労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  鹿児島県労委24(不)第2号 
事件番号  鹿児島県労委24(不)第2号 
申立人  X労働組合 
被申立人  医療法人Y、有限会社Z 
命令年月日  平成26年1月9日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   ①被申立人法人がその運営する介護老人保健施設Aの職員である組合員X3ら6名に対する「リーダー手当」の支給を平成24年7月以降停止したこと、②法人が24年3月、Aの「リーダー」に対して勤務表の作り直しを指示したこと等、③申立人組合らが申し入れた団交における法人及び被申立人会社の対応が不誠実であったこと、④法人及び会社が平成23年度夏季一時金及び冬季一時金の支給額と平年並みの支給額との差額を組合員に支給しなかったこと等、⑤法人の総務部長Y2が組合の上部団体の書記長に対し、上部団体は団交に参加しないでほしいと電話連絡したこと等、⑥法人がAのサービスステーションの前に監視カメラを設置したことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 鹿児島県労委は法人に対し、1 組合員6名に対するリーダー手当の支払、2 監視カメラの運用に関して組合と団交で協議すること等を、法人及び会社に対し、3 上記④の一時金に関し、組合と団交を行い、誠実に対応すること、4 文書の手交・掲示をそれぞれ命じるとともに、上記⑤に係る申立てを却下し、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人医療法人Yは、申立人の組合員であるX3、X4、X5、X6、X7及びX8に対して、リーダー手当として次表の支給額欄の金額を支払わなければならない。
 表(省略)
2 被申立人医療法人Y及び有限会社Zは、申立人と団体交渉を行い、平成23年度夏季一時金及び冬季一時金並びに平成24年度夏季一時金に関して、申立人が要求する経営状況に関する資料を提示し具体的に説明するなどして、誠実に対応しなければならない。
3 被申立人医療法人Yは、申立人との団体交渉を行い、新設したカメラ7台の運用に関して協議し、組合員の不利益取扱いとなることのないよう対策を講じなければならない。
 なお、対策を講じるまでは、新設した7台のカメラのうち、2階ないし4階のサービスステーション前の計3台のカメラを使用してはならない。
4 被申立人医療法人Y及び有限会社Zは、本命令書受領の日から10日以内に、下記内容の文書(A4判)を申立人に手交するとともに、A1判の大きさの白紙(縦約84センチメートル、横約60センチメートル)全面に下記内容を明瞭に記載し、被申立人法人が経営する老人保健施設Aの施設内の職員の見やすい場所に14日間掲示しなければならない。
記(省略)
5 平成23年6月17日に、被申立人有限会社ZのY2が○○(注:X労働組合の上部団体の名称)のX2書記長に団体交渉へ参加しないでほしいと電話連絡したことに関する救済申立てを却下する。
6 事件解決までに生じた必要経費及び慰謝料の支払いに関する救済申立てを却下する。
7 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合員6名に対する「リーダー手当」の支給を停止したことについて
 被申立人法人は、リーダー手当の支給停止は不当労働行為に該当しないとする理由として、①申立人組合が主張するリーダー(施設に勤務する看護師のリーダー及び介護士のリーダーを指す。)6名に対して、辞令を交付して任命していない、②リーダー手当の支給は、組合の前分会長X3が給与担当者に不正に加担するよう圧力をかけ、不正に開始されたもので、その事実が発覚したことから、支給を停止したものである、③平成24年7月以降の支給停止に先立ち、組合に対し、同年4月以降廃止する旨の通知を行い、その後、手当の見直しを行うことを団交において労使双方で確認したが、放置され、24年7月の団交で同月から見直しを行うことを提案したが、結論が持ち越されていた旨主張する。
 しかし、上記①に関しては、法人において就業規則にない役職を任命する場合に辞令の交付をもって規定に代えることが常態となっていたと認めうるだけの根拠がなく、辞令の交付がないことを理由にリーダー手当の支給を停止したとする主張に合理性があるとは認められない。そして、辞令は交付されていなかったが、看護リーダー、介護リーダーともに存在してリーダーの業務を行っていたのであり、その上で各リーダーにリーダー手当が支給されてきたとみるべきである。したがって、辞令の交付がないことは支給停止の理由にならない。
 上記②に関しては、仮に不正が事実であれば、法人は就業規則に基づく処分等の手続をとるのが自然であるが、それを行っていない。また、不正支出であるとの主張に関して証拠の提出がないこと等から、法人の主張は採用できない。
 上記③に関しては、法人はリーダー手当の見直しについての結論が持ち越されたと自ら主張していることから、これをもって支給停止の理由とはならない。また、労使双方が見直しの合意に至ったことや24年7月以降の手当廃止が決定されたことについては、事実として認められない。
 次に、法人の不当労働行為意思についてみると、法人は、20年8月頃に看護リーダーとなったX3に対し、同年10月からリーダー手当の支給を開始するなど、リーダーの存在を認め、手当を支給してきたにもかかわらず、23年4月の組合結成後に支給停止を企図したことは、組合員に対する嫌悪意思によるものと認めざるを得ない。また、組合結成後、法人の理事長Y1(当時は理事)が総務部長Y2に対し、非組合員であることの誓約書の提出を拒む職員への対応として、組合員は管理職になれないことを認知させるよう指示したことなどが認められる。さらに、リーダー手当の支給を停止した頃の労使の状況をみると、一時金問題や未払い残業代に関して労使が激しく対立していたことが認められる。同じ7月には、後記6のとおり、法人は組合員を監視する目的で監視カメラを施設に設置している。
 以上のことから、法人が24年7月に何ら合理的な理由なくリーダー手当の支給を打ち切ったことは、全リーダーが組合員であることの故をもって(これを嫌悪して)行った不利益取扱いであり、労組法7条1号の不当労働行為に該当する。
2 「リーダー」に対し、勤務表の作り直しを指示したことについて
 24年3月26日付け文書による勤務表の作り直しの指示によって、X3ら5名のリーダーに不利益と評価しうるほどの具体的な損害があったとは判断できない。また、同年9月1日の業務命令による作り直しの指示についても、6名のリーダーが著しい精神的苦痛を受けたとまでは認められない。よって、いずれも不当労働行為には該当しない。
3 一時金に関する団交における対応について
 平成24年6月28日の団交において、23年度夏季一時金及び冬季一時金に関する議題について、Y1が「この問題は解決済みである」と発言し、また、法人及び被申立人会社が、組合が要求する経営状況に関する資料を提示しなかったことは、誠実交渉義務を果たしたとはいえない。また、7月12日の団交において、24年度夏季一時金に関する議題について、法人及び会社は夏季一時金を支給しないことの根拠となる資料を提示せず、Y1が組合の質問に対して黙り込みを続けたことは、誠実交渉義務を果たしたとはいえない。よって、いずれも労組法7条2号の不当労働行為に該当する。
4 平成23年度一時金の差額を組合員に支給しなかったこと等について
 23年度一時金の差額については、本来、労使交渉によって確定されるべき事項であるが、団交で妥結に至らず、法人及び会社に具体的な支払義務が確定していない以上、支払わないことをもって直ちに不利益取扱いであるということはできない。また、法人及び会社の全職員が支給されておらず、組合員が差別的な取扱いを受けているわけではない。したがって、法人及び会社が23年度一時金の差額を支給しなかったことは、不当労働行為には該当しない。24年度夏季一時金を組合員に支給しなかったことについても、同様である。 
5 組合の上部団体の書記長に対するY2の電話連絡について
 Y2の電話連絡は、本件申立てより1年を超える以前の行為であり、これに係る申立ては却下せざるを得ない。
6 法人がサービスステーションの前に監視カメラを設置したことについて
 法人は、既設の15台のカメラに加えて、録音機能を持つ監視カメラを7台設置し、そのうち3台は2階から4階のサービスステーションの前に設置されている。設置の状況からみて、その目的が入所者の事故防止や事故発生時の記録保存にあったとは解しがたく、また、この時期に設置する必要性は特に認められない。むしろ、労使が対立する状況の中で、法人が設置の理由について納得のいく説明もせず、可動式で録音機能及びズーム機能がついている監視カメラを設置したことは、組合員の動向を把握する目的によるものといえる。したがって、監視カメラの設置には組合員に対する監視の目的があったといえ、組合員に対する嫌悪意思が認められる。
 そして、組合員が監視カメラによって常時監視されうる状態に置かれ続けていることは、安心して働けるという職場環境が大きく損なわれる不利益な取扱いであるといえる。
 以上のことから、法人が監視カメラを設置したことは、組合員を嫌悪し、組合員であることの故をもって行われた不利益取扱いであり、労組法7条1号の不当労働行為に該当する。 
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