概要情報
事件名 |
トーキン工業 |
事件番号 |
都労委平成21年(不)第84号 |
申立人 |
全日本金属情報機器労働組合、同東京地方本部、同トーキン工業支部 |
被申立人 |
トーキン工業株式会社、株式会社ユキ・エンタープライズ |
命令年月日 |
平成22年12月21日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
かねてから経営状況が悪化していた被申立人会社Yは、申立人組合との協定において企業倒産にかかわる私的・法的手続の申立て等については組合と事前に協議し、同意を得て実施すると定められていたにもかかわらず、平成21年10月1日、組合との協議を行うことなく、破産手続開始の申立てをする予定であるとして、事業停止及び従業員全員の解雇を行った。また、その後10月5日に会社代理人弁護士が組合との話合いに応じたが、Yはそれ以降組合からの団交申入れに応じなかった。組合はYの子会社である被申立人会社Y2にも団交を申し入れたが、同社はこれに応じなかった。
本件は、(1) Yが申立人組合との労働協約に基づく事前の協議・合意なしに事業停止及び従業員の解雇を行ったことは、組合員に対する不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるか、(2) その後の団体交渉申入れに対するY及びY2の対応は団体交渉拒否及び組合員に対する不利益取扱いに当たるかが争われた事件である。
東京都労委は、Yに対し文書交付及び履行報告を命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 被申立人トーキン工業株式会社は、申立人全日本金属情報機器労働組合、同全日本金属情報機器労働組合東京地方本部及び同全日本金属情報機器労働組合東京地方本部トーキン工業支部に対し、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を交付しなければならない。
記
年 月 日
全日本金属情報機器労働組合
中央執行委員長 A 殿
全日本金属情報機器労働組合東京地方本部
執行委員長 B 殿
全日本金属情報機器労働組合東京地方本部トーキン工業支部
執行委員長 C 殿
トーキン工業株式会社
代表取締役 D
当社が、平成21年9月29日、貴組合との秋闘の回答確約交渉において、当時既に事業停止及び破産手続開始の申立てをすることを決定していたにもかかわらず、秋闘回答日を同年10月6日とし、雇用を守ることを絶対条件と考えていると話したこと、及び同年10月1日以降における貴組合による団体交渉申入れを拒否したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)
2 被申立人会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
3 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 本件解雇は、組合員に対する不利益取扱い及び組合への支配介入に当たるか。
申立人組合は、本件解雇が労働協約により取り決めた組合との合意を得ていないことはもとより、何らの協議も経ていないものであり、それ自体、組合の団体交渉権を侵害し、組合そのものを無視するものであって、法的にも無効であり、組合そのものを破壊する極めて明白な不利益処分であり、支配介入に当たると主張する。しかし、被申立人会社Yは赤字が累積し、業績の回復も見込めなかったこと等から清算を決意したという事情が認められること、全従業員を解雇していること、その後破産手続開始の申立てをし、同手続が進行中であることから、本件解雇をもって組合を排斥するために行ったとまで認めることはできない。したがって、労働協約により取り決めた組合との合意を経ていないことはもとより、何らの協議も経ていない解雇であっても、そのこと自体をもって、組合員であることを理由とする不利益取扱い又は支配介入に当たるとはいえない。
2 被申立人会社Y及びY2の対応は、団体交渉拒否に当たるか。
Yは、事業再開・解雇撤回を前提とする団交申入れについて、会社方針と相いれず、事業再開は絶対に不可能であり、破産管財人から否認権を行使されるリスクを考えれば和解金等を支払い、譲歩を引き出すという交渉を行うことは困難であり、いずれかの譲歩により交渉が進展する見込みがなく、団体交渉をする余地はないと判断し、団交に応じなかったものであると主張する。しかし、事業再開は絶対に不可能であることは、少なくとも、団交申入れの時点では客観的に確定した事実ではなく、破産管財人から否認権を行使されるリスクについても、一つの可能性にすぎないから、Yの主張は直ちには採用できない。またYは、事業停止等を決めた経緯については当委員会に提出した書面を通じて明らかにしており、それ以上に組合に説明する必要はないと判断したと主張するが、当委員会に提出した書面で明らかにすることは団体交渉に代替するものとはいえない。
以上から、組合が度々団交を申し入れたにもかかわらず、Yがこれを拒否し続けたことは正当な理由がないものであって、不当労働行為に該当するといわざるを得ない。
Y2については、同社の従業員に組合員はおらず、同社が組合員の使用者の地位に立つとはいえないので、組合と協定を締結してはいても、団交に応じる義務を組合に対して負うものではない。
3 救済方法について
解雇の撤回等の問題については事実上実現が困難であり、また、事業停止等を決めた経緯については本件審査手続において一定程度明らかにされていることから、ここでYに団交応諾を命じるのは相当でない。一方、破産管財人の権限に属する事項に抵触しない範囲で、Yが団交に応じる義務は生じ得るとの可能性があるから、主文第1項のとおりとする。 |
掲載文献 |
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