労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  萬世閣 
事件番号  平成21年道労委(不)第13号 
申立人  萬世閣労働組合 
被申立人  株式会社萬世閣 
命令年月日  平成23年1月14日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   ①被申立人会社の社長が就業規則変更のための社員集会において申立人組合の執行委員長を威嚇したこと、②会社が支配人等に従業員の組合参加の有無等を確認するよう指示書を送ったこと等、③会社が就業規則改訂等のための従業員代表者選任手続を、組合が中止するよう抗議したにもかかわらず、強行したこと等、④会社の調理長が組合員2名に対し、組合員の提訴した時間外手当等請求訴訟を取り下げるよう求めたこと等、⑤会社が組合の執行委員長を降格したこと、⑥会社が社員集会において、時間外手当の請求権を放棄することに同意した者に3万円を支給して誓約書兼解決金受領書に署名させたこと、⑦会社が組合員X8の定年後の再雇用を拒否したことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 北海道労委は、会社に対し、①ア 支配人等に従業員の組合参加の有無を確認するよう指示する、イ 調理長が組合員に組合脱退を働きかける、ウ 調理長が組合員に組合脱退届のひな形を教示する、エ 過去の残業代を放棄するよう提案した社員集会への従業員の参加を呼びかけ、合意書への署名を求めるなど、組合の運営に支配介入しないこと、②組合の執行委員長に対し降格処分をし、組合員に対し組合活動を故とする不利益取扱い及び組合に対する支配介入をしないこと、③組合の執行委員長に対する降格処分がなかったものとして取り扱い、原職(相当職)に復帰させること等、④団交継続中に組合が反対しているにもかかわらず、さらなる交渉を行わず、就業規則改訂手続を行うなど不誠実な団交をしてはならず、組合に対し支配介入をしないこと、⑤組合員X8に対し再雇用を行わない旨を通告し、組合員に対し、組合活動を故とする不利益取扱い及び組合に対する支配介入をしないこと、⑥文書の掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。
命令主文  1 被申立人は、支配人等にファクシミリで従業員の組合参加の有無を確認するよう指示をし従業員と面談させるなど申立人組合の運営に支配介入してはならない。
2 被申立人は、Y2料理長が申立人組合のX2組合員及びX3組合員に対し、会社とけんかしない方がいいなどと発言し、組合脱退を働きかけるなど、申立人組合の運営に支配介入してはならない。
3 被申立人は、Y3料理長が申立人組合のX4組合員、X5組合員、X6組合員、X7組合員、X8組合員に対して、組合脱退届のひな形を教示するなど、申立人組合の運営に支配介入してはならない。
4 被申立人は、申立人組合のX1執行委員長に対し平成21年4月8日付けで顧問解任による降格処分をし、組合員に対し、組合活動を故とする不利益取扱い及び組合に対する支配介入をしてはならない。
5 被申立人は、申立人組合のX1執行委員長に対する平成21年4月8日付け顧問解任による降格処分がなかったものとして取り扱い、原職又は原職相当職に復帰させなければならない。また、同解任から原職復帰までの間に、同人が受けるはずであった解任時の役職手当(月額1万5千円)の全額を支払わなければならない。
6 被申立人は、3万円の支払いで過去の残業代を放棄するよう提案した社員集会の開催に当たり、申立人組合のX1執行委員長を除外して他の従業員へ参加を呼びかけ、合意書への署名を求めるなど、組合活動への支配介入をしてはならない。
7 被申立人は、団体交渉継続中に申立人が反対しているにもかかわらず、さらなる交渉を行わず、就業規則改訂手続を行い、就業規則を改訂し、実施するなど、不誠実な団体交渉をしてはならず、組合に対し支配介入をしてはならない。
8 被申立人は、申立人組合のX8組合員に対し平成21年10月1日付けで再雇用を行わない旨を通告し、組合員に対し、組合活動を故とする不利益取扱い及び組合に対する支配介入をしてはならない。
9 被申立人は、次の内容の文書を縦1メートル、横1.5メートルの大きさの白紙にかい書で明瞭に記載し、被申立人の本社従業員出入口の見やすい場所に、本命令書写しの交付の日から7日以内に掲示し、10日間掲示を継続しなければならない。

 当社の次の行為は、北海道労働委員会において、労働組合法第7条第1号、第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにします。
1 当社が、支配人等にファクシミリで従業員の組合参加の有無を確認するよう指示し従業員と面談させるなど貴組合の運営に支配介入したこと。
2 当社が、Y2料理長をして貴組合X2組合員及びX3組合員に対し、組合脱退を働きかける発言をするなど、貴組合の運営に支配介入したこと。
3 当社が、Y3料理長をして貴組合X4組合員、X5組合員、X6組合員、X7組合員、X8組合員に対して、組合脱退届のひな形を教示するなど、貴組合の運営に支配介入したこと。
4 当社が、貴組合のX1執行委員長に対する平成21年4月8日付けで顧問解任による降格処分を行い、組合員に対し、組合活動を故とする不利益取扱い及び貴組合への支配介入を行ったこと。
5 当社が、貴組合のX1執行委員長を除外して、3万円の支払いで過去の残業代を放棄する提案を行い、合意書への署名を求めるなど、貴組合への支配介入を行ったこと。
6 当社が、団体交渉継続中に貴組合が反対しているにもかかわらず、さらなる交渉を行わず、就業規則改訂手続を行い、就業規則を改訂し、実施するなど、不誠実な団体交渉をし、貴組合の運営に支配介入したこと。
7 当社が、貴組合のX8組合員に対する平成21年10月1日付けで再雇用を行わない旨を通告し、組合員に対し、組合活動を故とする不利益取扱い及び貴組合への支配介入を行ったこと。

 平成 年 月 日 (掲示する初日を記入すること。)

 X労働組合
  執行委員長 X1 様
株式会社Y
代表取締役 Y1

10 申立人のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 社長の威嚇発言について
 組合は、就業規則改訂についての従業員代表者からの意見聴取手続を強行しようとする会社に対して抗議を表明した執行委員長に社長が威嚇をしたとするが、社長の「どのように思おうと自由であるが、正式な手続を踏んでいるのだから、手続を妨害するんじゃない」という発言それ自体を組合への威嚇ないし組合蔑視の発言と認めることはできない。
2 ファクシミリによる支配人らへの指示について
 特に組合結成直後の時期に、会社が支配人らに組合主張に関する事実が虚偽であることなどについて従業員に直接話をし、その反応等を記録し、さらに周りの者に間違ったことを考えたりする者がいたら諭すように指示をし、これを受けて役員が個々の従業員と面談したことは、組合員への圧力となり組合への支配介入に当たる。
3 料理長が訴えの取下げ等を求めた発言、及び会社が組合脱退手続等を教示したことについて
 料理長は組合員2名に訴訟取下げを働きかけた際に、会社とけんかしない方がいいなどと発言しており、組合が主体となって追行していた訴訟の取下げを働きかけることにより、組合の運動基盤を切り崩すことを意味すると解される。よって、当該料理長による働きかけは、組合への支配介入に該当する。
 料理長が複数の組合員に組合脱退等の文言を教示したことは、調理部門の労務・人事管理の責任者であるにもかかわらず、脱退届の作成にまで関与するものであり、組合脱退の勧奨として支配介入に当たり、尋ねられたから答えたまでで不当労働行為ではないとする会社主張は認められない。
4 執行委員長の降格について
 会社は、組合の執行委員長に対し顧問職を解任した理由について、同人が顧問職の職務を行わなかったこと及び組合ができたときに使用者側に立って対策をすべきところ行わなかったこと等により信頼関係が破壊され、形骸化したため、顧問職を廃止した結果であるとしている。しかし、同人の顧問職は、直接的な人事権も持たず経営上の機密を扱うものでもないから、組合に加入し組合活動を行うこと自体は顧問職の立場と矛盾しない。したがって、組合対策を行わなかったから信頼関係が破壊されたとする会社の主張は理由にならない。また、同人が顧問職の職務を行っていなかったから形骸化したとの理由は、そもそも顧問職の職務内容が明確にされていなかったため、何をもって形骸化したとするかが不明であり、認められない。以上からすると、本件降格には相当な理由が認められず、会社の組合嫌悪の意思も顕著であり、労組法7条1号の不利益取扱いに当たり、同時に同条3号の組合への支配介入に当たる。
5 就業規則改訂について
 就業規則の主要な改訂点は、給与規程の変更と変形労働時間制の施行という重要な労働条件にかかわるものであるにもかかわらず、団交は2回行われたのみであり、第2回団交の席で組合が反対し、再質問すると表明している中で、その翌日に労働者代表者を選任し、意見聴取手続を進め、即日就業規則を改訂したことが認められる。したがって、議論が尽くされたものとは到底いえず、十分な説明もなく改訂を実施したことは不誠実団交であり、労組法第7条2号に該当し、かつ、組合軽視として同条3号の組合への支配介入に当たる。
6 3万円で過去の債権を放棄する合意書への署名働きかけについて
 会社は、組合からの未払い残業代請求拡大の予告を受け、訴訟の拡大を防止する意図をもって、その場で3万円を支払うことにより従業員に過去の残業代の債権放棄をする合意書への署名を働きかけたと解するのが自然である。そして、未払い残業代に関する団交が打ち切られ、個々の組合員が請求訴訟を提起することとしたという経緯からして、組合が主体的に追行していた訴訟の取下げを働きかけることは、組合の運動基盤を切り崩すことを意味すると解されるから、労組法第7条3号の支配介入に当たる。
7 組合員X8の再雇用拒否について
 会社は、改訂された就業規則上、退職予定者が再雇用を求める場合は定年予定日の3か月前までに会社に再雇用を希望する意思を表明しなければならないのにX8がこれを行わなかったことを理由に同人を再雇用しなかった。しかし、再雇用の意思確認について一定のルールを定めていないこと、定年退職した従業員に明確に意思確認をしたとの事実も明らかではないことなどから、会社が新たに再雇用制度を設けるに当たり、本来必要な適切な配慮をしていた形跡がないことが認められる。また、X8には再雇用を求める意思があると窺われる事情があり、会社も承知していたことが認められる。にもかかわらず、会社が就業規則の規定をことさらに厳格に適用してX8を再雇用しなかったのは、同人が一度組合を脱退した後に社長と面談し、一度は組合をやめると言いながら、その意を翻し、組合に留まり訴訟を継続していることなどから、特に同人を標的とし、報復として再雇用を拒否したものと解するのが相当である。したがって、会社がX8の再雇用を拒否したことは、組合員であるが故の不利益取扱いであり、かつ、組合に対する支配介入である。 
掲載文献   

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