労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件名  マロン 
事件番号  奈労委平成25年(不)第3号 
申立人  奈労連・一般労働組合 
被申立人  マロン株式会社 
命令年月日  平成26年2月27日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   被申立人会社が給料の遅配・未払を背景としてなした一連の行為、すなわち①会社奈良工場で勤務していた組合員X2の解雇後の職場復帰に際して本社に配置転換し、賃金を支払わなかったこと、②組合員X3と同X4を関連会社に異動させたこと、③奈良工場のボイラー責任者であった組合員X5に対し、同工場勤務を解くとの人事発令をしたこと、④裁判所に少額訴訟又は通常訴訟を提起した組合員に未払賃金の精算をしなかったこと、⑤会社の元課長Y3が申立人組合の一部の支部役員を排除して支部役員に切り崩し発言を行ったこと、⑥労使合意がないまま非組合員に業務命令を発したこと、⑦組合との団交に誠実に応じなかったこと、⑧組合員X6に賃金を支払わず、自宅待機を命じたこと、⑨組合員に対し、組合活動のための会社施設使用を禁止したことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 奈良県労委は会社に対し、1 X2に対する賃金未払分の支払、2 X3及びX4に対する上記②の人事異動の取消し、3 未払賃金請求の訴えを提起した組合員のうち13人に対する未払賃金精算分の支払、4 未払賃金全額の支払についての計画を組合に示し、組合との協議・合意に基づいて組合員を就労させること、5 団交に社長が出席の上、誠意をもって対応すること、6 X6に対する自宅待機命令の取消し等、7 組合が集会をするための食堂の利用を認めること等、8 文書の手交・掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人マロン株式会社は、申立人奈労連・一般労働組合のマロン支部の支部長X2が、被申立人会社本社において被申立人会社の関連会社である共栄興産株式会社のために平成25年2月以降就労した期間中の賃金未払分を遡って支払わなければならない。
2 被申立人会社は、平成25年4月22日付け「人事に関する件」で通知した申立人組合員X3及び同組合員X4の人事異動を取り消し、同社奈良工場における異動前の職場に復帰させなければならない。
3 被申立人会社は、未払賃金請求の訴えを提起した申立人組合の組合員のうち、平成25年5月の時点で同社に在籍していた13人に対して、同社のその他の従業員と同様に未払賃金精算分を支払わなければならない。
4 被申立人会社は、未払賃金全額をできるだけ早期に支払うことを内容とする返済計画を申立人組合に示し、同組合との協議・合意にもとづいて、就労を希望する同組合の組合員全員を就労させなければならない。
5 被申立人会社は、申立人組合からの団体交渉申入れに対し、同社の社長が出席のうえ、速かに、かつ、誠意をもって対応しなければならない。
 同社長が、やむを得ず出席できないときは、同人に代わり同人から交渉決定権限を与えられた者を出席させなければならない。
6 被申立人会社は、申立人組合組合員X6の自宅待機命令を取り消し、同社奈良工場総務部に復帰させ、平成25年2月以降の就労していた期間中及び自宅待機期間中の未払賃金相当額を支払わなければならない。
7 被申立人会社は、申立人組合が集会するための食堂の利用を認めるとともに、同社施設の利用に関する許可手続のルール作成のための団体交渉に応じなければならない。
8 被申立人会社は、本命令書の写しを受領後速やかに、下記の文書を申立人組合に手交するとともに、同文書を縦1メートル、横1.5メートル大の白紙に明瞭に記載して、同社の本社及び奈良工場の各玄関口付近の同社従業員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
記(省略)
9 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合員X2に対する配置転換及び賃金未払について
 X2の解雇に至る経過、解雇無効確定後における会社の態度からして、被申立人会社が申立人組合及び同人を嫌悪していたことは明らかであり、また、配転ないし出向の業務上の必要性が明らかでないことからして、本件配転ないし出向の命令は同人が労働組合の組合員であること若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもってなされたものと考えざるをえない。
 労働者が労働契約に基づいて労務を提供した場合には、使用者がそれに対応する賃金を支払うのは当然のことであるから、会社がX2(及び後述の組合員X6)以外に、本社に継続勤務しつつ、平成25年2月勤務分以降の賃金を全く支払われていない労働者が存在すると主張するのであれば、具体的な証拠を示して疎明すべきであるところ、こうした疎明はなされていない。したがって、X2に対する2月勤務分以降の賃金不払も、労組法7条1号に該当する不利益取扱いと考えざるをえない。
2 組合員X3及び同X4に対する人事異動について
 X3が出向を命じられたA社及びX4が出向を命じられたB社は、ともに会社の関連会社であるが、従業員数がそれぞれ1人、2人で、会社としての安定性が明らかでなく、このような会社に業務内容も明らかでないまま出向を命じられることは両組合員に大きな不利益を与えることが明らかである。また、就業規則に定める本人への事前内示もされておらず、手続的にも不備であることが明白である。
 加えて、会社と組合とが未払賃金と工場稼働をめぐって激しい対立状態にあり、両組合員が支部役員であったことなどを考え合わせると、本件出向命令は両組合員の組合への所属又はその正当な組合活動の故をもってなされたものといわざるをえない。また、支配介入にも該当するといえる。
3 組合員X5に対する人事について
 X5は会社とは別の法人格である関連会社C社の従業員であり、同人に関する人事が解雇であったとすれば、同社のみがそれを行う権限を有するといえるが、本件人事は会社奈良工場の勤務を解くというものであるから、会社による就労の拒否と解することができる。この人事は、C社代表取締役代行C1の名前で社内報に記載されているが、会社とC社との密接な関係等を考えると、むしろ会社の行為と解するのが相当である。
 そして、X5は奈良工場のボイラー責任者として誇りをもって作業に従事してきたことが窺えるのであり、同人を解職し、別の労働者を充てることがX5に大きな精神的苦痛を与えることは容易に想像できる。
 会社はC社による本件人事の理由としてX5の平成25年3月22日の言動(他社から派遣されてきたボイラー担当者の業務を妨害したこと)を挙げているが、X5の行動として行き過ぎたものであったとは認められない。また、X5に対する人事発令は、この出来事の2か月後になされており、同人の上記の言動を真の動機としたものとは考えにくい。
 むしろ、発令の数日前に、X5が支部役員を代表して会社の取締役Y2に電話をして給与の支払を督促するなどしたことが直接的な契機になったものと推認される。そして、本件人事により、支部役員として重要な役割を果たしているX5を奈良工場から切り離すことになり、組合の活動に大きな影響を及ぼす可能性がある。
 以上のことから、X5に対する本件人事は、会社による不利益取扱い及び支配介入の不当労働行為と解するのが妥当である。
4 賃金請求の訴えを提起した組合員に対する賃金不払について
 会社とC社は、平成25年5月に未払賃金の一部を支払うに際して、本件賃金請求訴訟を提起していた組合員のうちの支払対象者20名のほぼ全員を支払対象から除外した。非組合員は、ほぼ全員が支払を受けている。本件賃金請求訴訟は労働組合の正当な行為であり、その故をもってなされた未払賃金の不払は不利益取扱いの不当労働行為に該当する。
 ただし、会社とC社は法人格を異にし、C社の従業員に対する賃金は同社から支払われていたところ、同社所属の組合員に対する賃金精算分不払が会社による不利益取扱いであると認められるためには、C社所属の労働者への賃金の支払について会社が現実に決定してきたとか、当該不払を会社が指示したことなどの具体的事情が疎明される必要がある。そのような疎明はなされていないから、C社所属の組合員に関しては会社の不利益取扱いということはできない。
5 会社の元課長Y3の組合員に対する発言等について
 Y3は、7人の支部役員のうちあえて2人を排除した上で、「5人には未払の全額を払う。他の組合員には20万円から30万円を支払うから黙らせろ。そして工場をまわせ(稼働させろ)」と述べたというのであるから、組合役員と組合員を離反させ、また組合員役員(注:原文のまま)の中にも分裂を持ち込むもので、使用者に許された言論の自由を逸脱する言動といわざるをえない。この言動は、工場の稼働に同意させるべく支部役員を説得するという会社の依頼に応じて、その目的を達成するためになされたものであるから、その行動は会社に帰責されるべきである。したがって、Y3の発言等は会社の支配介入の不当労働行為に該当する。
6 会社が非組合員のみに業務を命じたことについて
 平成25年3月18日、組合とY2らとの間で話合いが行われた結果、Y2は賃金を支払えないままでは仕事をしてもらうことはできないとして奈良工場を臨時休業とし、従業員に自宅待機を命令することに同意し、それ以来、臨時休業の宣言や自宅待機命令が明示的に解かれることはなく、組合員の不就労の状態が継続していた。会社は、こうした状況において、同年4月6日から、非組合員とパートタイム従業員を出勤させ、工場を一部稼働させた。組合員については自宅待機の状態を継続し賃金を支払わないまま、非組合員やパートタイム従業員に個別に声をかけて就労させ賃金を支払うのは組合員に対する不利益な取扱いであり、また組合を弱体化させるおそれの強い行為である。組合は支配介入の不当労働行為の成立のみを主張しているので、支配介入の成立のみを認めることにする。
7 団交に係る会社の対応について
 会社の社長Y1が賃金不払問題を中心とする団交に一度も出席せず、出席した役員が「社長に聴かなければわからない」という態度をとり続けたことは不誠実な態度というほかない。また、賃金の遅配・欠配、組合から見た組合員への不当人事が行われ、組合がそれにかかわる合計16回の団交を要求したのに対して、会社がそれを拒否し続けたことは団交拒否に該当するといわざるをえない。
8 組合員X6に対する賃金不払及び自宅待機命令について
 X6は、奈良工場において平成25年3月18日以降、臨時休業、自宅待機が続く中でも本社において勤務を継続してきたが、2月勤務分以降の賃金は支払われておらず、そのことを正当化する事由は疎明されていない。
 また、X6は同年9月11日、自宅待機命令を受けたが、会社がその理由として挙げる、同人が使用しているパソコンに「休業協定書」のデータが保存されていたことなどは同人の非違行為に該当するとはいえない。
 したがって、上記の賃金不払及び自宅待機命令はいずれも、会社が同人の組合所属ないし正当な組合の行為を嫌悪してなした不利益取扱いであると判断される。
9 組合活動のための会社施設利用について
 会社は、組合からの奈良工場の食堂利用の申入れを許可しなかったが、同工場3階の303号室については許可する態度を示したことがある。通常の労使関係の下では、3階の部屋を提供するから食堂は利用しないようにとの使用者の態度は当然に支配介入に該当するものではないともいえる。
 しかし、本件においては、長期の賃金遅配ないし不払が続くという状況の中で、組合が賃金不払の正確な実態把握、組合役員からの説明、今後の方針の協議のために多数の組合員を集めて食堂で集会を開催する必要性は極めて高かったといえる(全組合員が集まれる場所は食堂以外にはない。)。
 また、会社は、とりわけ支部が結成されて以来、一貫して組合を敵視していたのであり、食堂の利用を認めないという会社の態度は、施設管理上の合理的な理由に基づくというよりも、組合を敵視し、その弱体化を図る施策の一環とみるのが妥当である。会社は、食堂利用のルール設定に関する団交の申入れも拒否している。
 以上の事情を総合して勘案すれば、会社が組合に対して食堂の利用を禁止し、食堂利用に関する話合いに応じなかったことは、支配介入の不当労働行為に該当するというべきである。 
掲載文献   

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約420KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。