労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  鋼栄物流 
事件番号  埼労委平成23年(不)第4号 
申立人  全日本建設交運一般労働組合千葉県本部千葉合同支部、同鋼栄分会 
被申立人  鋼栄物流株式会社 
命令年月日  平成25年2月14日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   ①被申立人会社の社長Y1が安全会議において、組合員を差別し、又は組合活動を妨害するための不当な発言をしたこと、並びに会社が②申立人組合の分会長X2及び分会書記長X3に対し、平成23年夏季一時金を支給しなかったこと、③団交の場で組合と合意した事項を履行しなかったり、団交において不誠実な対応をしたりしたこと、④組合活動は就業時間外・会社の施設外で行うべきである旨記載した通知書を組合に交付するとともに、敷地内における組合活動を禁止し、違反者は厳重に処分する旨の文書を会社の事務所内に掲示したこと等は不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 埼玉県労委は会社に対し、1 X2及びX3に対する夏季一時金の支払、2 一時金に係る団交の誠実な実施、3 組合の組織及び運営への支配介入の禁止、4 文書の手交・掲示を命じ、その余の申立てを却下又は棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、申立人全日本建設交運一般労働組合千葉県本部千葉合同支部鋼栄分会の組合員であるX2及び同X3に対して、平成23年夏季一時金として、それぞれ金19万6666円を支払わなければならない。
2 被申立人は、申立人らから一時金に係る団体交渉の申入れがあった場合には、当該団体交渉を一時金支給日前に時間的に余裕をもって行うなどの必要な配慮をして、誠実に交渉しなければならない。
3 被申立人は、申立人らの活動を抑制し、又は従業員の申立人らへの加入をけん制することを目的とし、発言又は文書の交付若しくは掲示を行うなどして、申立人らの組織及び運営に支配介入してはならない。
4 被申立人は、申立人らに対し、下記の文書を本命令書受領の日から10日以内に手交するとともに、縦55センチメートル×横80センチメートルの大きさ(新聞紙2頁大)の白紙に、下記文書を楷書で明瞭に記載して、被申立人の事務所内の被申立人従業員が見やすい場所に10日間掲示しなければならない。(注 : 下記文書の年月日の欄には、被申立人が申立人らに手交し、又は掲示する日を記載すること。)
         記
              平成 年 月 日
  全日本建設交運一般労働組合千葉県本部千葉合同支部
  執行委員長 X1 様
  全日本建設交運一般労働組合千葉県本部千葉合同支部鋼栄分会
  分会長 X2 様
             鋼栄物流株式会社
              代表取締役 Y2
  以下の行為は、埼玉県労働委員会において不当労働行為であると認定されました。今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
 1 当社が、貴鋼栄分会のX2分会長及びX3書記長に対して、平成23年夏季一時金を支給しなかったこと。
 2 当社の代表取締役であったY1が、平成23年6月18日の安全会議の席上、以下のとおり述べたこと。
 (1)「始末書取ってください。退職を勧告しますから。」
 (2)「組合から訴状が出ていて、残業代の請求がされています。これは払うことはありませんが、もし払うとなれば7月の賞与も払えないし、給与もショートしてしまいます。」
 (3)「訴状にお客さんの実名が入っている。こんなのが知れたら会社はつぶれますよ。」
 (4)「8人だめなのがいて、そんなの私が補償を被ることはない。とんでもない。私が社長になる前の残業代まで請求されている。私の経営責任ではない。逆に告訴しますよ。」
 (5)「今日もズルで出てきてないんじゃないのかと思いますよ。安全会議に二人出てこないでけがしたなんてとんでもない話ですよ。こんなの、この間、弁護士と話をして解雇しようという話が出ていますから。」
 (6)「社内での組合活動は禁止ですから、それをやった場合は即日解雇しますから、組合員は。勧誘されたときは会社に必ず言ってください。」
 (7)「有給休暇を使って、どっかに応援に行ったりふらふらしたりしている。みんなに迷惑掛けている。」
 (8)「訴状を出された方は賞与しばらく止めます。」
 (9)「ダラダラ遅れてくるような奴が。同じ病院行ってたのか、二人とも。証明書取りなさい。」
 3 当社が、当社の事情により、平成23年夏季一時金に係る団体交渉を一時金支給日前に行うことができなくなったにも関わらず、貴組合らからの同夏季一時金の仮払いの要求に応じない上に、同夏季一時金の支給は交渉が妥結した後になる旨の通知をするなどの対応を行ったこと。
 4 当社が貴組合らに「非組合員から、就業時間中に組合勧誘を受けたため、業務の支障が生じている旨の不満が寄せられた。組合活動は、就業時間外に、会社の管理施設外で行うべきである。今後、同様の不満が寄せられて、それが事実であることが確認できた場合には、然るべき対応を取らざるを得ない。」と記した平成23(2011)年6月10日付け通知書を交付したこと。
 5 当社が、平成23年6月に「敷地内における組合活動を禁止する。違反した者は厳重に処分する。」と記した文書を事務所内に掲示したこと。
              以上

5 申立人らの申立てのうち、平成22年3月13日の安全会議における被申立人代表取締役Y1の発言に係る申立て及び平成21年の忘年会における表彰に係る申立てをいずれも却下する。
6 申立人らのその余の申立てをいずれも棄却する。
   
判断の要旨  1 平成23年6月18日の安全会議での会社社長の発言について
 会社社長Y1による「8人だめなのがいて、そんなの私が補償を被ることはない、逆に告訴しますよ」との発言は、未払残業代の支払を求める訴えを提起した申立人組合分会の組合員に対し、不利益取扱い及び告訴をすることで、組合の活動を萎縮させ、又は抑制しようとしたものであったと解するのが相当である。また、「社内での組合活動は禁止ですから、それをやった場合は即日解雇しますから、組合員は。勧誘されたときは会社に必ず言ってください」との発言は、組合員に非組合員の監視の目を意識させて組合の活動を萎縮させ、又は抑制しようとしたものであるとともに、非組合員に対しても組合に対する会社の姿勢を示すことで、組合への加入をけん制しようとしたものと考えるのが相当である。その他の発言についても同様であり、これらの発言は労組法7条3号に該当する不当労働行為であると判断する。
2 組合の分会長X2らに対する夏季一時金の不支給について
 会社がX2に夏季一時金を支給しなかったのは、前述の組合員による訴えの提起などが原因で組合及び組合員に対する嫌悪の情が会社にあったところ、平成23年6月25日の団交において会社の取締役Y3が当該訴えについての和解などの労使関係の改善を条件にX2及びX3に対する夏季一時金の支給についてY1に検討を要請してもよいという趣旨の発言をしたにもかかわらず、組合が歩み寄りの姿勢を見せなかったために、会社が組合及びX2の組合活動に対する嫌悪の情を更に強めたからであると解するのが相当である。また、組合分会の中心的人物であるX2を不利益に取り扱うことによって、分会の組合員の活動を萎縮させ、又は抑制しようとする意図もあったと認めるのが相当である。
 組合分会の書記長X3に対する夏季一時金の不支給も、X2に対するのと同様の理由、意図によるものであったと認めるのが相当である。
 したがって、本件夏季一時金の不支給は労組法7条1号及び3号に該当する不当労働行為であると判断する。
3 団交で合意した事項の不履行について
 組合は、22年9月の団交で、今後一切過積載は行わない旨を記載した文書の配付及び掲示について合意が成立し、配付については配車票を入れるクリアファイルの中に入れて行うことに会社が同意した旨主張する。しかし、審問での関係者の証言によれば、会社には具体的な配付方法まで合意したつもりはなかったと解するのが相当である。
 次に、掲示については、会社は「22年度下期のスタートに当たって」と題する文書を全従業員の引出しに入れたが、掲示はしなかったことが認められる。しかし、当該文書は社長Y1の名義によるもので、会社の意思表示として重みがあり、従業員への周知という意味では相当の効果があったものと判断できる。これに関して組合から、掲示をしなかったことで多大な悪影響があったというような主張も、会社が故意に掲示しなかったとの主張もない。したがって、会社が当該文書の掲示をしなかったことをもって不誠実団交であると会社を問責することは妥当でない。
4 平成23年夏季一時金に係る団交における会社の対応について
 会社は、6月25日の団交の際、組合員1人当たり平均支給額については6月末時点の売上げ等の集計をしてからでないと明示できないとして回答せず、支給予定日の3日前の7月12日に「夏季賞与について」と題する文書で当該平均支給額を明示するとともに、同月14日15時までに妥結できない場合には組合員に対する夏季一時金は妥結後に支給する旨を組合に通知したことが認められる。
 しかし、会社は当初7月8日を目途に回答する旨組合に通知していたことや、回答が7月12日になったのは売上げの集計が遅れたためであったことからすれば、会社は組合に対して配慮をすべきであったのであり、例えば、組合が7月15日に夏季一時金を仮払いするよう要求したことに関しても、むしろ会社から同様の提案を行ってもおかしくなかったと考えられる。
 それにもかかわらず、会社はこのような提案をしなかっただけでなく、当該仮払いの要求にも応じなかったのであるから、本件団交における会社の対応は不誠実であったと評価するのが相当である。
 また、7月12日の時点で支給日の前の団交は実質的に無理であることは明らかであったこと等からすれば、上記文書は組合に対し、夏季一時金を同月15日に支給する代わりに団交を断念するか、組合員だけ支給日を遅らせるかのいずれかを選ぶよう無理強いしたに等しいものと解される。特に団交を一度も開催しないで会社の回答に同意するという選択肢を提示していることから、会社には団交の重要性に係る認識が欠けていると評価すべきである。かかる会社の対応は、組合を軽視し、団交を通じて労働条件の向上を図ろうとすることを阻害し、その団結力を弱体化させるものであるとの批判を免れることができない。
 以上のとおりであるから、本件団交における会社の対応は労組法7条2号及び3号に該当する不当労働行為であると判断する。
5 組合活動に関する通知書の交付及び文書の掲示について
 会社が組合への通知書の交付にとどまらず、「違反した者は厳重に処分する」という威嚇の要素を含む文書の掲示も行ったのは、前記1に記載のY1の発言と相まって、非組合員に対し、組合員が就業時間中に、又は会社の敷地内で組合活動をした場合には会社に通報するよう求めることで、組合員に非組合員の監視の目を意識させて組合の活動を萎縮させ、又は抑制しようとしたものであるとともに、非組合員の組合への加入をけん制しようとしたものと考えるのが相当である。したがって、かかる会社の行為は労組法7条3号に該当する不当労働行為であると判断する。 
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