより楽団に多大な損失をもたらしたこと(同第38条⑤、第37条⑧)であるとされ、また、X3については、上記1か
ら3と同様の理由及び、4
文化庁事業である沖縄公演に際し、時と場所を弁えない発言により文化庁との間に信用問題を引き起こし、楽団の品位を汚し、名誉を傷つけたこと(同第7条④、第37条⑧、第
38条⑤)であるとされている。
(2)演奏技術及び演奏態度
認定した事実によれば、指揮者Bが楽団員の演奏技術や演奏態度について指摘して法人に対応を求めたことから、法人がX2ら
3名の組合員に対し、平成22年5月に行われた2回の公演について休演を命じるに至った。しかし、X2及びX3が休演命令の
根拠となった指摘についてBから直接説明を聞く機会を設けるよう何度も要請したのに対し、法人は個人として連絡すればよいと
回答するなどして、その機会を設けようとしなかった。また、Bによる指摘について、具体的な内容を確認した上で両名に説明し
たり、改善策を提示したりすることは一切なかった。
また、別の指揮者Cは、X2及びX3の演奏技術がプロで活動するレベルではなく、演奏態度も極めて悪いとの指摘をしてい
る。しかし、楽団員の採用がオーディションを経て決定されていることや、演奏技術自体が判定者の嗜好や主観に左右されること
もあり得ることを考えると、演奏技術の低下を理由に楽団員を解雇するに当たっては、第三者である音楽的専門家による評価を仰
ぐなどの慎重な対応や手続があって然るべきところ、本件では、音楽的専門家を含まない評価委員会が、両名の演奏を実際に聴く
などの機会を設けることなく、指揮者による指摘についての法人の説明のみに基づいて解雇を決定している。また、演奏態度につ
いても、いつの時点のいかなる態度に問題があるかを具体的に指摘し、まずはその改善を指導して然るべきであるにもかかわら
ず、そのような機会を設けようとはしなかった。
このようにみてくると、X2及びX3の演奏技術の低下及び演奏態度の不良を本件解雇の理由とすることに合理性はないといわ
ざるを得ない。
(3)退団問題等及びこれらに伴う法人の呼出し等の要請に応じなかったこと
法人は、退団問題については、「明確なる答えを得るには至っておりません」として調査を終了しており、その後に更なる処分
を根拠付ける新たな事実が判明したことを認めるに足りる証拠はない。また、前記(1)に記載した、X3が沖縄公演に際し、
「時と場所を弁えない発言」をしたことにかかわる問題についても、平成21年12月25日付け戒告書を同人に交付しており、
その後に楽団の運営や信用等に具体的な影響を及ぼしたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、これらの問題について
は、既に決着済みとみるべきであって、その後も同様の行為が繰り返されたといった事情も認められない以上、本件解雇の理由と
することに合理性は認められないというべきである。
3 不当労働行為の成否について
前記1及び2でみたとおり、本件解雇は、不当労働行為意思によるものとの疑いを払拭できないだけでなく、その解雇理由に合
理性を認めることができないことから、X2及びX3が組合員であること又は組合の正当な行為をしたことを理由とする労組法7
条1号に該当する不利益取扱いであると判断する。また、当委員会によるあっせんの結果、組合側の事務折衝担当者として指定さ
れた3名のうち、分会に所属する2名が解雇されたことにより、その後の組合及び分会の運営に支障が生じたことは明らかであ
り、労組法7条3号に該当する支配介入であると判断する。 |
掲載文献 |
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