労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  富山交通 
事件番号  富労委平成23年(不)第1号 
申立人  富山交通労働組合 
被申立人  富山交通株式会社 
命令年月日  平成24年1月24日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   被申立人会社が①17時を経過したことを理由に団交を一方的に打ち切ったこと及び団交に誠実に応じなかったこと、②団交の席上や社内報において申立人組合のストライキを非難し、組合役員の人事に関する発言をするなどして、組合の組織及び運営に介入したこと、③タクシー乗務員であった組合員X2を運転課から総務課に配置転換し、退職勧奨するなどしたことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 富山県労委は、会社に対し、誠実団交応諾、支配介入の禁止及び文書の手交・掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。  
命令主文  1 被申立人富山交通株式会社は、申立人富山交通労働組合の平成22年3月12日付け申入書に記載の議題及び同年7月8日から同年9月28日にかけて申入れのあった組合員X2に対する人事異動に関する団体交渉について、17時を経過したことを理由に拒否することなく、速やかに誠意をもって応じなければならない。
2 被申立人は、申立人が行なった争議行為を強く批判したり、団体交渉の席上において申立人の役員の交代を求めるとの発言をするなどして、申立人組合の組織及び運営に支配介入してはならない。
3 被申立人は、本命令書写し交付の日から1週間以内に、下記の文書(大きさはA4判とすること)を申立人に手交するとともに、これと同一の内容をA3判の白紙に楷書で明瞭に記載して、被申立人の本社事務所の組合員の見やすい場所に2週間掲示しなければならない。(文書の年月日は手交または掲示する日を記載すること。)
平成 年 月 日
 富山交通労働組合
  執行委員長 X1 様
富山交通株式会社
代表取締役 Y1
 当社が行なった下記の行為は、富山県労働委員会において、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されましたので、今後このような行為を繰り返さないようにします。
 1 当社が、貴組合から申入れのあった平成22年4月15日及び同月22日付け平成22年春闘要求に関する団体交渉について、17時を経過したことを理由に拒否したこと。
 2 当社が、貴組合から申入れのあった平成22年7月12日、同月27日、同年8月11日、同年9月9日及び同年10月15日付け貴組合の組合員に対する人事異動の撤回と職場復帰に関する団体交渉について、十分な説明や、適切な資料を掲示することなく、不誠実な対応をしたこと。
 3 当社が、貴組合に対して、平成22年春闘要求に関する団体交渉の席上や社内報(平成22年5月1日付富タク新聞第310号)で、ストライキや組合活動を批判し、貴組合の組織及び運営に支配介入したこと。

4 申立人のその余の申立ては、棄却する。  
判断の要旨  1 被申立人会社は、正当な理由なく団交を拒んだといえるか。
 会社が提出した証拠からは、17時以降に団交を行った場合、タクシーの稼働台数の減少は見られるものの、直ちに売上げ減少が生じるとはいえず、また、空車率が他の時間帯と比較して低くなるとはいうものの、3割近くから4割を超える空車があることが認められる。したがって、17時以降に団交を行ったとしても、配車のやり繰りなどによって対応することは可能であり、会社の営業利益が損なわれるとは認められない。よって、17時以降の団交拒否に正当理由は認められない。会社は、客に対する信用の失墜が非常に大きいと主張するが、団体交渉権や団体行動権は組合の権利として法的に認められており、一般人にとっても周知の事実であるから、団交が17時以降に行われ客に迷惑がかかることがあったとしても、直ちに客に対する信用が失墜すると認めることはできない。
 また、ストライキが配置されているにもかかわらず、17時以前であれば毎日でも交渉に応じるとの理由で、ストライキ前日の交渉を17時で打ち切る会社の主張には正当な理由は認められない。
2 組合員X2の人事異動に関する団交における会社の対応は不誠実団交に当たるか。
 X2の人事異動は、賃金に変更を及ぼすものであり、労働協約第24条によれば、組合と協議しなければならない。しかし、会社は組合との事前協議を行わず、団交においても、組合が要求したにもかかわらず、人事異動の具体的理由すら明らかにせず、同人を乗務員不適格と判断した資料等も一切提出しなかった。このような会社の対応からは、組合と真摯に話し合う姿勢は見られず、団交において誠実に交渉を行ったと認めることはできない。
3 会社は組合の組織及び運営に介入したか。
 会社の代表取締役社長Y1は、組合がストライキを実施したことを強く批判し、かつストライキの実施を理由に組合役員の交代等を要求したことが認められるが、組合の役員交代を主張し、組合員から信任を取らなければ交渉に応じられないなどと発言することが、組合の組織・運営に対する支配介入であることは明らかである。
 会社は、組合のストライキ実施から6日後に行われた団交において、ストライキにより営業収入が減少したという理由で、これまでの交渉で提示してきた賃金を若干改善するとの主張を白紙撤回するとともに、一時金支給に関する協定の実施を停止すると組合に通告した。しかし、ストライキを実施したからといってプラス回答を撤回するほどの損害を会社に与えるとは考えられないし、さらに一時金支給に関する協定の実施も停止するといった会社の対応はストライキを否定するための措置、あるいはストライキに対する報復的措置と考えられ、組合活動に対する支配介入にほかならない。
 ストライキは会社に損害を与え、労働条件を低下させる、悪いことであるといった内容の記事を社内報に掲載するとともに、乗務員全員を対象とした研修会において読み上げることは、組合員に対してストライキを実施してはいけないと直接働きかけることにほかならず、このようなY1の言動は組合活動に対する支配介入にほかならない。
4 会社は、X2に対し、組合員であることや労組の正当な行為をしたこと故の不利益な取扱いをしたか。
 X2は、平成22年6月5日、後方確認不足により電柱に衝突する事故を起こし、出勤停止3日間の処分を受け、また、同月27日のドライブレコーダーに一旦停止に違反する走行の危険映像が記録されており、教育指導と厳重注意を受けた。さらに、翌28日のドライブレコーダーには15件の映像記録があった。これを受け、会社の統括運行管理者は、X2が入社以来15件の事故を惹起していることも考慮し、同人に運行停止を命じた。会社がX2の人事異動を行ったのは、このような経過からタクシー乗務員として不適格だと判断したことが理由であって、組合活動をした、あるいは組合員であったからではないと認められる。
 また、X2は以前、組合の運転支部執行委員を務めていたが、その当時、特に会社に敵対するような発言は行っておらず、その他同人の行動が会社を困惑させるような事実もなかったことが認められる。また、総務課への人事異動は、同執行委員を辞めてから約1年半を経過していること、その間、同人が組合活動を行うことによって会社側とトラブルを起こしたことはなかったこと等からすれば、会社が同人の組合活動を問題視していなかったと考えることが合理的である。
 会社の主張、すなわちX2の事故等に係る上記のような事実に加え、事故歴も考慮して、会社が運行停止と判断したのであって、同人の組合活動などとは無関係であるという一連の経緯の主張には、その是非は別として、不合理な点は認められない。よって、本争点については、不当労働行為とは認められない。  
掲載文献   

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