労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  信州大学  
事件番号  長労委平成22年(不)第2号  
申立人  長野一般労働組合  
被申立人  国立大学法人信州大学  
命令年月日  平成24年8月31日  
命令区分  棄却  
重要度   
事件概要   被申立人法人の医学部教授で講座を管理運営する任務に就いていたX2は、平成21年8月、自らの行為がハラスメント行為であると法人の調査対策委員会により認定されたことに伴い、法人から医学部長付教授への異動及び講座の教室員との接触禁止を命じられた。同人は、同年9月、申立人組合に加入し、22年1月以降、同人に対する上記の措置の撤回等の問題に関し、組合と法人との間で9回にわたり団交が行われた。
 本件は、法人が(1)上記の団交において、①X2が行ったとされるハラスメントを具体的に明示することを拒否したこと、②ハラスメントの調査等に関する資料の提出を拒否したこと、③学長及び医学部長らの団交への出席を拒否したこと、(2)団交継続中にもかかわらず、④組合に諮ることなく、X2を「学長付教授」へ人事異動するなどしたこと、⑤懲戒処分に係る手続の進行を明らかにすることなく、また、懲戒理由を具体的に明示することなく、同人を懲戒解雇するなどしたこと、(3)22年10月に開催を予定していた第10回団交について一方的に開催を拒否する旨通知した上、組合が同月25日付けで申し入れた団交を拒否したことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 長野県労委は、申立てを棄却した。  
命令主文   本件申立てをいずれも棄却する。  
判断の要旨  1 団交において、本件ハラスメント行為について具体的に特定・明示しなかったこと等について
 被申立人法人は、申立人組合の要求を拒否した理由として、①ハラスメントの調査手続にかかわる事実や 文書は基本的に非公開とされなければならないこと、②ハラスメント防止規程に従って、組合員X2に対して適正な範囲内で事実の開示をしたことを主張する。①については、ハラスメント防止等に関する制度を実効あらしめるために要請されるものであることを考慮すると、必要な措置であると理解される。また、②については、法人の調査対策委員会はX2に対し、ハラスメント行為を相当程度具体的に摘示していることが認められるのであって、それは当然組合も了知していたものというべきである。以上のとおりであるから、法人の主張は組合の要求を拒否する理由として相当であると判断される。
2 学長及び医学部長らの団交への出席を拒否したことについて
 法人の団交出席者は、副学長である総務・人事労務担当理事Y2、総務部長、人事課長及び弁護士等であり、その職務分担からみて交渉権限に問題はみられない。ちなみに、Y2は第1回団交の冒頭において、自らが団交における権限を委任されている旨回答している。また、Y2の出席では足りず、学長らの出席がないために交渉に支障が生じていたという具体的事情は認められない。以上のとおりであるから、法人が学長らの出席を拒んだことを不誠実であったということはできない。
3 X2の「学長付教授」への人事異動に係る団交における対応について
 組合は、X2の医学部長付教授への人事異動撤回要求に関し、団交において協議中であったにもかかわらず、学長付教授への人事異動について組合に事前通知をせず、抜き打ち的に強行したことは団交を無意味にするものであり、不誠実な交渉態度であると主張する。
 しかし、組合員の人事異動について労組と協議中である場合に使用者がさらに当該組合員の人事異動を行おうとするときは事前に労組に通知することが好ましいと思われるものの、労組と協議中であることが使用者に積極的に事前の通知を行うことを義務づけるものとまでは思料されない。
 その他本件労使関係においては、法人から組合に対して当該人事異動について通知し、団交事項として提起すべき特段の事情は認められない。したがって、法人に団交を無意味にするような不誠実な交渉態度があったということはできない。
 一方、組合が当該人事異動を含む交渉事項について団交の開催を求めたところ、法人は組合が団交の開催方法について当委員会にあっせん申請を行っているので、その終結を待って団交に応じる旨回答したことが認められる。しかし、たとえあっせんが継続中であっても団交を求めることには何ら差し支えがなく、使用者は正当な理由がない限りこれに応じなければならないことは明らかである。したがって、法人の上記の対応は正当な理由のない団交拒否である。
4 X2に対する懲戒解雇処分に係る団交における対応について
 特段の事情がない限り、使用者には、組合員の懲戒手続の進行について、労組に積極的に通知する義務があるとまではいえない。また、このほかにも本件労使関係において、法人が組合に対し、懲戒手続について通知しなければならない特段の事情はみられない。
 懲戒解雇理由に該当する行為の明示に関しては、X2に対しては懲戒規程の定めに従って通知されていることが認められ、それは当然組合も了知していたものというべきである。
 以上のとおりであるから、法人に団交を無意味にするような不誠実な交渉態度があったということはできない。
 一方、組合が当該懲戒処分等を議題とする団交の開催を申し入れたこと対し、法人が労働委員会のあっせん終結を待って団交に応じるとしたことは、正当な理由のない団交拒否である。
5 平成22年10月25日付けで申し入れた団交を拒否したことについて
 法人は組合に対し、X2が裁判所に地位保全等仮処分命令申立てを行ったことを理由に同申立ての確定まで団交を中断する旨通知したことが認められるが、団交事項について訴訟等が提起されたとしても、なお当該問題等について労組が使用者に対し団交を求めることは何ら差し支えないものである。
 しかし、本件団交において組合と法人の主張が対立し、いずれかの譲歩により交渉が進展する見込みがなく、団交を継続する余地がなくなっていれば、法人には以後の団交を打ち切る正当な理由があったものということができる。本件団交の経過をみると、9回の交渉が重ねられる間に全体として行き詰まりの状態に到達していたものというべきである。したがって、法人が第10回団交を拒否したことには正当な理由があったと判断される。
6 結論及び救済について
 前述のとおり、法人がX2の学長付教授への人事異動等についての団交及び懲戒処分等についての団交を拒否したことは、正当な理由のない団交拒否である。しかし、前者については同人の懲戒解雇が撤回され大学教授の身分が回復されない限り、交渉する意義がないこと、また、後者についてはその後団交が再開されたことにより団交拒否が是正されていることなど諸般の事情に鑑みれば、上記団交拒否について具体的に救済措置を命じるまでの必要性は認められない。  
掲載文献   

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