労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  南労会(組合役員懲戒解雇)  
事件番号  東京地裁平成23年(行ウ)第116号  
原告   全国金属機械労働組合港合同
全国金属機械労働組合港合同南労会支部  
被告   国(処分行政庁:中央労働委員会)  
被告補助参加人   医療法人南労会  
判決年月日   平成24年12月3日  
判決区分   棄却  
重要度   
事件概要  1 法人が、①X1分会委員長ら組合役員3名に対し、同人らが勤務時間変更に伴う法人の業務指示に従わず、組合員に変更前の勤務時間に基づく就労を続ける旨指示したことにより、診療所の業務に混乱を来したことなどを理由として懲戒解雇処分(以下「本件懲戒解雇」という。)としたこと、②本件懲戒解雇に関して誠実な団体交渉を行わなかったことが、不当労働行為に当たるとして、大阪地労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審大阪地労委は、①組合役員3名の本件懲戒解雇は、労組法7条1号及び3号に該当する不当労働行為であるとして、当該3名について懲戒解雇処分がなかったものとしての取扱い及びバックペイ、②本件懲戒解雇及び当該処分に関する団体交渉において不誠実な対応を行ったことについての文書手交を命じた。
 法人は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令が本件懲戒解雇を不当労働行為に当たるとした点は失当であるとして一部変更し、団体交渉拒否に係る文書手交を除く救済申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、組合らが、東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、組合らの請求を棄却した。
判決主文  1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。  
判決の要旨  1 X1分会委員長ら3名は、長期間にわたり、法人の業務命令に従わなかったのみならず、独自の勤務割に従って組合員らが就労することを主導したから、就業規則19条7号の「故意による行為で業務に重大な支障を来たしたとき」との懲戒解雇事由に該当する。
 組合らは、3年変更〔注;平成3年8月5日付け診療所の勤務時間等の変更〕前の勤務時間を基本とした勤務割による就労は、3年変更及び7年変更〔注;平成7年5月2日付け診療所の勤務時間等の変更〕がなかったものとして取り扱うことを命じた7.30命令〔注;平成9年7月30日付け大阪地労委による一部救済命令〕に法人が従わないという違法行為が原因となって生じたものであると主張する。
 しかし、①X1分会委員長ら3名の3年変更及び7年変更を無視した就労の指示は、懲戒事由とされた平成7年9月から7.30命令が発令された平成9年7月までに限っても1年11か月もの長期に及んでいるし、②7.30命令には私法上の効力はないから、7.30命令発令後にあっても法人の業務命令が直ちに無効になるものでもなく(3年変更及び7年変更が不当労働行為に当たるとの7.30命令の判断は後に取り消された。)、③ましてや支部に勤務割を決定する権限が付与されるものではないから、X1分会委員長ら3名の行為が就業規則19条7号に該当するとの判断が左右されるものではないし、7.30命令が発令されたことを社会的相当性の判断にあたって過度に重視することもできない。
 また、④就業規則19条7号は、業務に重大な支障を来したことを重大な損害を与えたことと並列的な要件として規定しているから、仮に3年変更前の勤務時間を基本とした勤務割に基づく就労によって法人に重大な損害を与えたことがなかったとしても、そのことが上記判断を左右することにはならない。
2 支部は、法人に反対の意見を伝える前に、行政窓口である〔大阪〕府国民健康保険課に対し、直接、法人によるデイケア事業を認めないように要求したり、理学療法士の免許証は提出したがデイケア事業の業務に就かない旨を告げたり、診療所玄関前等において第三者に対し法人によるデイケア事業の危険性を強調するビラを配付したりしているから、組合らの主張のように不当労働行為の是正や十分な安全対策を要求することを目的としたものとは認められず、法人によるデイケア事業を妨害すること自体を目的としたものとみるほかなく、こうした行為を正当な組合活動ということはできない。
 すると、これらを主導したX1分会委員長ら3名の行為は、就業規則17条2号の「職員としての品位、診療所の名誉、信用を失墜するような言動を行ったとき」の減給もしくは出勤停止の懲戒事由に該当する。
3 X1分会委員長及びX2分会副委員長の鍼灸受付簿の差替行為は、診療現場に混乱を生じさせただけでなく、既に来院していた患者や警察官等の第三者を巻き込んで、これらの者の診療所に対する信頼性を低下させるもので、正当な組合活動ということはできず、就業規則19条7号の「故意による行為で業務に重大な支障を来たしたとき」との懲戒解雇事由に該当する。
 組合らは、法人が3年変更及び7年変更がなかったものとして取り扱うことを命じた7.30命令に従うとともに、平成17年10月3日付け救済命令により不当労働行為と判断された11年変更〔注;平成11年5月6日付け勤務時間等の変更〕をなかったものとして、鍼灸治療受付時間及び鍼灸治療体制を一方的に変更していなければ、鍼灸受付簿の差替行為は起こらなかったものであり、法人の違法行為が原因となって生じたものであると主張する。
 しかし、法人が7.30命令に従っていないことによる是正は法律の枠内で行われるべきものであって、鍼灸受付簿の差替行為という実力行使に及ぶことが正当化されるものでないことは当然であるから、法人が7.30命令に従っていないことは上記判断を左右するものではない。
4 たとえ支部が理事の言動等から法人が診療所を閉鎖する計画を有しているのではないかと危惧したとしても、法人は診療所を閉鎖する計画はない旨を対外的に表明し、支部に対し患者から問合せが殺到している旨の具体的弊害を示した警告書を発しているから、支部の診療所閉鎖に反対する署名活動等は、診療所の名誉、信用を失墜させる行為であり、正当な組合活動ということはできない。
 すると、これらを主導したX1分会委員長ら3名の行為は、就業規則17条2号の「職員としての品位、診療所の名誉、信用を失墜するような言動を行ったとき」の減給もしくは出勤停止の懲戒事由に該当する。
5 X1分会委員長ら3名が法人の許可を受けることなく診療所5階倉庫を組合集会のために使用した行為は、法人の施設管理権を侵害するものであって、正当な組合活動とは認められず、これらを主導したX1分会委員長ら3名の行為は、就業規則18条3号の「診療所の施設を許可なく私用に供したこと」の諭旨解雇事由に該当する。
 なお、組合ら主張の診療所5階倉庫を集会室として利用することを認める従前からの労使慣行が存在したことは認められない。
6 そして、法人は、本件懲戒解雇に先立って、賞罰委員会を開催し、その答申を受けており、また、処分対象者のX1分会委員長ら3名に対し意見・釈明等を提出する機会を設け、現にX1分会委員長ら3名連名の意見書を参考資料として取り扱ったことが認められるから、法人は、就業規則上の手続も履践したということができる。
7 以上によれば、X1分会委員長ら3名には、懲戒事由があり、それらの態様や結果等に照らすと、X1分会委員長ら3名が組合員であるか否かを問わず懲戒解雇とすべき行為を行ったものというほかないから、本件懲戒解雇が、X1分会委員長ら3名の正当な組合活動等を理由として行われた不利益取扱いということはできないし、その処分時期等を勘案したとしても、これをもって専ら組合らの弱体化を企図したものとも認められない。
 したがって、本件懲戒解雇が労組法7条1号及び3号の不当労働行為に当たらないと判断した本件命令に、事実誤認及び法律上の判断を誤った違法は認められない。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪地労委平成13年(不)第8号 全部救済 平成15年 5月22日
中労委平成15年(不再)第26号 一部変更 平成22年 8月 4日
 
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