労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名 正光会
事件番号 愛媛県労委平成21年(不)第1号
申立人 全国一般正光会労働組合宇和島分会
被申立人 財団法人正光会
命令年月日 平成22年6月4日
命令区分 一部救済
重要度  
事件概要 本件は、①被申立人法人が、愛媛労働局の是正指導を契機とした給食業務の変更について、業務区分の変更に過ぎないなどとして、申立人組合に説明することなく組合員らに説明したこと、及び組合が申し入れた本件業務変更に係る団体交渉に誠実に応じず、実質的に拒否したこと、②法人の副総看護長らが、組合員X1を業務命令で呼び出し、組合加入の理由等を聴取し、同時に、進学の意向を確認する言動を用いたことが不当労働行為に該当するとして、救済申立てがあった事件である。
愛媛県労委は、①本件業務変更に係る誠実団交応諾、②組合運営への支配介入の禁止、③文書の掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。
命令主文 1 被申立人は、平成21年7月1日から実施した給食業務の変更に係る団体交渉を申立人が申し入れた場合は、給食業務の変更は業務区分の変更に過ぎないなどとして説明を怠ったり、申立人から業務内容の変更に関して具体的に記載した資料の提示を求められた際に、これを拒否するなど、不誠実な対応をすることなく、申立人からの質問に対し、被申立人の回答の根拠を裏付けるに足りる資料を提示するなどして、誠意をもって応じなければならない。
2 被申立人は、申立人の組合員を個別に呼び出し、組合加入に関して威嚇的効果を与える言動を用いるなどにより、申立人の運営に支配介入してはならない。
3 被申立人は、給食業務の変更内容や変更時期に関して、申立人への説明前に、頭越しに申立人の組合員らに説明し実施するなど、申立人の運営に支配介入してはならない。
4 被申立人は、本命令書の写しの交付の日から7日以内に、縦55センチメートル、横80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で、下記のとおり明瞭に記載し、被申立人宇和島病院内の従業員の見やすい場所に7日間掲示しなければならない。(注:年月日は掲示した日を記載すること。)


平成 年 月 日
全国一般正光会労働組合宇和島分会
執行委員長 X2様
財団法人正光会 理事長 Y  印

当財団法人が行った下記の行為は、愛媛県労働委員会において、不当労働行為と認定されましたので、今後はこのような行為を繰り返さないようにいたします。


(1)貴組合から申入れのあった給食業務の変更に係る団体交渉において、給食業務の変更は業務区分の変更に過ぎないなどとして説明を怠ったり、貴組合から業務内容の変更に関して具体的に記載した資料の提示を求められた際に、これを拒否するなど、不誠実な対応をしたこと。
(2)貴組合の組合員であるX1を個別に呼び出し、組合加入に関して威嚇的効果を与える言動を用いたこと。
(3)給食業務の変更内容や変更時期に関して、貴組合への説明前に、頭越しに貴組合の組合員らに説明し実施したこと。
以上
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5 申立人のその余の申立ては、これを棄却する。
判断の要旨 1 労組法7条2号(団交の拒否)関係
組合が申し入れた本件業務変更に係る団交について、法人の対応は、正当な理由がなく実質的に団交を拒んだものであったか。
(1)法人に事前に協議・団交を行う義務があったか。
ア 組合は、本件業務変更が労働条件の変更であり、平成9年の労使協定で定める団交事項に該当し、また、協定上の交渉事項については「合意してから実施すること」を基本とする旨の事実上の合意が成立していると主張する。これに対し、法人は、かかる事実上の合意はなく、事前に協議・団交する義務はないと主張する。
労組法は、使用者に団交申入義務があることを明記しておらず、特段の事情がない限り、使用者が団交申入義務を負うとはいえない。本件においては、特段の事情として、組合が主張する事実上の合意があったとまでは認めがたく、法人に事前に団交を申し入れる義務があったとまではいえない。
イ しかし、本件業務変更は愛媛労働局からの是正指導の結果という特殊事情があった中で、法人は、組合や組合員の協力を得て、適法・適正な労働環境形成に努力すべきであり、その出発点として、本件業務変更に至った理由及び検討中の変更内容について、早急に組合に説明すべきであったといえる。
しかるに法人の対応は、業務内容の変更について組合に説明することなく、組合員らに直接説明したばかりか、これに組合が抗議した直後に、業務変更予定日の延期を再度組合の頭越しに組合員らに伝えたというもので、このような法人の態度は、組合を無視したものであり、あるべき労使関係からは程遠いものであると評価せざるを得ない。
ウ 法人は、本件業務変更は具体的な労働条件の変更ではなく、業務区分の変更にすぎず、事前に協議・団交する必要はないと主張する。しかし、本件業務変更が協定で定める交渉事項に該当することについては争いはなく、そうであれば、法人は団交の申入れがあれば、誠実に応じる必要があることは当然である。法人の主張は、団交の申入れに誠実応諾したかという問題と、法人として事前協議を行う必要があるかどうかという問題を混同したものであり、失当である。
(2)法人の対応は、正当な理由なく実質的に団交を拒んだものであったといえるか。
法人は形式的には組合の団交申入れに応じるものの、本件業務変更に関する組合の説明要求や資料の提示要求に対して、組合が十分に理解できるように配慮ある対応をしたとは認められず、合意達成の可能性を模索したものと解することはできない。また、これらの法人の対応が、労組法7条2号にいう「正当な理由」に基づくものであったとも認められない。
よって、法人の対応は、極めて不誠実なものであり、正当な理由なく実質的に団交を拒んだものとみるのが相当であり、労組法7条2号に該当する。
(3)本件申立て後、法人は、組合の要求した資料を提示・交付するなどして団交に応じている旨主張するが、本件申立て後においても、誠実な団交が行われたものとは評価できないので、これら団交の開催をもって、組合の被救済利益が消滅したとは認められない。
2 労組法7条3号(支配介入)関係
(1) X1に対する副総看護長らの言動は、支配介入に該当するか。
法人の副総看護長らが行ったX1との面談の真の目的は、組合加入により不利益が及ぶ可能性があることを示すことにあり、強い反組合的意思の下に行われたものと判断するのが相当である。また、法人理事長の了解の下で看護部門を統括する副総看護長が面談を行っている以上、当然に法人に帰責しうるものである。
従って、本件面談は、法人の反組合的意思の下に行われたと判断せざるを得ず、X1に威嚇的効果を与えるとともに、この威嚇的効果により組合員の拡大を阻止し、組合の弱体化を図ったものとみるのが相当で、労組法7条3号に該当する。
(2) 本件業務変更について、法人が、組合への説明前に、組合員らに対して説明し実施したことは、支配介入に該当するか。
法人の事務長らが組合の頭越しに組合員らに本件業務変更を説明したことは、組合の団交権を形骸化させるとともに、自主性を阻害することにより、組合の弱体化を図ったものとみるのが相当である。また、事務部門を統括する事務長が団交及び組合員らへの説明を主導していることからすれば、事務長らの行為は法人に帰責されるべきである。
よって、法人の行為は、組合に対する支配介入であり、労組法7条3号に該当する。
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