労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  日本開閉器工業 
事件番号  神労委平成23年(不)第39号 
申立人  日本開閉器工業労働組合 
被申立人  日本開閉器工業株式会社 
命令年月日  平成26年3月25日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   被申立人会社が①申立人組合との合意がないまま新しい人事制度を導入したこと、②組合に対し、組合員の賃金データの開示(組合費の算出のために行っていたもの)を停止したこと、③組合が集会場所として利用していた会社の食堂の天井にカメラを設置したこと、④神奈川県労委において証人として証言した組合員X2に対し、生産技術グループから販売部への人事異動を命じたことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 神奈川県労委は会社に対し、上記④の人事異動をなかったものとして取り扱うことを命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、申立人組合員X2に対する平成25年4月1日付け人事異動をなかったものとして取り扱い、同人を生産部技術課生産技術グループに復帰させなければならない。
2 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 新人事制度の導入について
(1)全従業員説明会の開催
 申立人組合は、「組合との合意があるまで説明会はやめるよう要請していたにもかかわらず、会社は、新人事制度についての説明すらほとんど行われていない平成21年7月24日、一方的に全従業員説明会を開催して、最終案ではないとしながらも新人事制度の説明を行った。この全従業員説明会は、組合の合意がないまま一方的に行われたものである」と主張する。
 しかし、認定した事実によれば、被申立人会社は、同年6月24日の第1回組合執行部説明会の時点から組合執行部と協議を開始したいとしており、同説明会で新人事制度について既に説明していた。ところが、会社がその後も計4回にわたり組合執行部説明会を開催したものの、組合が最終案として案が固まらなければ協議しないという態度をとり続けていたことから、会社は正式な案を同年7月24日に全従業員に提示し、組合とは今後協議していく旨を述べて組合が協議に応じることを待っていたものといえる。このような経過に鑑みれば、同年8月19日の組合に対する正式な申入れの前に全従業員説明会を開催した会社の対応は不適切なものとはいえない。
(2)新人事制度最終案の提示の仕方と資料提供に係る組合の交渉対応
 組合は、会社としての最終案が出されて初めて検討が可能となるため、会社に責任ある案を出させ、また、その緊急性・必要性といった是非を検討し、それらが労使で確認・合意された後に、会社の案を丸ごと労使検討の対象とするとの方針を確立したと主張する。
 しかし、組合が新人事制度の導入について疑問があるのであれば、会社が提示する案が最終案であるか否かにかかわらず、団交などの協議をして見解の相違を伝えるのが相当であって、会社から最終案の提示があって初めて検討が可能となり団交などの協議を開始できるというものではない。また、組合が協議に応じない状況下において、21年7月24日の会社案は示しうる限りのものといえ、内容についても、組合にとって検討できる段階に達していなかったとはいえない。そして、会社が再三協議を持ちかけていたにもかかわらず、最終案として提示されない限り交渉に応じようとしない組合の姿勢は、会社との意見の一致を見出す努力を怠るものといえるのであり、結局、組合のほうが協議を実質的に避けていたとみるのが相当である。したがって、会社が組合のいう最終案を提示しなかったことをとらえて組合の協議の機会が奪われたとはいえず、会社が誠実交渉義務に違反しているとはいえない。
(3)管理・評価に関する制度の先行導入
 会社は21年8月26日、組合に対する回答書において、抜本的に人事制度を改めるのは喫緊の課題である一方、新人事制度の導入から軌道に乗るまでには数年間の時間が必要であり、協議終了後から着手するのではなく、組合と協議の必要のない部分(管理・評価に関する制度)については順に導入していく旨述べた上で、同年9月以降、評価者研修会の開催や従業員に対する仮格付け(現行人事制度における職位を新人事制度のバンド(職種)として仮に位置付けること)の通知を実施した。しかし、このことは、組合の対応が原因となって協議が行われなかったという事情によるもので、会社として協議を回避したわけではなく、また、会社の先行導入に対し組合から特段の異議がなかったことを併せて考えると、会社が殊更管理・評価に関する制度についての交渉を行わなかったことをもって、労働協約の協議条項を軽視したとまではいえず、また、誠実交渉義務に違反した行為であるとはいえない。
(4)団交における新人事制度導入の緊急性・必要性に関する資料の提供と協議の範囲
 22年2月25日及び3月8日に開催された団交における会社の対応については、新人事制度導入の緊急性・必要性に関する資料提供について、組合の納得を得られるよう妥結に向け、誠実に対応したといえる。また、経営権に関する事項は団交の協議範囲に含めず、今後問題があった際に協議するとした会社の対応は、団交に至る経緯を踏まえると、不誠実なものであったとはいえない。
(5)組合と合意がないままの昇降給等の実施
 会社は22年3月30日の窓口交渉(事務折衝)において組合に対し、昇格については3月11日付けで実施したこと、また、昇給については新人事制度を正式導入したら増額したであろう金額を支給するため、昇格者の役付手当の増額については現行の人事制度で増額し、不足分は基本給を増額することで調整することを説明した。これに対して組合は、新人事制度については合意していないことから、協議に入る段階ではないとし、現行の人事制度に基づいて対応すべきである旨を伝えた。会社は、同年4月1日、従業員に給与辞令を交付し、これにより総合職に昇格した従業員は5,000円(うち基本給の増額分1,300円)、リーダー職に昇格した従業員は1万円(同7,700円)の昇給をした。なお、新人事制度に基づく昇格単価は、総合職5,000円、リーダー職1万円とされていた。このような昇給の結果、新人事制度による昇格者の基本給が7,700円増額したことから、新人事制度導入後に昇格した従業員が現行の人事制度で昇格していた従業員よりも基本給が高くなること(以下「本件逆転現象」)が生じた。
 上記のような賃金の支給については、実質的には新人事制度の昇降給制度を導入したものととらえざるを得ない。しかし、会社は昇降給制度を含む賃金に関する制度に関して、21年6月以降、説明会及び資料提供をしていたのであり、組合の責によってその後の協議が行われなかったことに鑑みれば、会社としては相応の誠実さをもって対応したといえる。また、組合は22年3月8日の団交で賃金に関する制度を協議範囲とすることに合意していたにもかかわらず、その後の協議を拒んでいた状況を踏まえると、明示的な協議を行わなかったことをもって、労働協約の協議条項や誠実交渉義務に反したとまではいえない。なお、上記の賃金の支給は本件逆転現象を生じさせるものであったが、組合が協議に応じない状況下において、昇格者に対して説明していた昇給額と同額を支給するために現行の賃金規程と矛盾しないように行った便宜上の措置といえ、殊更組合員間に不合理な状態を作り出そうとした支配介入の意図を推認することはできない。
(6)総括
 以上により、新人事制度の導入に係る全過程をみると、会社が新人事制度を導入するに当たり、意図的に組合を関与させないとしたことはなく、労働協約の協議条項や誠実交渉義務に反したとはいえず、むしろ組合が会社と真摯に向き合い、対応しているとはいえないことを併せて考えると、会社が新人事制度を導入したことは労組法7条3号の支配介入には該当しない。
2 組合員の賃金データの開示を停止したことについて
 組合は、会社が賃金データの開示を拒否したのは、組合が新人事制度導入後の賃金を把握できないようにし、組合活動を妨害したものであると主張する。しかし、会社が個人情報保護を理由に賃金データの開示を初めて拒んだのは新人事制度による評価が賃金データに反映される前の21年11月のことであったこと、その際、会社は開示を一切拒否するのではなく、全組合員から同意書を得ることなどを提案していたこと、結局、その時は今回限りということで賃金データを開示したことなどに加え、23年9月14日、組合から組合員の承諾を受けた旨の通知を受けると、翌日には賃金データを開示し、現在も開示の状況が継続していることを併せ考えると、会社が開示を拒んだのは、殊更新人事制度が反映された賃金を組合に把握させないよう企図し、同制度の導入と一体となって開示を拒んだとまでは認められず、組合活動を妨害し、組合運営に対し不当に介入する意図はなかったとみるのが相当である。
3 食堂の天井にカメラを設置したことについて
 会社が食堂にカメラを設置したことには防犯上の必要性があり、運用状況も業務上の範囲内であったことが認められる。組合は会社が組合活動を監視する可能性があることが問題であると主張するが、会社が組合の要求に応え、カメラの向きを調節した日以降、組合がカメラの撤去要求をしていないことなどからすれば、カメラの設置自体が組合活動の阻害となっていると解することもできない。よって、労組法7条3号の支配介入には該当しない。
4 組合員X2の人事異動について
 本件人事異動は、生産技術業務から販売業務という職務内容の変更を伴う異動であり、長年にわたり生産技術業務に就いていたX2にとって業務上の不利益があり、また、同人は過去に販売業務が自分に合わない業務であったと自覚していることなどから、精神上の不利益が認められる。
 本件人事異動に至る経緯をみると、会社が平成24年度の定期人事異動の際、当初は生産部内での異動先を検討していたことからも、X2の生産技術グループにおける知識や経験、実績を高く評価していたものといえるが、同人が24年11月及び12月に証人として出頭した後の25年4月の定期人事異動では、前年度には検討していなかった販売部への異動を命じるに及んでいる。そして、会社は、X2を異動させたものの、その後組合の要求に応じ、内勤のみの業務に従事させており、過去の営業経験や生産技術グループで培った技術的知識を販売部で生かそうとする姿勢は窺えない。25年度の定期人事異動において生産技術業務から販売業務に異動したのはX2のみであったことを併せ考えると、本件人事異動は販売強化以外の意図をもってなされたものであると推認せざるを得ず、同人が証人として証言したことを契機として本件人事異動を命じるに至ったとみるのが相当である。
 本件人事異動の合理性に関し、会社はX2を人選した理由として、同人が過去に販売部に在籍していたことがあったことを挙げているが、それだけでは人選の理由として十分とはいえない。また、業務上の必要性についてみると、前述のとおり、会社はX2を内勤業務に従事させたのであるから、早急に代替要員を補充してしかるべきであるところ、補充していない。このような会社の対応と「販売強化」という主張には齟齬があり、この時期に同人を販売部に異動させるほどの業務上の必要性があるとはいえない。
 以上により、本件人事異動は、前年度の定期人事異動ではX2の特性を重視していたにもかかわらず、同人が証人として証言した後にもその姿勢を継続しているとはいえず、本件人事異動の合理性についても認めることはできないので、労組法7条4号の報復的不利益取扱いに該当する。 
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